- 公開日:2021/09/27
- 更新日:2024/04/24
弊社では、新型コロナウイルス感染症拡大防止策の一環として、2020年から企業向けのオンライン研修のサービス提供を本格的に開始しました。多くの企業でも、このタイミングでオンライン研修の導入が始まったのではないかと思います。オンライン研修は、従来の対面研修とはどこがどのように違うのでしょうか。オンライン研修になって、いったい何が変わったのでしょうか。オンライン研修はこれからどうなっていくのでしょうか。オンライン研修プログラム開発メンバーのうちの2名・児玉と松本が、オンライン研修プログラム開発の経緯、オンライン研修のメリットやポイント、新しい研修のかたちとは何か、などについて語ります。
対談メンバー
● 児玉結(HRD統括部 HRDサービス開発部 主任研究員)
● 松本孝行(開発トレーナー)
- 目次
- 対面研修の実施ができなくなり、オンライン研修の開発が急務に
- 場合によっては対面研修を超えるかもしれない
- オンライン研修は受講者もトレーナーも同じ目線で話しているという感覚を持ちやすい
- 職場実践、経験学習にもう一歩踏み込めるオンライン研修
- オンライン研修で「自律した学び」を増やしていきたい
対面研修の実施ができなくなり、オンライン研修の開発が急務に
――企業向けオンライン研修開発の経緯を教えてください。
児玉:2020年3月頃から、新型コロナウイルス感染症流行の影響により、対面研修が提供できなくなりました。一方、お客様からの研修実施の依頼、特に時期的に中止や延期をしづらい新入社員研修の依頼がいくつもある時期でした。そうした状況でしたから、お客様の期待に応えるために、できるだけ早くオンライン研修の開発を進めなくてはならない、という想いを持つ者が社内に大勢いたんですね。そこで3月末から検討を始め、4月にオンライン研修プログラム開発チームを立ち上げました。
松本:僕たち開発トレーナーも想いは同じでした。20名以上のトレーナーが、オンライン研修プログラム開発チームに加わりました。
児玉:全員で40名近くの開発メンバーが集まりましたが、当初は「オンラインで対面研修をどこまで再現できるのか?」という不安が大きかったです。例えば、私たちは、受講者に深い内省を促すようなトレーナーの関わりを大事にしていますが、それが果たしてオンラインでどこまでできるのだろうか、といったことをよく話し合いました。最終的に、「対面研修と同等の価値を追求する」というミッションを全員で共有し、まずは10個ほどの対面研修プログラムのオンライン化を進めました。
松本:オンラインプログラムの開発のプロジェクトと並行して、早いものでは4月からオンラインでの研修実施はいくつか始まっていました。その多くは、従来の対面研修をWEB会議システムでの実施にそのまま置き換えるというものです。それでもよいから研修を実施したい、という強い要望をお持ちのお客様が少なくなかったのです。例えば僕は、2020年4月の緊急事態宣言が発令される前日に、オンラインの新入社員研修を担当させていただきました。入社式でも会社に集まることができない状況でしたが、研修中に、一人の受講者が「同期に会えて嬉しい」とおっしゃったのが印象に残っています。僕からすると、会えている実感は持ちにくいと思ったのですが、新入社員の皆さんからすると、オンラインでも「会える」という感覚になるんだと。オンライン研修の可能性を感じた経験でした。
児玉:6月くらいには、こうした緊急的なオンライン研修の実施が増えてきました。同時に、「オンライン研修、結構いいんじゃないか」という声があちらこちらから聞こえてきたのです。開発チームは、このポジティブな声に背中を押されました。また社内には、WEB会議システムの使い方や運営ノウハウなどの面でトレーナーを支援する「オンライン支援チーム」も立ち上がり、急速にオンライン研修のノウハウが蓄積されていきました。
