連載・コラム
中堅社員にも自ら判断・意思決定が求められる
変化の時代こそ、原理原則を。
- 公開日:2008/01/11
- 更新日:2024/05/16
IT化やグローバリゼーションによって、経営にますますスピードが求められる時代。マネジメントクラスの負荷がかつてとは比較にならないほど増大し、中堅社員にも自ら判断・意思決定が求められるようになってきました。こうした状況の中では、とかく応用力にスポットが当たりがち。でも、今回は「そんな時代だからこそ原理原則が大切」というトレーナーからのメッセージをお送りします。
- 目次
- 真珠だって何もないところからは生まれない。人の成長も同じです。
- 研修が眠くならないわけは、考えることとディスカッションにあり。
- トレーナーの役割は教えることではなく、内にあるものを引き出すお手伝い。
真珠だって何もないところからは生まれない。人の成長も同じです。
「頭の中のモヤモヤが晴れて爽快感を味わうことができました。実はいきなりマネジャーに昇格して、何をやっていいかわからなかったんですよ」「仕事は一生懸命にやっているはずなのに、周りの期待とずれているような気がずっとしていました。その原因がやっとわかりました」『MBC(マネジメントの原理原則を学ぶ管理者基礎研修)』や『SBC(よりよい仕事の進め方と周囲への働きかけを学ぶ中堅社員基礎研修)』を終えた後、こんな感想を言ってくださる受講者の方がたくさんいらっしゃいます。
変化の時代において、柔軟な発想と臨機応変な対応が必要といわれる中で、なぜ原理原則が大切なのか。
理由の一端がおわかりいただけるのではないでしょうか。上からの指示待ちでも物事が進んだ時代と比べて、現在の組織人にはさまざまな役割や任務が求められるようになってきました。
でも、実際は冒頭に紹介したマネジャーの方のようにそれらをはっきりと説明されないままポストに就いたケースも多いのです。今のポジションで何をしなければならないのか、よくわからないまま来た仕事をこなす。これでは仕事の量だけがどんどん増えて、時間がいくらあっても足りません。結果としてすべてが中途半端になり、いろんな部署や人からの不平不満に囲まれる…。
悪循環の中で自分のスタイルを模索していくのは大変なことです。
企業にとってもこうした状況は決して好ましいものではありません。一人ひとり個性という色の違いはあってしかるべきですが、根本の仕事と人に対する考え方は明確にしていないといけない。
そうでないと経営理念などもなかなか浸透していきません。こう行動するのが「定石」であるという原理原則を知った上で、自分の経験と職場の現況や仕事と照らし合わせながら、自分なりのマネジメントスタイルを確立していくのが本筋ではないでしょうか。美しい真珠だって、阿古屋貝の中に核となるものを入れないと生まれてきません。
人も同じで、働く上でのコア、根っこがあるかどうかが非常に大切になってくる。
それがないと知識やスキルがあってもうまく使えませんし、どうしても状況に振り回されてしまいがちです。MBCやSBCは、自分にとっての根っことは何かを考え、成長していくための土台を一緒につくっていく研修だと思っています。
研修が眠くならないわけは、考えることとディスカッションにあり。
先日、ある企業でMBC研修を終えた後、受講者の一人に駅まで送っていただいたのですが、その方が車の中でこんな感想を述べてくださいました。「いやー、面白かったですよ。私も今までいろんな研修を受けてきましたが、眠くならなかったのは初めてですよ(笑)」。
心の中でちょっと苦笑しながらも、この指摘、案外本質をついているかもしれないと思いました。その方の言葉を借りるなら、弊社の研修が眠くならない理由の一つは、講師から受講者に向けて一方的にレクチャーするのではなく、受講者自身に考えていただくというスタイルをとっているからだと思います。
例えば、MBCでは〈管理の基礎〉や〈仕事の管理〉といった各プログラムごとに“あるべき姿”を描くことからスタートするのですが、「なぜあなたはそう思うのか」という部分を非常に重要視します。中には「いい目標ってどういうものなんでしょう?」という質問をされる方がいます。自分で意思決定をしたことがない方に多い質問なのですが、こうしたケースでも答えは提示せずに考えることで見つけていただくことにしています。
