連載・コラム
組織を担う中核としての意識付けを行うことができるのか
中堅社員を「失われた世代」にしないために
- 公開日:2009/03/09
- 更新日:2024/03/26
バブル崩壊後の就職氷河期に入社した新入社員たちも、いまや中堅社員と呼ばれるようになってきました。
優秀かつ勉強熱心、向上心もありながら、こぢんまりと我が道を行くタイプが多いと評価されがちなこの世代。どうしたらこれからの組織を担う中核としての意識付けを行うことができるのか。
今回は、研修を通して中堅社員に接することの多いトレーナーから「処方箋」ともいえるコラムをお届けします。
- 目次
- 「中堅社員といわれても・・・」彼・彼女らと組織との間にあるギャップ。
- 「正解を教えてください。」正解はありません。
- WI (ワーキング・アイデンティティ) を見つける。
- 変化の時代は、自分らしさを発揮できる時代。
「中堅社員といわれても・・・」彼・彼女らと組織との間にあるギャップ。
「マネジャーにはなりたくないよ」ふとした拍子に発せられる台詞が、いま中堅社員と呼ばれる世代の心情を非常によく表していると思います。
彼・彼女らは(もちろん個人差はありますが)、バブル崩壊後の「失われた10年」という入社当初からの厳しい景況感で失敗が許されず、短期の業績を求められてきた世代です。また教育投資が抑制される中、周囲からはある意味放っておかれ、自分たちで知識やスキルを身に付けることで課題を解決してきた世代でもあります。
その一方で、胆力が試されるようなリスクを伴った大きなチャレンジや、周囲を巻き込んで大きな成果を上げていくといったような機会にはなかなか恵まれず、目指したいと思うロールモデルもいません。
こうした諸条件が重なり、冒頭のような発言になっているような気がしますね。
「いまさら部下の面倒を見ろっていわれても、どうやって引っ張っていっていいかわからない」というのも彼らの偽らざる本音だと思います。
一方、変化の時代に直面している企業側あるいはマネジメント層からしてみると、中堅社員がそんな意識では困るわけです。
「現場は若手に任せてマネジメントに力を注いでほしい」
「自分の領域を超えてリーダーシップを発揮してほしい」
「力強さが感じられない。困難な状況を乗り越えていく主体性がほしい」
など様々な要望を持っています。
そして、自身の役割を自ら設定し、自分らしくいきいきと仕事をする組織の中核として活躍することを期待しているのです。
弊社がご提供しているWINE(Working Identity for NExtstage)は、こうした双方のギャップを少しでも埋め、自立・自律的な中堅社員となる気づきを得てもらうための研修です。
「正解を教えてください。」正解はありません。
WINEのプログラムで、私が最も注力するのは冒頭のオリエンテーションです。
この研修は、いわば内面的な変化がゴールです。
従って「なぜこの時期に、この研修を受けるのか」を受講生の皆さんの中でしっかり腹落ちしないと、気持ちがふわふわしたまま全てのコンテンツが終わってしまいがちなのです。
そこでまずは
「環境変化といわれているけど具体的に何か起きてる?」
「こんな時代だからこそ大切にしていきたいものってなに?」
といったように、受講者の現場と現実をつなぎながら研修の意味を理解していただくようにしています。
プログラムの中身は、受講者を主人公としたケーススタディと参加メンバーによる討議が中心です。ケーススタディでは正解を導き出すのではなく、自分の考えで自分としての対処を決めてもらいます。
対処を決めるためには主体性がなければできませんし、主体性は「自分がやりたいこと、好きなこと」を確定しないことには持てません。つまりケーススタディは、自律に必要な主体性と自己理解を同時に学んでもらうことを目的にしています。
ただ、これがなかなか(笑)。
「どうせ正解があるんでしょう?」と、自分で考えず選択を決めようとしない受講者もいます。正解が欲しい世代に対して、「あなたの中にあるでしょう?」と言っても納得してもらえない。
トレーナーとしてもつらいところですが、踏ん張りどころですね。主体性を持つことは、自分らしさとは何かを理解してはじめて可能になることに気付いてほしいのです。
討議後には、個人ごとにふり返る時間をたくさん取ります。自分の中で気づきを得た受講者は、ワークシートに多くの気づきを書き出せていますね。
きっと、自分と向き合える充実した時間になっているはずです。
WI (ワーキング・アイデンティティ) を見つける。
自己理解を深める場としては、全体討議もプログラムの中で大きな役割を占めます。
特に公開コースの場合、一人ひとりの受講者のバックボーンが違いますから、そこにいるだけで刺激の場になりますし、普段とは異なる視点・視野で自分を見つめることができます。
全体討議では、例えば「社内のボーリング大会の企画担当に選ばれたけれど、人が集まらない。あなたならどうしますか?」といった問いに対して、一人ひとりが答えを出して議論していきます。
ここで興味深いのは、議論が徐々に本音で行われていくことです。
今の中堅社員だと「ボーリング大会は必要ないんじゃないか?」と本音がある中で、
「そもそもなぜボーリング大会が必要なのかな?」
「だって職場にはやっぱり一体感が必要じゃないですか!」
そんな会話が自然と飛び交うようになり、いつもは意識することがなかった自分の中のこだわりや大切にしていることに気づいていく。
このWIを発見できる場づくりを行うことがトレーナーの役割だと思っていますし、その瞬間が起きるときはやはり嬉しいですね。WIがはっきりしてくると、仕事をする上での拠り所や、仕事を通じて自分が何をしたいのかという意思がより明確になります。
職場に戻ってから主体的に上司やメンバーと話すケースも多いようですよ。
「自分は働くってこういうことだと思うけど、あなたはどう?」
そういったシーンの中から、売上うんぬんではない、人間同士のもっと本質的な会話ができる土壌が生まれてくる気がするのです。
変化の時代は、自分らしさを発揮できる時代。
WINEという研修はオリエンテーションが大切だという話をしましたが、最近の私がよく受講生の皆さんと交わすのは、「変化の時代をプラスにとらえようじゃないか」ということです。
変化の時代は、イヤな時代だ、やっかいな時代だと思うかもしれないけれど、本当にそうだろうか?確かにかつてのように決まったやり方でやれば上手くいくわけじゃない。
だからこそ今、主体的・自立的に仕事を進めることが求められている。
見方を変えれば、自分の好きなことや自分らしさをどんどん仕事で出していいってことでは?
それって、すごくいい時代じゃないだろうかと思うんです。
環境を変えることはできないけれど、意識を変えることで、制約条件と思っていたものが自分らしさの発揮へと変わる。そんな気持ちでこの研修と向き合ってみてください、と。
企業の皆さんも中堅社員がいかに大切な存在かを考え、期待を持って送り出してほしいと思います。
彼らの表面的な部分だけをとらえ何も手を打たなかったら、バブル崩壊後がそうであったようにきっと大きな足かせとなる。新人を育て、マネジメントとのパイプをつなぎ、企業の将来を支えていくのは間違いなくこの世代なのですから。
執筆者
人材開発トレーナー
杉浦 重信
1965年生まれ。88年に大手人材開発・情報出版企業に入社。経理部にて全社会計システム開発プロジェクトに参加。その後、社内留学制度にて早稲田大学ビジネススクールにてマーケティングを学ぶ。卒業後は、主に事業企画のマネジャーを務める。CRMシステム開発のプロジェクトリーダー、新規事業の立ち上げを経た後、人材派遣事業の業務運用部長としてBPRを推進。2005年、リクルートマネジメントソリューションズのトレーナーになり現在に至る。
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