現場に戻った受講者の行動の変化こそが成果指標になる この研修の出口はどこだ?

執筆者情報
人材開発トレーナー
杉浦 重信

「研修への期待」は企業によって当然異なります。「マネジメントスキルの習得」という場合もあれば、「業務に取り組む意識や姿勢の変革」という場合もあります。いずれにせよ、現場に戻った受講者の行動の変化こそが、成果指標になるといえます。今回は、トレーナーとして受講者と向き合いながら、商品開発にも携わる杉浦が、研修プログラムに注入しているエッセンスと仕事にかける想いをご紹介いたします。


迷惑そうな受講者たち

「こういうの苦手なので、やりたくないです」
「忙しい中で、これ以上仕事を増やしたくないんですけど」

研修開始のゴングが鳴ってすぐ、強烈な先制パンチが私の頬をかすめた。これらの言葉は、研修冒頭のオリエンテーションの場で出てきたものだ。

受講者はある大手企業の事務系社員。年の頃20代後半から30代のスマートな女性たちだ。この会社では近年、人事制度が変わり、事務職として入社した彼女たちも、総合職に近い働き方を求められることになった。

新しい役割をまっとうする心構えができていない彼女たちは、かなり戸惑っていた。彼女たちの意識と行動を変えるために、私はトレーナーとして研修会場に立っていたのだ。

彼女たちは何に抵抗を示しているのか?
研修の内容は、課題解決を行うために必要な思考・行動の順序を体系化したプロセスを学ぶことである。キモになるのは、上司や同僚といった周囲を巻き込んで課題を共有し、協働して解決に向かうこと。この「周囲を巻き込むこと」に苦手意識を持っていて、何をしたらいいのか見えていないようだった。

もともとこの研修は、現場課題を解決する力を養成することを目的として、別の企業で中堅社員向けに開発・運用されていたプログラムを応用したものだ。個別企業のニーズをもとに組み立てた研修プログラムを、現場で運用しながら商品開発部門と連携し、内容を洗練させていった経緯がある。

具体的には、周囲とコミュニケーションを綿密に取り、課題認識をすり合わせることが欠かせないプロセスであり、本人の成長にも大きく関わるポイントとなることを学んでもらう。上司と同僚・部下を巻き込みながら、現場課題に向き合うプロセスを身につけていくというものだ。

別の企業では成功した方法も、受講者が変われば通用しない。そもそも「やりたくない」という彼女たちを、どのようにして職場の課題解決の主人公にしていくのか。毎度のことだが、スタート地点からは、ゴールが果てしなく遠く見えるのだった。

目の前の霧が晴れる瞬間

最初は半信半疑で研修に取り組む受講者たちも、「具体的に何をすべきか」が見えてくると目の色が変わってくるものだ。

例えば、ある企業の営業組織では、新規顧客開拓がうまくいかないことが深刻な問題になっていた。その理由を探っていくと、既存顧客を回っていたほうが効率的に売れるし、またそういう人のほうが高評価を得ていることが見えてきた。

この組織にとって、新規開拓は骨が折れるわりに報われない仕事だった。しかし、やらねば組織の明日はない…ということで受講者たちはどうしたか。組織で新規獲得をリスペクトするという日常的にできることをはじめ、新規獲得に対しての評価を見直し、人事評価制度を変えるように自社に働きかけたのである。

「研修を通じて、目の前がクリアになり迷いがなくなった。人事評価とか、そういうことにまで、自分が働きかけていいんだ、というのは発見でした」という感想もあった。受講者は一回り大きくなった自分を、おのおの実感しているそうだ。

話を元に戻そう。「苦手なのでやりたくない」「これ以上仕事を増やしたくない」と言っていた彼女たちも、「具体的に何をすべきか」が分かれば、目の前の霧が晴れ、行動が変わるはずだ。その“機会”をつくってあげるのが私たちの仕事なのだ。

会社からの期待と、今自分が置かれている状況を照らし合わせつつ、職場の課題を深く考えて真の原因を見つけるサポートを続ける。すると、「理不尽に仕事を押し付けてくる上司が悪い」と思っていたことが、実は自分の中にも原因があると受講者たちは気がつくのだ。

研修が終わるころには、「これが自分の役割だと線引きして仕事をして、成長のチャンスを逃していました」という感想も聞こえてくる。2ヵ月後のフォローアップ研修では、「上司からミーティングの司会を任されるようになったんです」と、役割や期待の変化に対する喜びを、目を輝かせながら話してくれる人もいた。

周囲に働きかけることに抵抗を感じていた彼女たちは、今の状況のままで働き続けるのはもっと嫌だったのである。彼女らの中にあるいろいろなモヤモヤが晴れて、現場で何をすべきかが具体的になれば元気になるし、組織もイキイキとしてくるものなのだ。

それで、お前は何をしたいの?

