連載・コラム
シリーズ『人事のチカラ』vol.3
お客様のRFPを創りだす営業担当を育む
- 公開日:2010/01/08
- 更新日:2024/05/16
リーマンショックから早1年が過ぎ、年初の景気動向予測では横ばいもしくは回復基調とコメントする経営者も多いようですが、果たして皆さんの実感はいかがでしょうか。研修やお打ち合わせでさまざまな業界のお客様へお伺いするのですが、皆さん口を揃えて「まだまだ厳しい」「今は身動きする時期ではない」とおっしゃいます。当然、業種・業界やその中でのポジションにより実態は異なりますが、「モノが売れない」「購入決定まで時間がかかる」「お客様の要望レベルが非常に高まった」「要望の割に予算や納期が厳しい」「小さな案件でもRFP(※)が増え競合に勝てない」という営業の苦労をお伺いします。
しかし、考えてみれば当然の話ではないでしょうか。ある程度の金額と選択を伴う買い物ならば、インターネットで事前に情報を集め、評判や価格の折り合いをつけたうえで店に出向く人は増えています。予算も潤沢にかけられず要望も多岐に渡れば、それだけ選択も慎重になり、相手つまり営業担当への要求水準も自ずと高まることになるのです。
※RFP=Request For Proposal
情報システムの導入などを行う上で、発注先候補の業者に具体的な提案を依頼する文書。提案依頼書。
ここでは、情報システムに限らず商品・サービスの発注側が複数のサプライヤ(候補先)に案件概要・契約条件を開示し提案を競わせる行為やその為の書類を指す。
秘訣はRFPの黒幕になること
研修で「どうすればRFPを勝ち抜けるようになるのか」とよく相談されますが、自社に余程の商品力や価格優位性、圧倒的な問題解決力がない限り、そんな奥義は存在しません。
しかし、対策がまったく無いわけではありません。なぜなら、RFPを高い確率でモノにしている営業担当はあまた存在するからです。昔からIT業界ではよくいわれていた「RFPの黒幕になれ」がその回答の一つでしょう。
「RFPが出る」ということは、既にお客様内でニーズが具体化し、その解決に着手するという意思決定がなされている状態ということ。どの範囲をいつまでに、いくら以内で、という詳細条件が固まった段階で声をかけられても、営業担当はせいぜい「誰が声の大きな存在なのか」「その人の重視するポイントはどこか」「対抗馬はどこで、どんな提案を、いくらで出しているのか」という類の情報を探り、その下をくぐるくらいが関の山でしょう。
一方、RFPの黒幕になれる営業担当は、いち早く顧客の課題を掴み、RFPの要件が固まる前に「この課題から解決しましょう。つきましては・・・」と、お客様とRFPの要件を描く側にまわります。いわば「顧客から一番最初に相談される存在」なのです。顧客先にタイムリーに顔を出し、常に価値ある情報提供をし続けています。不況下でも業績を上げている営業担当は、こういう動きにブレがありません。
さらにその上を行く営業担当もいます。お客様自身もニーズを認識していない段階からアプローチし、お客様のRFPを創りだす営業スタイルを身につけているのです。
先日、某業界のリーディングカンパニーから「積極的に異分野へ進出する」旨のプレス発表がありました。実は、ある企業の営業担当の「御社の本業は当面コスト競争にさらされるのでは? いっそのこと本業をインフラと捉え、効果的に生かす展開を図られては?・・・」というトップアプローチに端を発した話なのだそうです。
RFPを創る営業担当の共通点とは?
