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自律的な学びの現場から トレーナー・講師インタビュー 第4回

「〈哲学的思考〉を学べば、既存の枠を超えた発想を生み出せるようになる」講師 小川仁志

  • 公開日:2022/09/12
  • 更新日:2024/05/16
「〈哲学的思考〉を学べば、既存の枠を超えた発想を生み出せるようになる」講師 小川仁志

公開型研修「リクルートマネジメントスクール」では、研修スキルと各分野の専門性の高さを兼ね備えた「トレーナー・講師」が受講者から人気を得ています。本連載では、トレーナー・講師の担当コースに対する考えや想い、感じていることなどを紹介していきます。また、自律的な学びの最前線で何が起きているか語っていただきます。 第4回は、3時間研修コースの「ビジネスに活かす哲学的思考」「ビジネスに活かす哲学的思考(倫理学編)」「ビジネスで活かす哲学的思考(課題発見編)」「ビジネスで活かす哲学的思考(アイデア創出編)」を担当する小川講師です。

講師プロフィール
哲学者・山口大学国際総合科学部教授 小川 仁志(おがわ ひとし)氏
京都大学法学部卒業、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。伊藤忠商事、フリーター、名古屋市役所を経た異色の経歴。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員などを経て現職。長年「哲学カフェ」を主宰。また各種メディアにて哲学の普及にも努めている。NHK「ロッチと子羊」に指南役として出演。著書も多く、ベストセラー『7日間で突然頭がよくなる本』(PHP研究所)や近著『不条理を乗り越える— 希望の哲学』(平凡社新書)などこれまでに約100冊を出版。

■ リクルートマネジメントスクールの担当コース
ビジネスに活かす哲学的思考 〜創造的問題解決のための「考え抜く力」を身につける〜(174)
ビジネスに活かす哲学的思考(倫理学編) 〜AI・DX・ニューノーマル時代の「倫理・正義」について考える〜(204)
ビジネスで活かす哲学的思考(課題発見編) 〜本質的な「課題発見」を導く哲学的な問いの立て方〜(207)
ビジネスで活かす哲学的思考(アイデア創出編) 〜斬新なアイデアを生み出す8つの発想法〜(220)

目次
3時間で学べる新しいビジネスツール「哲学的思考」
誰もが常識の枠を超えて考えた方がよい時代が来た
哲学的に考えるのは楽しい!

3時間で学べる新しいビジネスツール「哲学的思考」

――簡単な自己紹介をお願いします。

小川仁志氏1

小川:私は普段、哲学者として大学で教えたり、哲学カフェを主宰したりしています。私がライフワークとして特に力を入れているのは、学生やビジネスパーソンの皆さんに「哲学的思考」を伝えることです。哲学的思考とは、哲学特有のものの見方、考え方のことです。つまり、哲学を思考ツールとして活用しましょう、と提案しているのです。

3時間研修コース「ビジネスに活かす哲学的思考」は、リベラルアーツとして哲学を学ぶコースではありません。もちろん、これからのビジネスパーソンは、プラトンやカント、ハイデガーなどの哲学をリベラルアーツとして学ぶことも有益でしょう。ただ、それは3時間では難しい。私がお伝えしているのは、ビジネスツールとしての哲学的思考で、これなら3時間でも十分に学び、活用することができます。

世界を見渡すと、先見の明のある企業は、ビジネスツールとしての哲学をいち早く導入しています。有名なのがGoogleやAppleで、両社は哲学者を雇用して、社内で「哲学コンサルティング」を実践しています。私の取り組みも、こうした流れに沿ったものです。日本では、ビジネスツールとしての哲学を学べる場はまだまだ少ないはずです。貴重な場を提供できていると自負しています。

なお、この3時間研修コースは、あくまでも哲学的思考の入口であり、「哲学」という言葉から感じるような難しさはほとんどありません。また、私が皆さんをサポートしますので、言葉や概念を扱うのは苦手だ、という方も何の心配もいりません。ライブ感を重視した楽しい講座をいつも目指しています。最初は「哲学」と聞き、構えて参加する方が多いですが、3時間が終わる頃には毎回、笑いの絶えない場になります。「ビジネスに活かす哲学的思考」は、リカレント教育にも最適の講座だと思います。

――哲学的思考について、もう少し詳しく教えてください。

小川:一言で言えば、「常識の枠を超えて考える方法」です。古来、哲学者は常識を疑うところから考えを始め、「独自の概念」を生み出しながら思考を深めました。プラトンは「イデア」、カントは「物自体」、ハイデガーは「現存在」といった概念を創出しながら、考えを展開していったのです。哲学の歴史は2000年以上にわたる膨大な知の積み重ねであり、思考メソッドの宝庫です。

私の哲学的思考は、こうした哲学者の思考メソッドに倣って、「疑う→視点を変える→再構成する→言語化する」というサイクルで考える方法です。例えば、自社製品の存在意義や機能などをまず疑ってみる。次に視点を変え、再構成して言語化すると、既存製品を革新するようなアイディアが生まれてくる可能性があるのです。ごく簡単に言えば、これが哲学的思考です。詳しく知りたい方は、ぜひ3時間研修コースを受講してみてください。

