連載・コラム
現場からは頻繁にあがる「新人が思うように育たない」
若手社員定着化のために 〜新人・若手とどのように関わっていますか〜
- 公開日:2011/01/17
- 更新日:2024/05/20
事業環境も厳しい昨今、自社にマッチした人材の厳選採用が一層求められています。心を尽くして「この人なら」と採用しているにもかかわらず、現場からは「思うように育たない」「強く言うとすぐに辞めてしまう」と報告があがってきてしまう…そういった問題に直面している人事の方のお話をよく聞きます。
こうした問題にどう対処したらいいのか、当事者にとっては問題の本質が見えにくいものでもあります。
本コラムでは、研修という日常を離れた場所で受講者と関わっているトレーナーが現場での経験から、その解決策のヒントを提示します。
大切にしたいのは、「周囲から浮いた存在になりたくない」こと?
ここ数年、入社直後の新人研修と、半年後から3年までの若手研修の講師を数多く担当してきました。最近痛切に感じているのは、その企業で実際に働くという明確なイメージをもたないまま入ってきた新人が非常に多いということです。今の若い人は情報収集力には長けているので、ホームページに書いてあるような企業理念や事業内容には詳しくても、現実の仕事の中身に関しての理解は浅いといわざるを得ません。
また、就職戦線の厳しさを反映しているのか、安定志向が強く、バリバリ働くというより、自分の身の丈にあったところで大過なく働きたいという気持ちが強いのも特徴です。
そういう彼らが重視するのは、仕事の面白さややりがい、というより社風です。説明会で会った人事の人やOB・OG訪問で話をしてくれた先輩たちとの話が弾んだとか、何度か訪れて感じた雰囲気がよかったということが決め手となって、入社を決めてしまいます。
入社後も万事に控え目、自ら前に出て、集団を引っ張っていくようなタイプの人があまりいません。
研修でこんなことがありました。弊社の新入社員導入研修FBCでは、役割名を含め、いくつかの役割を自分たちで決めてグループワークをはじめるのですが、真っ先に決めるべきリーダー役を誰が担うか、なかなか決まらないのです。
かつては、グループごとにリーダーシップを自然に発揮する人が必ず現れ、その人が自ら「やります」と手を挙げたものでした。が、今は違います。他から推挙されないと、誰も名乗り出ないことが非常に多いのです。
さらに興味深いのはその呼び方です。リーダーという言葉は使わず、「進行役」という言葉をわざわざ使う。これも最近の傾向です。横並びを重視し、少しでも目立つのが嫌なわけです。でも、そんな彼らの能力が低いかといえば、そんなことはありません。みんなに推されて「進行役」になった人は堅実にリーダーシップを発揮しようとし、その役割を果たそうと任されればやりきります。
弊社は2010年3月から4月にかけて「2010年度新入社員意識調査」を実施しました。ここで、新入社員に「社会人として働いていくうえで大切にしたいと思っていること」を聞いてみたところ、上位2つは、「社会人としてのルール・マナーを身につけること」(選択率50%)と「周囲(環境・顧客)との良好な関係を築くこと」(同39%)でした。その後に「仕事に必要なスキルや知識を身につけること」(同38%)、「任された仕事を確実に進めること」〈同33%〉が続いたのですが、直接、仕事に関連する後者の2つを押しのけて、はじめの2つが1位、2位になったということには、「周囲から浮いた存在になりたくない」という最近の若者の特徴が如実に表れていると思います。だからこそ、リーダー役になりたがらない、リーダーという言葉も使いたくないのでしょう。
そういう彼らは、人に対面して何かを言うのも非常に苦手です。新入社員導入研修(FBC)では、研修の最後、数日間をともにしたメンバーと、自分が感じたその人の強みと弱みをアドバイスし合うワークがあるのですが、「友人にも言ったことがない、そんなに深い話を本人に直接伝えるなんて無理だ」という反応を示す人が何人もいます。でも、そんな場合私が心がけていることは、多少無理にでも、メンバーを一人選んでその人の強み弱みを伝えてもらうことです。そうするとそれを受けたメンバーがきらきらと目を輝かせて、「自分のことをそんな風に言ってもらうのは恥ずかしいけど、うれしい!」と言います。そのメンバーの輝いた顔を見ると、一転して、生き生きと取り組むのです。 何かを「やってください」と言われても、自分が納得しなければ、とりかからない。でも、いったん納得したら、きちんとやり遂げる。これも今の若手の特徴です。
上司や先輩は私たちに遠慮している?