松本:この頃は、僕たちトレーナーは、誰もが試行錯誤しながらやっていましたね。例えば、対面研修では、使用するタイミングでその都度資料を配布するのですが、オンラインでも同様にしてしまうと、効率がよくなかったり、事前に個々の資料を配布しておくと「どの資料を見ればよいか分かりませんでした」というコメントがアンケートに記載されたりしました。その声を受けて、オンライン用に資料を冊子化して作り直す、というような工夫を少しずつ積み重ねていた時期です。お客様も試行錯誤の最中で、「どのWEB会議システムを使うといいですか?」とシステム選定のご相談をいただいたりすることも多かったです。
児玉:開発チームは、その間に急ピッチで開発を進め、6月には複数のオンライン研修プログラムを完成させて、お客様にご提供しました。その後、続々と開発が進み、現在は一通りオンライン化が終わっています。
場合によっては対面研修を超えるかもしれない
――オンライン研修の特徴やポイントを教えてください。
児玉:2020年6月にオンライン対応研修を初めて実施した時点で、「オンライン研修にはオンラインならではの優れた効果がある」「場合によっては対面研修を超えるかもしれない」といったことがはっきり分かりました。例えば、オンライン研修では、受講者は一人ひとりのスペースで受講しますから、集合研修よりも自分と向き合う感じが強いんですね。そのために内省しやすく、深く考えられた回答が返ってくることが多い、ということが見えました。
松本:誰にも邪魔されずに集中できますからね。また、音声でのやり取りとチャットを使った文字のやり取りの「二元コミュニケーション」もオンライン研修の大きな特徴です。対話しながら、全員でチャットに感想を書き込むというやり取りができるわけです。対話は一度に一人しか発言できませんが、チャットは大勢で同時に書き込めるので、上手に使うと大きな効果があります。
それから、対面研修では個人で作成したワークシートをグループワークで共有する際に、細部まで見ることは難しいのですが、オンライン研修だと、画面を共有すれば、全員がワークシートを隅々までクリアに見ることができます。グループを超えて、クラス全体で共有が可能です。みんなのワークシートを熟読して、チャットで「〇〇さんの気づきが深かった」などと感想をやり取りするプログラムが、オンライン研修だと成り立ちます。こういった部分は、対面研修とはかなり違います。
児玉:対面研修は、よく発言をする人が目立つ傾向にありますが、オンライン研修ではチャットで全員の声が等しく届きます。これはすばらしいメリットで、最近では対面研修でオンラインでのチャットのようなことを再現できないか、という話が出て、実際に対面のプログラムにそのような工夫を盛り込んでいます。オンライン研修が、早くも対面研修に影響を及ぼし始めているんです。
松本:最近は、対面研修の最中に、思わず「チャットでどうぞ」と言いたくなることがありますよ。チャットはそのくらい便利な機能です。
児玉:加えて、オンラインだとどこかに集まる必要がありませんから、実施する企業にとっては金銭的コスト・時間コストがかなり削減できます。これだけメリットが多かったら、コロナ禍が終わっても、もう完全に元通りになることはない、オンライン研修は間違いなく残る、というのが、昨年6月の時点で分かりました。
松本:ただ、オンライン研修がいいことずくめかといえば、必ずしもそうではないと思います。よく耳にするのは、「カメラでずっと監視されているので疲れる」という受講者の声です。また、通信環境・PC環境・周辺環境の問題に悩まされることもあります。何度も音声が途切れてしまう受講者や周囲が騒がしい場所から参加する受講者がいると、研修全体の満足度が下がってしまうことがあります。オンライン研修の難しい部分です。
児玉:集中が途切れやすいというのも、オンライン研修の難点ですね。受講者が集中を保てるようにするには、さまざまな工夫をして注意を引き続ける必要があります。特に、チャットに何か書いてもらうようなアクションが効果的で、一般的には「7分に一度、受講者にアクションさせる」というセオリーがあるほどです。
こうやってオンライン研修に関わる全員で苦労しながら試行錯誤したり、セオリーを学んだりした結果、「リクルートマネジメントソリューションズらしいオンライン研修」が徐々に出来上がってきました。
オンライン研修は受講者もトレーナーも同じ目線で話しているという感覚を持ちやすい
――「リクルートマネジメントソリューションズらしいオンライン研修」とはどのようなものですか?