小川仁志氏2

――各コースについて簡単に教えてください。

小川:ビジネスに活かす哲学的思考」では、哲学的思考の基礎を学びます。「ビジネスで活かす哲学的思考(課題発見編)」は哲学的に問いを立てて課題を見つける方法を、「ビジネスで活かす哲学的思考(アイデア創出編)」は哲学的なアイディア発想法を、より詳しくお伝えしています。

ビジネスに活かす哲学的思考(倫理学編)」だけは少し目的が違います。現代で最も有名な哲学者の1人、マルクス・ガブリエルは「倫理資本主義」を提唱し、アフターコロナにおいて企業は倫理部門を設けるべきだ、と提案しています。倫理的な企業こそが次のGAFA(米国の主要なIT企業群)になるというのです。私もその考えに同意します。そこで哲学の一領域である倫理学を学び、自分なりの倫理観、「自分なりのモーゼの十戒」(10カ条の戒律)をつくるのが、このコースの目的です。これも、今後のビジネスパーソンに必ず求められる思考法です。

誰もが常識の枠を超えて考えた方がよい時代が来た

――哲学的思考のポイントはどこにありますか?

小川仁志氏3

小川:特に重要なのが、「言語化=概念化」です。哲学的概念はドイツ語で“Begriff”といいますが、もともとは「掴む」という意味の言葉です。つまり、概念化とは、新しいアイディアを掴み取る、ということなのです。私たちは、最終的に言葉にしない限り、何かを考えたとはいえません。哲学的にアイディアを考えるとは、新しい言葉を生み出すことなのです。3時間研修コースの受講者の皆さんには、その創造的な営みを体感していただきます。

――なぜ今、哲学的思考が求められているのでしょうか?

小川:一言で答えれば、現代が「誰にも正解が分からない時代」だからでしょう。

昭和・平成の数十年は、ビジネス上すべきことが比較的明確でした。ビジネス世界の正解がはっきりしていたわけです。そうしたときには、ある枠のなかで必要なスキルを高めることが最も大切でした。ところが、現代社会では誰も正解を持っておらず、常識やすべきこと自体がどんどん変わっています。そういう時代には、一人ひとりが常識の枠を超えて考える必要があり、「頭のアップグレード」が求められます。

哲学的思考を学べば、どこでも通用する基礎思考力を高めることができます。また、哲学的な問いは、常識の枠をいったん外して、世界の本質を考えることも促します。実際に私のかかわっているある会社では、全社員が哲学的思考を学んだことによって、飛躍的に成果が上がっています。指示待ち社員がいなくなり、誰もが日常的にさまざまなことに疑いを持つようになって、社内のいたるところで新たなチャレンジに取り組んでいる、というのです。

哲学的に考えるのは楽しい!

――現代社会の「自律的な学び」をどう見ていますか?

小川:これも常識の変化の1つですが、今や会社組織という枠に縛られて働く社会ではなくなりつつあります。ビジネスパーソン一人ひとりが、今の自分にどのような学びが必要かを自分本位で考え、行動する世のなかになったのだ、と感じます。まさに自律的な学びの時代が来たのです。

そうした時代に、哲学的思考は適しています。なぜなら、哲学的思考はいつどこで誰が使っても役立つ基礎的な方法だからです。もっと言えば、哲学はそもそも自分を省みるための思考です。例えばデカルトは、人間とは何か、自分とは何かを考えつづけた末に、「我思う、ゆえに我あり」という結論にたどり着きました。自分とは何か、キャリアとは何か、学びとは何か。そうしたことを突き詰めて考え、新しい見方を得ることが、すなわち哲学です。哲学的思考は、そうやって自律的な学びを促すツールでもあるのです。

小川仁志氏4

――受講を考える皆さんにメッセージをお願いします。

小川仁志氏5

小川:何よりも強調したいのは、「哲学的に考えるのは楽しい!」ということです。哲学は、人間の特権です。地球上で唯一人間だけが、哲学的に考えることができるのです。哲学は一種の人間的な遊びであり、ゲームのルールを考えることに似ています。哲学的思考は、仕事というゲームを面白くする際、おおいに役立つのです。ところが、ビジネスパーソンの皆さんはその楽しみを知らないことが多い。大変もったいないことです。哲学的思考を学べば、きっと毎日、ワクワクしながら仕事と向き合えるはずです。

受講者の方々のなかには、自分の考えを話すことに苦手意識を感じている方がいらっしゃいます。これは、「言葉の練習不足」が原因なことも多く、言葉と概念を使い慣れていないとよく起きることです。新約聖書「ヨハネによる福音書」の冒頭に、「初めに言(ことば)があった」とあるように、(聖書の場合は神の言葉ですが)現代でも自分で言葉を使いこなし、概念を生み出せるようになると、ビジネスの成果が変わります。現時点で言葉を扱うのが苦手でも、何の心配もいりません。使えば使うほど、言葉を扱うスキルは高まりますから。

繰り返しになりますが、哲学的思考は楽しいものです。ぜひ肩の力を抜いていらしてください。そして、哲学的思考を学んだら、あとはご自身でおおいに実践して、仕事での成果につなげることを楽しんでみてください。

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