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新たな自分を確立していくプロセス

人間回帰、原点回帰。

  • 公開日:2007/10/01
  • 更新日:2024/03/25
人間回帰、原点回帰。

1971年に開発されたDP(リーダーシップ開発研修)シリーズは、リクルートマネジメントソリューションズが提供する研修プログラムの中で最も長い歴史を持ちます。「すべての答えは人の中にある。組織で働く人たちが関わり合いながら、その答えを引き出すことによって気づきや自立的な行動を促していく」DPに込められた精神は、時代の荒波を乗り越え、今改めて注目されています。今回はこの研修に誕生時からさまざまな形で関わってきたトレーナーが語ります。

「つもりの自分」と「はための自分」をぶつけることで、「それまでの自分」を超える。
人間は単純じゃない。でも、時々、奇跡のようなシーンに出会うことができる。
どんなに合理的なシステムでも、人間がその気にならなきゃ始まらない。

「つもりの自分」と「はための自分」をぶつけることで、「それまでの自分」を超える。

DPは当初モラルサーベイとして開発されました。自分の仕事や自社の企業風土について、従業員に評価してもらう。人事が従業員の満足度を知るためのツールだったわけです。ところが、そのデータを人事だけで独占しているのはもったいないという話になった。部下が上司に対して評価していることを、直接上司にフィードバックしたらどうなんだろうと。実際にやってみると、非常に大きなインパクトがありました。今でこそ360度サーベイはあたりまえですが、当時は部下が上司を評価するなんてとんでもないことでしたから(笑)。そういう意味でこの研修はリクルートの風土でなければ生まれてこなかったでしょうし、根底には「仕事をやっている時は立場の違いなど関係ない」「権威や立場で人を動かすのではなく、互いが納得づくのリーダーシップがあって初めて人は動く」という考え方があったはずです。

プログラムの中身は当時とほとんど変わっていません。人は誰しも「自分はこういう人間だ」という自己概念を持っています。DPではこの自己概念を360度サーベイとグループワークによる周りからのフィードバックによって確認し、動揺を起こし、再構築していきます。ほとんどの人は、自分のことを善かれと思っています。そして、そういう「つもりの自分」は、部下や上司から見た「はための自分」とはかなり異なっています。そのギャップを他者に指摘されることで、自分の行動の特徴、つまり強みと弱みを客観的に知ることができます。最近はどうもこうした機会が少ないのか、若い人に限らず「うっ」とくる方は多いですよ。しかし、ここは私たちが提供する最低線でありDPの本当の狙いは行動特徴の背景にある自分を知ること。「自分がなぜそういう行動をとるのか」内面を掘り下げていくことにあります。動揺する自分から目をそらさず、グループ内のメンバーに助けられながら乗り越え、新たな自分を確立していくプロセスといったらいいでしょうか。そこで初めて深い気づきが起こり、もっと広くて、自由な自分に会うことができるのです。

人間は単純じゃない。でも、時々、奇跡のようなシーンに出会うことができる。

DPは通常5人ほどのグループで行います。トレーナーの役割は、まずグループ内にざっくばらんな雰囲気をつくり出すこと。お互いの率直で親身な関わり合いがないと、深い気づきまで行くことはできません。受講者を上から押さえつけるのでなく、教えるのでもない。「本当のところはどうしたいんですか?」「ホンネを言えてますか?」。べき論ではなく、一緒に考えていく。若い頃は受講者の皆さんと対決しなくてはと思ったこともありましたが、今は「オレもそうだよ。あなたと同じようにいろいろと悩んでいる人間だよ」という気持ちが大きいですね。ただこの研修は精神的にはしんどいですよ。前日は不安で眠れないというトレーナーもいます。自分のことを評価されて嬉しい人はまずいませんから。「なんでオレが・・・」いかにも不機嫌そうな顔をした受講者の方が、目の前にいる。これは、つらい。それでもこの研修が好きで続けていられるのは、人が変わる感動的な瞬間に立ち会えるからかもしれません。

最近もある新興企業の研修中にこんなことが起こりました。1つのグループの中に、大手企業から中途入社した役員さんがいらして、どうもしっくりいっていない様子だった。話にもあまり参加せず、心を閉ざしている感じでした。メンバーにも気遣いが見えた。どうなるかなと思って見守っていたら、あるメンバーが言ったんですね。「○○さんは、うちの社員になっていないんですよ」。その一言で、顔つきがすっと変わった。それまでの頑なな気持ちやプライドやらが剥げ落ち、すっきりとしたのでしょうね。自分から積極的に思いを話し始めました。その晩はみんなで飲んで盛り上がって・・・。嬉しいですよ、やっぱり。

DPは人の心がテーマですから、実は正解はないんです。どんな優秀なトレーナーにも、心の深いところまではわからない。だから受講者全員が変わることはない。そんなことが起こったら逆におかしい。人間はそう単純じゃない。でも、その中の何人かは本当にすごい変わり方をします。この研修に感動して、トレーナーになった人もいるくらいですから。

どんなに合理的なシステムでも、人間がその気にならなきゃ始まらない。

DPは私たちが提供する研修プログラムの中で、最も普遍的なものです。なぜなら対象が人間だから。人間の動機付け、心がテーマ。ただ誕生して36年の間に企業を取り巻く環境はさまざまに変わり、DPに期待されることも変わってきました。正直なところ、成果主義に代表される合理的なシステムの中では、埋もれがちだったと思います。確かに問題解決力、戦略性などにはあまり貢献できないですからね。しかし、ここにきてまた風向きが変わってきた。DPの精神に共感を覚える企業が増えてきています。つい先日もある経営者の方から「昔DPってやつを受けたんだけれど、今もありますか?」という問い合わせがありました。仕組みだけではなく、人間の動機付けがいかに大切か。人と関わっていくことの重要性に、多くの企業が気づき始めています。

成果主義やフラット化した組織の中で、人は孤立しています。一人で仕事をするようになり、任される仕事は増えていく。人との関わりがどんどん薄くなり、人と人のシナジーは得られない。一人では解決できないと頭ではわかっているが、つながりをつくる時間がない。マネジメント力は落ち、組織が弱体化していく。個人を見ても、トラブルを抱えている人が増えています。統計にも出ていますし、私自身の実感値としても強く感じます。成果主義が間違いだとは思いませんし、公平感など素晴らしい面はたくさんあります。でも、日本人は欧米人とは違う。日本人は彼らのように合理的には生きられないし、あんなにタフじゃない(笑)。成果主義はこれから日本に合った形で成熟していくはずですが、その中でDPは大きな役割を果たせるのではないかと思っています。

DPには「職場から出て、職場に帰る」というキャッチフレーズがあります。なぜならば受講者は職場からサーベイという形で受けたメッセージを、行動計画という形で職場の上司や部下に伝えていくからです。実際、社員の意識を変えるだけでなく、組織を活性化させ、組織風土や文化を変えるために活用される企業も増えてきました。一人ひとりが強くなっていくと同時に、組織が強くなる。そういう意味でDPは「人と組織を生かす」という弊社の理念そのものを体現している研修といえるかもしれませんね。

執筆者

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人材開発トレーナー

山岸 英樹

1945年生まれ。1970年リクルート入社。営業職(求人広告、適性検査、研修プログラム)を6年間担当。その後10年、研修トレーナーの採用、養成、評価などの人事全般に携わる。1985年、リクルート(現リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーとなり、現在に至る。

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