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リモートワーク下における活力ある職場づくり 第2回

安心感の土壌をつくる

  • 公開日:2023/01/16
  • 更新日:2024/03/27
安心感の土壌をつくる

前回は「リモートワーク下の“職場” 変わったこと/変わっていないこと」と題し、職場を巡る変化についてお話をしました。重要なポイントとして「メンバー間のコミュニケーションが減り、職場での安心感の土壌が喪失しているのではないか」ということをお伝えしました。 第2回のテーマは「安心感の土壌をつくる」です。前回お話ししたとおり、安心感の土壌をつくる必要性・難易度は職場によって異なります。今回は難度が高い職場のエピソードを紹介しますので、自分の職場と比べてみてください。

“パソコンの前に8時間”
1.新人の立場に立つ
2.マネジャーとしてどうしたらよいか
エピソードの顛末
「安心感の土壌づくり」のポイント

“パソコンの前に8時間”

今回のエピソードは、インターネット業界の会社が舞台になっています。平均年齢が30代前半で比較的若い人が多く、就業形態がフルリモートということが特徴です。安心感の土壌づくりについては比較的難度が高い会社群に入るといえます。新人を預かるあるマネジャーから聞いた話です。

「うちの新人は、何か仕事をお願いしたら、“具体的にどう進めればいいですか?”とか“これってこれでいいですか?”と常に答えを求めてくるような人です。これはよくないと思って“1日8時間あるんだから、まずは自分で考えて”と伝えました。それ以来質問が減ったので、“お、いい感じになったかな”と思っていたんですけれど、それがとんでもない間違いでした。1人で考えようとは思ったらしいのですが、考えても答えが出ず、本当に毎日8時間パソコンの前に座り続けていたそうなんです。別のメンバーから“彼、やばいですよ”と聞かされて、確かに見るからにやつれていてメンタルがダウンする寸前だったんです」

皆さんがこのマネジャーだったら、どんなことを感じ考えますか?

“これは極端だよ”と感じたり、“○○する”とすぐに対処策を考えたりした方はちょっと注意してください。

具体的にどうするかの前に、まずは相手の立場に立って、この状態を想像してみることが大事です。自分目線では気づかないことも、相手の立場に立つことで見えてくることは多いものです。

1.新人の立場に立つ

皆さんが新人の頃を思い出して考えてみてください。入社して以来フルリモートで、職場の雰囲気や先輩たちの人となりを知る機会はほぼありません。そのような環境のなかにいきなり放り込まれたうえに、これまでなら質問したら反応してくれていた上司から、急に手のひらを返したように「1日8時間あるんだから、まずは自分で考えて」と言われてしまう。

私が新人だったら、「上司は自分に関心がなくなったんだ、自分は何をしたんだろう?」とか「仕事の結果しか興味がないんだろうか?」というようなことが何度も頭をよぎり、1人で不安になって悶々としそうです。

2.マネジャーとしてどうしたらよいか

こうして新人の立場に立ってみると、マネジャーの人たちが思っている以上に新人は相当不安を感じやすいことが想像できます。そして不安が先行すると周囲からの働きかけをマイナス・警戒サインとして捉えてしまいます。ここで注意してほしいことは、マネジャーが良かれと思ってやった折角の行為が、かえって新人の不安状態を生みがちになるということです。

<図表1>メンバーの「不安」状態と不安状態を生みがちなマネジャーの行為(例)

<図表1>メンバーの「不安」状態と不安状態を生みがちなマネジャーの行為(例)

