多忙なミドル・マネジャーが行うべき部下育成 これからのマネジャーの醍醐味とは?

執筆者情報
HRDトレーナー
米国CCE, Inc. GCDFJapan キャリアカウンセラー
武井 清泰

ミドル・マネジャーに対する成果プレッシャーが強まるなか、「目の前の仕事をこなすこと」に振り回され、部下育成にまで手が回らないケースが増えてきています。どうすれば多忙なミドル・マネジャーを起点にした部下育成や組織活性が実現できるのでしょうか?
今回は、多くのミドル・マネジャーと接してきた経験をもとにした研修トレーナーの武井による考察をご紹介します。


マネジャーが感じるプレッシャーとは?

研修でミドル・マネジャーに接していると、以前に比べて「いい人」が多くなったと感じる。良くも悪くも、競争心をむき出しにするような強烈な個性をもつ人は少なくなった。これは時代の変化も大きく関係していると思う。

頑張れば国内だけでも十分に市場を開拓できた時代は、日々の仕事をこなしながら新しいことにチャレンジする余裕が現場にもあった。ところが、国内市場が成熟し、海外との競争も激しくなってくるとそうした余裕のある現場が少なくなり、頑張ってもなかなか思うように成果が上がらなくなってくる。そのようななか、ミドル・マネジャーに対するプレッシャーも相当に強くなってきているように感じる。

ビジネスに求められるスピード感も、以前とは比べものにならないほど速くなった。かつてならば1年で成果を上げればよかったものでも、半期での達成を求められる。量とスピードの両面で追い立てられたミドル・マネジャーの多くは、目先の成果を上げることに精一杯で、部下を育成することにまで手が回らなかったり、意識はしていてもスピードを重視し、自分でやってしまったりしているのだ。

さらに、成果プレッシャーといっても、上からかけられているのではなく、自分で自分にプレッシャーをかけているケースも多い。単なるチームメンバーの1人だったときと比較すれば、負わなければならない責任の重さも、見える景色も違ってくる。そのため、主任のときは「ああした方がいい」「こうした方がいい」と物怖じせずに発言していた人ですら、課長になった途端、守りに入り、おとなしくなってしまうケースもある。

マネジャーの役割とは何ですか?

実は、公の場で「マネジャーの役割とは何ですか?」と聞かれれば、「部下育成」と答えるミドル・マネジャーは多い。しかし、「そのために、日頃、何をしていますか?」という質問を投げかけると、具体的にはなかなか出てこない。

日本経済団体連合会が2012年5月に発表した「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」という報告書にも、こうした現状がよく表れている。

注目したいのは、経営陣とミドル・マネジャーの間にある認識の違いだ。報告書によると、経営層がミドル・マネジャーの役割として最も重視しているのは「部下のキャリア・将来を見据えて必要な指導・育成をする」であり、「経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みを自ら企画立案する」がそれに次いでいる。同時に、この2つは「自社のミドル・マネジャーが達成できていないと思うもの」でもある。

一方で、ミドル・マネジャー自身が最も重要だと考えているのは、「組織の上層部や組織外からの情報を自分なりに咀嚼して部下に伝え、部下の行動を導く」。経営陣の回答で1位だった「部下のキャリア・将来を見据えて必要な指導・育成をする」も重要だと感じているが、順位としては2位にとどまり、「経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みを自ら企画立案する」に至っては6位と、かなり順位が低い。

本来、何をしたかったのか?

なぜ、このような差が生まれるのかについては、いくつかの理由が考えられるだろう。1つには先ほど挙げたように、ミドル・マネジャーの仕事があまりに膨大でスピード感も増しているため、経営陣が重要だと思うことまで意識が及ばない、という問題がある。
もう1つ想定されるのは、部下育成や新規事業の立ち上げに対する評価が不十分となっている可能性がある点だ。

目先の事業で成果を上げることに比べると、部下育成や新規事業を軌道に乗せることは、すぐには結果が出ない。今すぐ種をまいたとしても、成果が出るまでに、場合によっては3年から5年という時間がかかる。

