初めての上司や職場はキャリアに大きな影響を与える 新人の不安への処方箋

執筆者情報
株式会社リクルートコミュニケーションエンジニアリング
エグゼクティブコミュニケーションエンジニア
船戸 孝重

7月に入ると、多くの企業の新人が研修期間を追えて、現場へ配属されます。社会人になったばかりの新人にとって、初めての上司や職場は、その後のキャリアに大きな影響を与えるといわれています。
では、配属されたばかりの新人は何を感じ、考えるのでしょうか? そして、上司はどのように関わるべきなのでしょうか?
今回のコラムは、書籍『折れない新人の育て方』の著者であり、実際に多くの企業にサービスを提供するコミュニケ―ション・エンジニアの船戸孝重が、具体的なエピソードを交えて、その考察をお届けします。


エピソード1 「いいから電話してこい」

仕事でお付き合いのあるAさんから数年前に、たまたま新人時代の話を聞く機会を得た。Aさんは中堅の商社で営業課長を務め、キャリアは15年を超える。彼は自分の新人時代の体験が今でもマネジメントの一つの柱になっているとおっしゃった。それは、どのような話だったのか。

Aさんは営業希望で入社し、念願かなって営業部門への配属が決まった。しかし、たまたま物流センターの人員が一時的に足らない状況となり、最初の半年間だけ物流センターへ応援に行くことになった。

希望通りの配属だったにもかかわらず営業で働けないこと、応援派遣は新人では自分だけだったことから、落ち込みようはかなりのものだった。物流センターへ赴任する朝、Aさんは本来の上司である営業課長に呼び出された。

「慰めの言葉をかけてもらうのもウザイなあ……」と思いながら課長のところに行くと、「おまえさあ、仕事が終わって帰る前に必ず俺に電話入れろ、必ず毎日だぞ!……じゃあ行ってこい」と言ったきり、すぐさま自分の仕事に取り掛かってしまった。
「……そうはいっても頑張ってこいの一言くらいは言ってくれても……」と思いながら、一人で物流センターに向かった。

Aさんは言われた通り、毎日必ず退社前に上司に電話を入れ、その日に仕事でどのようなことがあったのかを報告した。しかし毎日ほぼ同じ仕事の繰り返しのため、1週間もすると、わざわざ電話で報告するまでもないなと思えてきた。Aさんが、思い切って課長に「特別話すこともなくなってきているので、明日から電話しなくていいですか?」と切り出すと、「いいから電話してこい」とだけ言って電話を切ってしまった。

仕方なく翌日からも電話はかけ続けたが、話すこともなくなってきたので、自分のプライベートの話や趣味の話など何とか話題を見つけては課長に話していた。同時に「こんな話を続けていていいのか、課長はなぜこんな意味のない話のために毎日電話をかけさせるのか……」といった疑問がどんどん大きくなっていくのを感じていた。

1ヵ月ほどたった頃、Aさんはいつものように電話をかけ終わった後、ふと頭の中に課長の意図が浮かんでくるような感じがして、自分の中の疑問が解けたように思えた。

Aさんは当時を懐かしく思い出しながら、「あの時、ふと浮かんできたのは『自分は一人じゃないんだ、営業課の一員なんだ』っていうことだったんですよ。ぶっきらぼうな課長でしたけど、どのような話をしても、『そうかそうか』と話を聞いてくれて、『じゃ、また明日電話してこい』って言うんです。『課長と繋がっているなあ』と思えました。だから半年間乗り切れたと思います。本当はどうだったのかは、結局課長には聞きませんでしたけど」と話してくれた。

そして「自分の場合は特別でしたが、そうでなくても新人は孤独になりがちだと思います。職場に所属していると思えていない中では、指導も教育もマネジメントもないと思うんですよ。所属感というのは物理的な距離ではなくて心理的な距離ですからね。だから新人マネジメントのベースに『所属感を得られるようにする』というのを置いています」と続けた。

エピソード2 「上司には話してません。ていうか、話すつもりはありません」

2つ目のエピソードの主人公は、グローバルで展開しているIT関係の企業で働いている3年目の女性Bさんだ。その企業では事業はもちろんのこと、人事制度や組織制度も常に先進的で、オフィスもいわゆるフリーアドレスという形式を採用している。