図表1は、そうしたマネジャーの行為をまとめたものです。皆さんも良かれと思ってしたことがかえってメンバーの不安状態を呼び起こしていないか確認してみてください。

そうした悪循環にならないためにどうしたらいいのか。エピソードの続きを紹介しましょう。

エピソードの顛末

「よくよく振り返ると、自分が新人の頃は上司と飲みに行って、酔いに任せて日頃感じている不満や不安を愚痴ってばかりいました。いくら飲みの席だからといっても、よくあれだけいろいろ聞いてくれていたなと思い出しまして。ひょっとしたら、新人の子もこちらが聞いてあげたら何か出てくるのかもしれないと思ったんですよ。これまでも2週間に1回1時間ほどオンラインで話す時間を作っていたんですが、どちらかというと私が伝えること・指示することで時間を使いきっていて、新人には最後に“で、何か質問ある?”と聞く程度になっていました。当然、何も質問は出てきません(苦笑)。そこで、その時間は彼が何を考えているか聞く時間にすると決めました。そのために、ミーティングに入る直前の3分を使って、自分の聞くモードを整えることにしました。『これからは聞く時間。彼にも思っていること・感じていることはある。だから少しでも話してくれたら“ありがとう、OK”と言う』と自分に言い聞かせる時間(笑)。実際に、ミーティングでは最初に“どんなことを感じているのか知りたい”と伝えました。初めのうちは結構沈黙が続いていたんですが、とにかく待っていたら、彼から小さな声で“何を言えばいいか分かりません”と言ってきたんです。“やった、話してくれた!”と思えたので“話してくれてありがとう! もう少し教えて”って。そんなことを続けていくうちにだんだん話が増えてきて、今は結構いろいろな話をしてくれるようになりました。なかには鋭い質問もあって、やっぱり蓋をしていたのは自分たちだったのかなと感じています」

さて、このエピソードから何が大切だといえるでしょうか?

「新人と話す時間を十分に取り、聞くことに徹した」

「話が出てきたら、まず“話してくれてありがとう”と伝えた」

ということでしょうか? 確かに大事なことです。でも、これだけなら、皆さんのなかにも“同じようなことをやったけどうまくいかなかった”という人もいることでしょう。同じ行為でも不安を生み出すときもあれば、そうならないときもあるのが現実。その差は一体どこにあるのか。分かれ目を見出すためにも、もう一度エピソードをご覧ください。

あらためて見てみると、具体的な行動の前に、以下の2つの姿勢を固めたことがポイントになっていることが浮かび上がってきます。


(1)自分の新人時代を思い起こし、“自分も新人の話を聞いてみたい”というマネジャー自身の育成姿勢
(2)“彼のなかにも思うこと、感じていることがあるはずだ”という新人の潜在的な思いを信じる姿勢

この姿勢が土台となって先ほどの行動が重なったので、新人が「自分のことを見てくれている、分かってくれている」という安心を感じられるようになり、だからこそ、新人から安心して話すようになったのだと思います。

「安心感の土壌づくり」のポイント

1 リモートワーク時代では、コミュニケーション機会、特にメンバー同士の交流機会が減り、メンバーはマネジャーが思っている以上に不安先行状態。せっかくのマネジャーの行為が悪循環を引き起こさないようにするためにも、「安心感の土壌づくり」は避けて通れない。

2 ポイントは、「メンバーが“自分のことを見てくれている、分かってくれている、育てようとしてくれている”と感じること」

3 まず、マネジャー自らが姿勢を固め、メンバーのなかにある潜在的な思いを信じること

マネジャーの姿勢

・マネジャーである前に、人と人。仕事・結果の前に「人としての存在感」を気にしよう

・メンバーのなかにある3つの思いを信頼しよう

 メンバーのなかにある3つの思い
  仕事をできるようになりたい
  役に立ちたい/喜ばれたい/期待に応えたい/責任を果たしたい
  自分なりの工夫をして仕事したい

・育てようという思いを中心に置こう

さて、今回のコラムをご覧になって、“これって新人だからでは? うちの職場はベテランが多いんだよ”とか“メンバーの思いといってもメンバーによってだいぶ変わるんじゃないか”という疑問を持った方もいることでしょう。メンバーによって考え・思いに濃淡があってそれによって関わり方が変わるのは事実です。そこで次回は「メンバーの持ち味をつかむ」ことをテーマに、まずはメンバーの考え・思いをつかむとは何か、そのために何をすべきかについて考えていきたいと思います。

執筆者

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コミュニケーションエンジニアリング部
エグゼクティブコミュニケーションエンジニア

河島 慎

1975年生まれ、三重県出身、 1998年、電機メーカーへ入社、人事・総務を約8年経験。
2004年、リクルートマネジメントソリューションズへ入社。以降、コミュニケーションエンジニアとして、人材価値経営(人・組織のもつ潜在的な可能性の最大化による事業価値最大化を図る経営)実現を支援している。

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