児玉:弊社のトレーナーは、受講者をよく観察して、一人ひとりの表情や雰囲気を把握しながら、本人の気づきが深まるように言葉をかけていきます。しかしオンライン研修では、複数のグループワークを行う際に、1つのブレイクアウトルームにしか入ることができません。そこでトレーナーのなかには、2つのアカウントを操り、2つのブレイクアウトルームに同時に耳を傾けようと試みる者がいたほどです。これは極端な例ですが、たとえオンラインであっても、受講者の状態をきちんとつかんだうえでアプローチしていくことが重要です。例えば、スライドを掲示していると受講者の皆さんの顔が見えにくくなるので、ときどきスライドを引っ込めて、定期的に皆さんの顔を眺めているトレーナーもいますね。各トレーナーがこうした工夫をしているのは、弊社らしい点だと思います。このようなナレッジは社内ですぐに共有し横展開できるようにしています。
松本:僕は最近、オンライン研修中に投影する進行スライドの枚数をできるだけ少なくしています。スライドに沿って進んでいく予定調和を崩し、受講者の皆さんとその場をつくっていくことを心がけています。
児玉:こういう工夫が、コミュニケーションのモードとムードを醸成していくんですよね。
松本:特にオンライン研修では、「ここでは自由に話していいんだ」という空気をつくることが非常に重要です。例えば、よい話ではないのですが、準備していた資料に誤りがあったり、ミュートにしたままトレーナーが発言をしてしまったりします。その際、受講者から「スライドのページ数が違うと思います」「音声が聞こえません」などと指摘されることがあります。そういうときに誤りを正したり、お詫びをしたりすることにとどめるのではなく、「教えてくれてありがとうございます。こんな風に気づいたことがあったらどんどん言ってくださいね」と伝えます。こうした場を築けると、皆で研修をつくっていく感覚が醸成されていって、受講者同士で話を振り合ったり、こんな話題で話をしてみたいと受講者から提案があったりします。対面でもオンラインでも弊社のトレーナーはそういう場づくりを大事にしています。
こういう場をつくるうえで大事なのは、受講者が学びの主体者であること、そのための支援をするのがトレーナーの役割であること、そして、研修という場の安心感や信頼感を高めていくことだと感じています。このことは対面の研修でもオンラインの研修でも同じだと思います。これまでの経験から、オンライン研修はむしろ場への信頼感を持ちやすい、と感じています。なぜなら、僕たちトレーナーも、受講者の皆さんと同じ窓に入っている一人に過ぎないからです。受講者もトレーナーも同じ目線で話している、という感覚を持ちやすいんです。オンライン研修は、弊社らしい研修、自由に話しやすい場を作りやすいと思います。
職場実践、経験学習にもう一歩踏み込めるオンライン研修
――リクルートマネジメントソリューションズのオンライン研修は、今後どうなっていくのですか?
児玉:これまではひとまずスピード最優先で、従来の対面研修のプログラムをオンラインに移行してきました。しかし今後は、今までの形にとらわれることなく、「オンラインならではの研修」を開発していきます。第一の候補は、職場での実践と経験学習をメインにした研修ですね。元々弊社では事前のWEBラーニングと集合型研修、受講後の経験学習を組み合わせた研修サービスを用意していました。オンライン研修という手法で、この経験学習をさらに深めていくことにチャレンジしようとしています。具体的には、一定期間内にインターバルを置いて複数回のオンライン研修を実施し、その合間に職場での実践を繰り返すようなアクションラーニング形式などです。
松本:例えば、弊社導入事例記事で紹介しているデンソー様のオンラインマネジメント研修は、まさにオンライン研修のメリットを生かした典型例といえます。3カ月の間に全3回のオンライン研修を行い、その合間に各自のフィールドワークと小チームでの経験の分かち合いを挟む、というプログラムでした(図表1)。フィールドワークでは、受講者に、研修中に学んだマネジメントをテーマに、インタビューする職場内の相手を自分で決めて、実際にインタビューしていただきました。詳しくはこちらの記事をお読みください。
<図表1>デンソー様のオンラインマネジメント研修の構造