何か課題が見つかったとき、とにかく一生懸命取り組めば解決するという時代は終わった。ビジネスが複雑になり、多くの市場において成熟期を迎え、同じ仕事の仕方をただ繰り返すだけで、事業を育てることは難しくなってきている。

そんな状況下で、従来のやり方を踏襲するだけで、課題を簡単に解決できるわけもない。そこを理解せずに、部下に「気合いが足りない」「提案が弱い」などと精神論をぶつけたところで、マイナス効果にしかならないだろう。

上司が部下に「お前は何をしたいんだ?」と尋ねる場面は、程度の差はあれ多くの企業で今も見られる。

以前は、この質問の意図は、上司が考える “あるべき姿”と、部下のそれを照らし合わせて、ギャップを修正しつつ解決に導くことだったのではないだろうか。例えば、顧客への訪問回数が少ないならこうやって増やせなど、実体験に基づくアドバイスをして実際にそれでうまくいっていた。

しかしながら、今は上司自身でさえ何をすべきなのかが分からず、部下にどうしたいのかを聞いているのではないだろうか。

変化の時代に入り、指導する側の上司が何かしらの答えを持って部下と接することが、非常に難しくなってきている。上司の経験値を生かせる課題ばかりが、都合よくポンポンと出てくるのはあり得ない。

だから当事者が課題に気づき、行動を変えなければ状況を打開できないのだ。そして、行動を変えることができれば、それに伴って仕事に取り組む姿勢やマインドも変わっていくことも期待できる。

ただし、誤解してほしくないのは、「気合いを入れること」や「一生懸命にやること」が悪いわけではないということ。姿勢やマインドが変われば、行動にも影響するのは確かだ。しかしながら、せっかく研修で前向きになっても具体的に行動を起こさないまま日常に埋もれてしまう人が多い。トレーナーとして、この事実はとても歯がゆい。

弊社では、受講者一人ひとりの行動が変わり、組織の活力が高まる効果のことを「実効性」という言葉で表現する。サービスを提供する私たちが目指すべきは、まさに「実効性」だと思うのだ。

受講者に何を届けるのか

「実効性」のある研修をつくり、実施する。これほど言葉にするのは簡単で、実現するのが難しいことはないと、私は商品開発に関わって改めて痛感した。研修をつくる側になった一人として、この研修を背負って、どこを突っ込まれても胸を張って答えられなければいけない。研修内容を確定するときはそれなりの覚悟が必要だ。

トレーナーとして研修を実施しながら、内容をブラッシュアップする作業は想像以上にハードだ。どのトレーナーがやっても、同じような成果が出せるように、マニュアル化を進める際には、「なぜ、この場面でこの問いを発するのか」という疑問を持って、細かいセリフやニュアンスまで明確にしていった。

商品開発に携わるようになって、トレーニングを実施しているときの考え方も少し変わった。

まず、どの研修でも「受講生に何を届けるか」を、これまで以上に意識するようになっている。一つひとつの研修にどれほどのこだわりが込められているのかを考えるようになり、目的を達成する上では大事にすべきこと、省いてもいいところなども見えてきた。

どの研修にも共通して言えるのは、職場に戻ってすぐに行動したくなるような、受講者にとっての「爽快な解決策」につながるヒントを見つけることが出口としては望ましいということだ。行動を変えて課題を解決できれば、受講者本人が元気になり、本来持っている力を存分に発揮できるようになる。そして、その連鎖によって組織も元気になっていく。

研修のスタート地点からは、ゴールが果てしなく遠く見えることに変わりはない。しかし、目指すべき方向がブレなければ、必ずそこに到達できるのだ。たとえ時間がかかっても、受講者に寄り添って、目の前に広がる霧が晴れるところまで進んでいきたい。私はそう考えている。
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