人材育成に関しても因果関係が複雑なため、どうしても成果が見えにくく、評価が不十分になってしまいがちだ。ビジネスのスピードが速まり、多忙を極めるミドル・マネジャーが、パフォーマンスを維持しつつも、近視眼的にならずに将来を見据えた部下育成や新規事業開発に取り組めるようにするには、どうすればいいのだろうか。

この問題にはさまざまな要因がからみ合うため、一概に結論を出すことはできない。ただ、マネジャー本人にとって重要なことの1つは、人を巻き込めるかどうかであると思う。

部下を育てるのが得意なマネジャーは本来、「巻き込み上手」でもある。相手を説得しながら人を巻き込んでいく能力は、新規事業の立ち上げにも必要だ。マネジャーが1人で仕事を抱え込もうとするとどうしても、人は育たなくなってしまう。
それよりも、他部署を巻き込むなどして全体で仕事を回していく方が組織全体の効率もよくなるし、人も育ちやすくなる。

「他部所を巻き込むことができるマネジャー」と「そうでないマネジャー」の違いは、ビジョンをもっているかどうかだろう。Managerial Identity、つまり「マネジメントを通じで自分が実現したい志」や「自分の軸」が明確に見えているかどうか。軸が明確であれば、仕事をしていく上で何を大事にし、何を優先すべきかがよく見える。言葉に説得力が生まれ、他者を巻き込みやすくなる。

したがって、管理職研修ではなるべく「目先の業務」ばかりでなく、「本来の自分のありたい姿」に目が向くようなきっかけづくりもしている。「本当は何がしたくて、この会社に入ったのですか?」など、その人を動かしている動機の根本にまで立ち返る質問を繰り返していくと、自分が大切にしてきた「軸」がだんだんと見えてくる。

「あれもこれもしなくちゃ」と思っていたことが整理できるようになり、その際には誰に頼ったらいいのか、と考えて組織を動かしながら成果を上げていくやり方へと切り替えることができる。

ミドル・マネジャー同士の「つながり」を突破口にできるか?

それでも、ミドル・マネジャーの負担を十分に軽減するのは難しいかもしれない。

マネジメントの負荷を高める要因には、部下の多様化もある。例えば、45歳くらいになると、自分の先々のキャリアに閉塞感をおぼえはじめ、モチベーションダウンしてしまう社員もいる。そのような年上の部下を抱えた若いミドル・マネジャーの悩みも、最近良く耳にする。

派遣社員や契約社員など働き方も多様化している。外国人や女性のメンバーも、今後ますます増えていくだろう。そんな多種多様なチームメンバーを抱えながら、それぞれのワークタイムにも気を配りつつマネジメントしていくのには、かなりの力量がいる。

そもそも、それをたった1人のミドル・マネジャーがこなそうとすること自体に、無理があるのかもしれない。かといって、ミドル・マネジャーの数を増やして一人ひとりの負担を軽くすることも、あまり現実的な選択肢ではないだろう。

実行し得る解決策の1つは、組織全体の「つながり」と風通しを良くすることで、ミドル・マネジャーの負担を軽くしていくことではないだろうか。

大手メーカーのなかには、昔ながらの飲みニケーションや運動会などのイベントを積極的に復活させているところもある。IT系のベンチャー企業などは特に社内イベントの開催に熱心だ。

このような社内行事を開催する一番のメリットは、ミドル・マネジャー同士がつながりやすくなることだろう。非公式な場でお互いの人間性を知ったり、悩みを共有したりすることで、いざというときに協力しやすい環境が生まれる。

また、音楽が得意だったり、走るのがやたら速かったりと、職場では見られない部下の一面に触れることで、もっと全人的に彼・彼女らを見ることができるようになるかもしれない。上司が「育てなくちゃ」と躍起にならなくても、部下同士がつながり、「育て合う」ことで組織が活性化していく効果も期待できる。

組織で仕事をする醍醐味が感じられると、マネジメントは格段に楽しくなる。この楽しさを実感できれば、マネジャーとしても大きく成長できる。

ミドル・マネジャーは従来、経営陣にエントリーするための通過点でもある。「1人で頑張る」のではなく、「組織全体でどう頑張るか」を経験する登竜門だと考えればいいのではないだろうか。

*本コラムは、弊社機関誌「RMS Message」35号(2014年5月発行)の記事をもとにしています。
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