もちろん「お客様のRFPを創りだす」のは言うほど簡単なことではありません。
これを実行するには、法規制や経済動向など「世の中の大きな変化」、「お客様の顧客や競合の動向」、お客様が打ち出した経営指針やそれに向けての体制変更などの「お客様を取り巻くさまざまな情報」を、リアルタイムで掴むことが必要です。ある意味「お客様以上にお客様に詳しくなる」のです。
この顧客情報に、自身の持つ経験を掛け合わせて仮説を立て、この仮説を基にお客様にアプローチをすることで、お客様の信頼を獲得し、RFPを創りだす営業の第一歩を踏み出すのです。
このようにいうと、一日中机にかじりついてパソコンとにらめっこしながら企画書を作っている姿が浮かびますが、それではダメ。顧客接点の量の確保も重要な要因となります。昔から 「答えは現場にある」といわれていますが、然るべきタイミングで、お客様先に顔を出しているでしょうか。
先日あるお客様が、こうおっしゃっていました。
「今年は本当に厳しくて予算がまったく取れない、と、営業の人にははっきり伝えているんだよ。そうすると2通りの対応があってね。まったく来なくなる人と、それでもなんだかんだいって顔見せる人と。当然、どんなに足繁く通われても発注はできないんだよ。でも、その間我々は何をしているかというと『景気が浮揚したらどんな施策を打ち出すか』を練ってるんだ。そういうときにタイミングよく顔見たりすると、ついつい相談しちゃうんだよね・・・」。
もちろん、いつも同じ窓口だけでなく、時には上位者の意向を直接会って確認したり、現場に顔を出し生の声に耳を傾けているか、などのフットワークも重要でしょう。結局、行動量が担保されているからこそ、顧客情報が幅広くおさえられるのです。
また、お客様へ向かう真摯な姿勢も非常に大切です。
きちんと顧客情報を収集し仮説を立て、然るべきタイミングでぶつけても、いざ提案の段階になると、「即」自社商品の紹介に走ってしまうことが多いもの。そのようなことを重ねれば、たいていお客様は離れてしまいます。
そのような時でも、優秀な営業担当は決してすぐに売り込んだりしません。「ソリューションからいったん離れる」ことができるのです。
「お客様の課題創出→確認共有→解決策の策定→実行→効果検証」までの一連のプロセスを、お客様と一緒に伴走することの重要性を理解しているからなのです。
非常に厳しい環境下にあるお客様は、「課題解決を通じ、お役に立ちたい」という真摯な姿勢の営業担当か否かを、シビアに見極めているものなのです。
好機は不況にあり。RFPを創る営業を育む4つのポイント
では、そのような営業担当は、果たしてどういう組織や環境下で育まれるのでしょうか。
詳細や事例については、今年1月14日の弊社セミナーにてご紹介しています。しかし、ここでもそのポイントを4つに絞って触れたいと思います。
まず1つ目は「ビジョンを明確に示すこと」です。
景況が厳しくなると、営業担当は成功体験を容易に積むことが出来ず、自信喪失していきます。何のためにこんな苦しいことをしているのか・・・と迷います。
その時の支えとなるのが「ビジョン」です。「我々は何を目指すのか」「お客様からどのような存在と捉えられたいのか」「それは自分にとってどのような意味・価値があるのか」。厳しい状況下においては、そのような「ビジョン」が営業担当のエンジン=原動力となるのです。
2つ目は、「勝ちパターンの具体化・共有化」です。
これはいわば、営業担当が顧客のRFPを創ることができる行動を可視化することです。
どの業界でも昔売れた営業マネジャーほど「営業はセンス」とおっしゃるが、個人の持つ成功パターンを言語化できていないだけかもしれません。売れるパターンを組織として蓄積、共有化し、勝てる営業活動のイメージをつけることが重要なのです。
3つ目は、「身につけるべき能力要件の具体化」です。
勝ちパターンが分かったら、次は、営業担当がそれぞれどのような力を磨けばそれを実現できるのかを明らかにします。求められる能力要件を具体化し、その観点で自社の営業担当の課題(弱み)を抽出・是正するのです。
最後の4つ目は、「個々の成長を促進する風土作り」です。
上記のようなことを、営業担当がたったひとりで身に付けるのは限界があります。一方で、人材育成の要(かなめ)たるマネジャーは、案件に追われ「育成までとても手がまわらない」と嘆くケースも多いでしょう。本人任せにしないだけでなく、多忙なマネジャーをも後方支援する意味も含めて、組織立った対応が求められています。
もう少し詳しく語りたかったものの、スペースが尽きてしまいました。
最後に1点、お伝えしたいことがあります。それは「こういう厳しい景況だからこそ、お客様と関係性を築くチャンス。営業が一皮向けるチャンス!」と捉えるのはどうか、ということです。営業責任者がそのような意識を持って自ら舵を切れることが、この不況の波をいち早く勝ち抜けることに繋がるのではないでしょうか。
執筆者
技術開発統括部
コンサルティング部
HRDトレーナー/コンサルタント
大塚 健司
1962年生まれ。 1985年大手人材開発・情報出版企業に入社。人材採用ビジネス部門の営業担当及び経営企画部マネジャーを歴任。同社退職後、2社(会計系及び人事系)コンサルティング会社にアソシエイト~パートナーとして勤務。1997年今後のキャリアを考えリクルート(現 リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーとなる。現在、研修トレーナーとしてだけではなく、業績支援コンサルタントとして研修の導入~定着化までの支援も担当している。
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