なぜ自分で考えることが大切なのか。考えないとマネジメントに魂が入らないからです。魂が入っていない言葉に部下は何も感じないし、納得もしてくれないでしょう。
組織上の役割分担はわかっても、一体感がない。だから何か障害が起こったときにお互いが助け合うことができないんですね。受講者の方が出した結論についても必ず「今おっしゃったことは本気ですか?」と問い返すようにしています。「いや、この研修の意図はこういうところにあると思って…」といった答えの場合は大体本気じゃない(笑)。こんなやり取りを通して自分の心の内を確認していただくのもこの研修の目的です。
弊社の研修でもう一つ特徴的なのは、常に職場での実践を想定して行うことです。
プログラムの中にグループ討議や全体討議を数多く取り入れているのもこうした理由からです。
自分で考えたことをグループのメンバーとやり取りすることで、伝わるかどうかがわかる。
伝われば自信となり、伝わらなければ別の方法を考える。生身の体験が入っていることで理解度と動機付けが大きくなります。公開コースの場合には、グループセッションだけでも非常に有意義な時間になると思います。実際、「他社の方と話せてよかった。苦労しているのは自分だけじゃないんだ」といった発見をされる方が多いですね。また一つのセッションが終了するたびの振り返りでは、必ず職場の中でどう活用できるかを考えていただき、知識と実践を結びつけて「知恵」にしていくきっかけをつくります。このようなスタイルをとっているので、座学の研修と違い、どうしても2~3日間という時間が必要となるのです。
トレーナーの役割は教えることではなく、内にあるものを引き出すお手伝い。
トレーナーになって今年で13年目となります。この仕事に出合う前は受講者の皆さんと同じ組織人でした。働く上での信条は「同期を大切に、上司にはいつも反論(笑)」。仕事の納期だけは守り、いつも、新しいこと、珍しいことに興味をもって生きていたように思います。こうした性格なので、トレーナーになりたての頃は受講者の発言に対して「いや、それは違うよ」と思ったり、実際に口に出して言うことも多かったですね。でも、経験を積むに従って考え方が変わっていって、人とのふれあいそのものがとても貴重だと思えるようになりました。
「人は人に磨かれる」ということが、少しですがわかり始めてきているのかもしれません。最近はどんな方のどんな意見でも「なるほど」と受け止め、みんなで考えてみようと思えるようになりました。 こんなふうに言うと誤解を受けるかもしれませんが、今は何かを教えるという意識はまったくありません。メッセージもなるべく少なく、わかりやすく伝えることを心がけています。受講生の皆さんとのふれあいを大事にしながら、メンバー間の意見が出るよう促進できる役割を果たせたらいいな、あるいは受講者の方が自分のコアを見つけるお手伝いをできたらいいなと思っています。コアというのは本人が気づいていないだけで、実は普段から表に出ているケースが多いんですよ。
「その言葉、お話の中によく出てきますが、ひょっとするととても大切にしているんじゃないですか」、そんなひと言で、はっと気づかれる方も多い。
人は自分のことはなかなか客観視できないものなんです。 トレーナーとして喜びを感じるのは、やはり目の前で起こる受講者の変化ですね。
まるで曇りが取れたように目の色が変わったり、表情がすっきりとしたり…。
こんな場面に出合えると、人って凄いもんだなと素直に思いますね。
執筆者
人材開発トレーナー 米国CCE, Inc. GCDF-Japan キャリアカウンセラー
武安 四郎
1949年生まれ。大手証券会社に入社。外国人投資家向け企業投資情報サービスを行なうため、設立間もない部署に配属される。企業調査、英文調査レポートの海外の機関投資家向けサービスを提供。特定の機関投資家にも出向、インハウスでの調査も行い、証券アナリストとともに活動した。その後、国内事業法人相手の営業、投信会社での国内株式運用担当、英国系の外資証券での外国株セールスマネジャー、同じく、英系投資顧問会社での運用サービスのマーケティングを行い、同社の代表取締役となる。95年、リクルート(現 リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーになり現在に至る。
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