Bさんからはたまたま、彼女の受講した研修の話を聞くことができた。ここでは細かな内容には触れないが、本人にとってはとても有効だったらしく、自分の目指すべきことがはっきりしたということだった。そのことをめぐって、Bさんとのやりとりで非常に印象に残ったことがある。以下その会話を再現してみたい。

―「研修の成果を聞いた上司の方はどんなことを言ってくれたの?」
B「上司には話してません。ていうか、話すつもりはありません」

―「えっ、何か関係でも悪いのかな?」
B「いいえ、特別悪くないです」

―「じゃあ、話してもいいんじゃない」
B「話す気になれません」

―「どうして?」
B「だって、どうしてうちの会社に入ったのか、これまでどういう仕事をしてきたのか、どこに住んでいるのか、家族構成がどうなのか、そういうことって何も知らないんです。そんな人に自分のキャリアにとってとても大事なことを話す気にはなれません」

聞けば、席が決まっていないフリーアドレスという環境のため、上司と会うのは課会か仕事の個別相談以外はないという。Bさんにとって上司の方は、役割上は上司であっても、気持ちとしては「見ず知らずの他人」という存在なのかもしれない。

彼女の話を聞いて思ったことは、考えや行為は極端だなということ、そして自分でもそういう感じ方をするかもしれないということだった。しかし、私ならば、実際にそう感じていたとしても、「報告すべきだ」という“べき論”が優位にたち、恐らく上司に報告していたのだろうと思う。

新人に共通する“感じ方”

2つのエピソードを、読者のみなさんはどのようにお感じになるだろうか。

あらためてこの2つのエピソードを見つめてみると、AさんとBさんの“感じ方の立脚点”が共通しているということを感じる。それは、新人や若手あるいは部下という立場ではなく、“一人の人間”としての立場である点だ。

Aさんの上司は、「どこにいようがおまえは俺の仲間だ!」ということを、非常に不器用な方法で伝えていたように思う。そのことがAさんに「一員なんだ」という実感をもたらしたのだろう。

Bさんについては「報告責任」ということが全く抜けてしまっている点で「幼さ」を感じざるを得ないが、それだけで片付けられないものが残る。そこには一人の人間としての否定できないレジスタンスがあるように思う。

私自身の新人時代を振り返ると、実はAさんに極めて似た状況にあって、「なぜ自分だけ」という疑問と会社に対する恨みを拭えずにいた。そして、自分のことを「よそ者」という感じで迎える応援先の人たちの視線に不安を感じていた。

およそ9ヵ月の“よそ者期間”だったが、真意を誰にも話すことができず、疑問と恨みと不安の解消にたくさんのエネルギーを使っていた。きっと周りから見れば、打ち解けようとしないダメな奴と映っていたと思う。

みなさんの新人時代はどのような状況だっただろうか。

問われるのは上司の姿勢

新人時代、それも配属後の最初の3ヵ月から半年間は、新人は大なり小なり不安を抱えている。それは漠然としたものから具体的なものまでさまざまだ。特に最近は、学生時代の日常と企業での日常のギャップの大きさがその不安をより大きくしているように思う。

この不安の厄介なところは、不安と戦うことで相当なエネルギーを消費してしまうことと、ものごとの捉え方が否定的になりがちだということだ。

一方で、人一倍不安を感じていた私自身も、今から思い返してみると、なぜあれほど不安がっていたのかよくわからないし、それどころか不安だった感覚すら忘れてしまっている。
これはどういうことなのか。

よくよく自分の心の内を見つめてみると、いつになってもこうした不安はなくならないはずで、不安に耐える力、現実・周囲と自分の中に不安よりも希望を見つける見方・感じ方と、飛び込めばなんとかなるという一種の安心・楽観・自信を身につけたということなのだろう。

この不安感の解消には、初めは上司の働きかけが大きく影響する。その意味で「安心感」をつくることが新人マネジメントの土台になると考えている。これはテクニックだけでなんとかなるものではなさそうだ。

なぜなら2つのエピソードで見てきたように相手(新人)が理性で受け取るわけではなく、直感や感覚で受け取るからだ。大げさに言うなら、そこでは上司である前に一人の人間としての姿勢が問われるように思う。

甘やかすこととは似て非なる「安心感」をつくること、これを通して新人の中に「不安に耐える力」が醸成され、本来持っている力が発揮されるように、真正面から向き合っていきたい。私は新人に関わるたびに、ご紹介したエピソードを思い出しながら、自分にそう言い聞かせている。
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