松本:デンソー様のオンラインマネジメント研修でトレーナーを経験してよく分かりましたが、こうしたプログラムを分散して実施していく研修には、従来の研修にはなかった独自の効果があります。1つ目に、研修で学んだワークを職場実践し、次の研修で振り返っていただくので、研修と仕事の境目があいまいになっていきます。研修ワークを仕事の一環として実践していただくことになるのです。デンソー様の例でいえば、こちらの記事の受講者の声(藤中様インタビュー)を読んでいただくと分かりやすいですが、上司や同僚に研修の一環としてインタビューすることは、普段仕事で取り組んでいるテーマを巡って取り組むことになります。
2つ目に、職場開発につながります。実際、デンソー様の受講者の方々からは、「上司にインタビューしたことで上司との関係性が改善された」という感想を多くいただきました。研修効果がこのようにしてダイレクトに職場に届くわけです。従来の研修ではなかなか起きなかったことです。
児玉:弊社では以前から職場での実践を重視してきましたが、このようにオンラインで職場と研修を行き来することで、さらに職場実践に踏み込めるようになりました。
松本:トレーナーは、対面研修では研修終了後の変化をイメージしながら研修を行っています。対してこうした分散して実施する研修では、研修中に職場でどのような実践をしてほしいか、どういう行動をとってほしいかといった目指したい像を明確にイメージするようになりました。その像に照らし、研修ではどのような体験をしていただくのがよいか、どのような学びを得ていただけるとよいかを考えて研修を企画していきました。
児玉:オンライン研修、特にこのようなアクションラーニング型の研修を設計するにあたって、私たちは「カスタマージャーニー」をよく意識するようになりました。長く学びつづけていただくために、いつどのような仕掛けを用意すればよいかを考えるようになったんです。例えば、社内コミュニティを形成したら自主的に学びつづけていただけるのではないか、とか、このタイミングで他の受講者と話し合う機会があれば、学びへのモチベーションが持続するのではないか、といったことを考えています。1日や2日で完結する研修とは、作り方が少し違うんです。
松本:分散型研修と単発研修では、人事や現場上司の方々の感想も違います。例えば、ある分散型研修で、研修をオブザーブしていた人事の方が、「実践が難しくて大変でした」という受講者の感想を喜んでいたケースがありました。インターバルのなかで、難しい実践にチャレンジしたからこその感想であったことをプラスに評価したんですね。これまでの研修では「やってみます」「意識してみます」といった意気込みを語るケースが多かった研修でしたが、そこから一歩踏み込んだ経験からの学びが得られたといったところでしょうか。また、一人が挑戦すると、周囲も関わることになり、職場内に波及効果が出ます。そのことも含めて、果敢なチャレンジを高く評価していたんだと思います。これまでの研修ではなかった評価です。
児玉:ただし、分散型研修は、人事や現場の皆さんの負荷が大きくなる場合があります。その点はよく注意していただく必要があります。
オンライン研修で「自律した学び」を増やしていきたい
――最後に、お二人が今後何を実現していきたいかをお聞きしたいです。
松本:オンライン研修で得たデータをもっと活用できたらいい、と考えています。オンライン研修の特徴の1つは、多くのデータを取得できることです。データ分析によって研修効果を科学的に見える化することで、その後の研修効果にさらにつなげていくことができます。
児玉:弊社には「Learning Pit」というLMS(ラーニングマネジメントシステム)があります。オンライン研修ではLearning Pitに各種データが蓄積されます。Learning Pitができたことで、単に受講者の満足度を確認するだけでなく、継続的にアンケートを取って受講者の行動変容を具体的に把握・計測するような取り組みもしやすくなりました。
松本:それから、お客様企業や人事の皆さんの視点に立つと、分散型研修を例に、経験学習を促進し「学ぶ企業、組織文化」を醸成できる効果があります。学びと仕事が一緒になっていくわけですからね。未曾有の環境変化のなか、自ら学んでいく、お互いから学び合っていくという文化の醸成は不可欠という個人的な想いもあります。
児玉:私は、オンライン研修、特にアクションラーニング型の研修が増えることで、「学びのやらされ感」がなくなり自律的に学ぶビジネスパーソンが増えていくといいな、と思います。弊社は、研修効果として受講者の主体的な変化・成長を大事にしてきました。オンラインという手段が新たに加わったことで、より楽しく、より自律的な学びを実現しやすくなったのではないかと考えています。
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