一方で周囲との関係はどうでしょうか。入社して半年経った社員に、会社に入ってから一番楽しかったことを書かせてみると、「先輩が飲みに連れて行ってくれたこと」と書く人がとても多いのです。これは二つのことを表していると思います。
ひとつは、以前だったら仕事の一部のようだった先輩や上司と飲みに行くような機会が激減していること。だからこそ、楽しかったイベントとして、新人の頭に記憶されているのです。
もうひとつは、「上司や先輩ともっと親しい関係になりたい」と思っている新人が多いということです。「最近の若者は公私の別が明確で、アフター5は完全に自分の時間。飲みに誘うなどもっての外だ」と思われがちですが、彼らは待っているだけなのです。
ある研修で出会った新人がこう漏らしていました。「上司や先輩は私たちに遠慮している気がする」と。
無理もないのかもしれません。後輩や部下に手厚く接しようにも、自分の仕事をこなすだけで目いっぱいの毎日で、仕事の悩みに耳を傾ける暇もないし、飲みにも連れて行ってあげられない。一方で、もっと踏み込んだ関係になり、厳しく接しようものなら、メンタル不全を発し、会社に来なくなるかもしれない……。私から見ると、お互い気になって相思相愛状態になっているのに、告白できていないカップルのようです。告白しなければお互いの気持ちは伝わりませんし、気持ちが伝わらなければよい関係を築くこともできない、息の合った仕事をすることもできないのです。
きっかけさえあれば若手は自ら手がかりを掴む
そういう問題に対して、私たちの提供する研修プログラムが貢献できる点が2つあると思います。
ひとつは日常から離れた場で、自分自身や仕事、職場を客観的に振り返る材料と機会を提供するということです。
つい最近、新入社員フォロー研修FBPにおいてこんな若手がいました。その人が配属されたのは、「モタモタするな!」と、先輩が平気で罵声を浴びせるような体育会系の職場。でもその先輩は反面、面倒見がよくて、その人を頻繁に飲みに連れて行ってくれるのだそうです。その場では仕事の話は一切せず、「お前はこんな人間なんだから」という話ばかり聞かされたといいます。
研修の初日はまったく元気がありませんでした。しかし、研修の中で、自分がどんな風に先輩の目に映っているかを他のメンバーと客観的に話し合ったり、先輩からのメッセージやサーベイ(360度評価)の結果から自身がどう思われていたのかを知ることで、最後は「先輩がどんな気持ちで僕のことを見ていたのかよくわかりました。厳しい人だけれども、僕のことを親身になって心配してくれているんですね。これからは自分の考えや気持ちを先輩にどしどしぶつけようと思います」と元気に去っていきました。このように、現状を振り返り、不安や不満の原因を客観的に捉えることで払拭し、新たな目標への手がかりを掴んで、職場に戻っていくのです。
もうひとつは本音の議論ができることです。私たちの、新人または若手向け研修は2日あるいは3日を要し、しかも、相当骨の折れるグループワークが中心です。 講師が一方的に教えるだけのものではなく、与えられるいくつもの役割を各自がしっかりこなさなければ前に進みません。しかし、進行役を与えられたメンバーが必死にやっているのに、他のメンバーは彼・彼女にお任せになってしまう、という現象がよくおきます。そんな状態のときは本当に自分たちがそのままでいいのか、真剣に考えてもらうシーンを作り、自分たちで解決してもらうよう働きかけます。
だからこそ、職場に帰っても学んだことが抜けないので、その人自身の行動変容につながっていくのです。
新人・若手定着化のために上司や人事ができること
私は研修トレーナーの立場から、新人・若手と職場の上司・先輩がもっと相思相愛になれるように、今後も、新人や若手のほうから、自分の思っていることや忌憚のない意見を周囲にぶつけられるよう、本人たちに働きかけていこう、と思っています。
そのうえで、上司や人事の方にもぜひやっていただきたいことがあります。
まずは新人の入社動機を固めるような仕掛けを工夫してはいかがでしょう。冒頭述べたように、今の新人・若手の問題は、自分はなぜこの会社で働くことを選んだのか、という理由付けが希薄なまま、入社してきた人が多いという現象と大いに関係があるからです。
難しく考える必要はありません、例えば、2、3年上の先輩たちに、自分の仕事経験を語ってもらえばいいのです。どんな仕事を任され、どんな成果を挙げたか。逆にどんな失敗をして、それをどう乗り越えたか。新人たちも、会社で働くことは未経験でも、勉強やサークル活動、バイトなどで、苦しい瞬間を乗り越えてきた経験を沢山もっているはずです。先輩たちの苦労話がそれとリンクする形で伝われば、仕事とはこういうものか、苦しい時もあるけど、自分が今まで培ってきた力を生かして乗り切っていけるはずだ、と思わせることができる。そうなればしめたもの。実際の仕事にぐっとスムーズに入っていけるはずです。
我々の提供する新入社員導入研修(FBC)でも、入社動機を深く掘り下げて、あらためて固めることをテーマに行っているものもあります。漠然と入社するのではなく、働くイメージと目標を明確に持っていれば、その後の成長もスムーズです。
あとは、間違っても「上司や先輩が自分たちに遠慮している」と思わせてはいけません。思うに、両者の心理的距離がまだ遠いことが、そういう気持ちを抱かせてしまうのではないでしょうか。上司・先輩が毎日の業務報告を受ける際など、仕事の成果だけに着目するのではなく、若手がうれしいのか、つらいのか、その感情に着目して気にするだけでも、上司の方も若手に対する見方が変わり、会話の内容も変わってくるのではないでしょうか。
もうひとつ、これは人事の方にぜひ申し上げたいことがあります。どちらの企業でも人事の方々は本当に熱心で、新人一人ひとりを実によく把握されていて、頭が下がります。
その一方で、新人の上司たちとのコミュニケーションをもっと密にするべきではないか、とも思うのです。つまり、人事の方が多忙な職場の上司に遠慮してしまい、新人たちに必要以上に直接関わりすぎている傾向が見受けられるのです。ですから定期的に部署にヒアリングに行って、仕事の様子をさりげなく観察し、元気のなさそうな新人がいたら、本人ではなく上司に理由を尋ねてみるのです。
上司や先輩がもっと後輩や部下に関わりをもつ。人事ももっと現場に関わりをもつ。この2つをうまく実行するだけで、今の新人・若手問題はかなり解決するのではないでしょうか。
本コラムではお伝えし切れなかったことも沢山あります。お気軽にお問合せやご意見・ご感想などお寄せいただければ幸いです。
執筆者
人材開発トレーナー
梶 陽子
1988年株式会社ノエビア入社。営業として京都支店、立川支店に勤務。その後関連会社株式会社ノブに出向。東京支店勤務後大宮支店にてチーフ。社員の教育を任される。 2005年3月日本ロレアル株式会社に入社、トレーニングマネージャーとして3ブランドのトレーニングを統括。
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