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『8つの基本行動』で第一歩を踏み出す

「相手の期待を考える」姿勢 〜新入社員研修で何を伝えるか〜

  • 公開日:2006/12/01
  • 更新日:2024/03/25
「相手の期待を考える」姿勢 ~新入社員研修で何を伝えるか~

厳選採用が進み、新入社員一人ひとりの存在が以前にも増して重くなってきている今、企業の新人研修に対する期待も高まっています。限られた時間の中で、何を感じ、何を身に付けてほしいのか?弊社の新入社員研修の一つである『8つの基本行動』に開発から関わり、実際の研修も担当しているトレーナーに話を聞きました。

パブロフの犬ではなく、ビジネスマナーの根底にある期待や気持ちを伝えたい。
トレーナー自身が受講者の期待を常に問い、研修に込めたメッセージを伝える。
誰もが成長への意欲を持っている。研修の2日間は、安心して失敗してください。

パブロフの犬ではなく、ビジネスマナーの根底にある期待や気持ちを伝えたい。

8つの基本行動』研修は、新入社員の皆さんが自信を持って第一歩を踏み出せるよう、社会人として必要な基本行動(ビジネスマナー、仕事のすすめ方)を学んでいただくためのものです。この研修は2002年の10月に開発が始まり、翌年の3月に正式プログラムとしてスタートしました。私はデビューしたての新人トレーナーだったのですが、幸運にもこのプログラムの開発に参加することができました。その時に開発メンバーたちと話したのは、“パブロフの犬”研修にはしたくないということでした。挨拶や名刺交換といったビジネスマナーを身につけることはいわば大人になるための通過儀礼で、社会人としてまず知っておかなくてはいけないことです。しかし、わずか2日間の研修でビジネスシーンのすべてを網羅できるわけではありませんし、また公開コースなのでいろんな背景を持った受講者の皆さんが対象となります。

そうした中で、「こういう場合のお辞儀の角度は30度」、「お詫びするなら45度」といった具合に、細かいスキルを単純に体で覚えこむような研修というのは、果たして我々がやる意味があるのか。人に会ったらただ反射的にお辞儀をするだけの“パブロフの犬”を社会に送り込むだけではないのか?気づきや自己概念の変革をテーマにしているリクルートらしい研修とは何だろう?何度も議論を重ねていくうちにたどり着いた結論は、「相手の期待や気持ちを考えること」をすべてのベースに置こうということでした。ビジネスマナーの向こう側には、必ず相手の期待や気持ちがあること。それはあらゆるビジネスの基本であり、組織を円滑に回していく上で必要不可欠なものでもあります。知識やスキルだけではなく、ビジネスマナーの根本にある考え方や姿勢を学び、持ち帰ってもらえるような研修にしたいと考えたのです。

私たちが研修に込めた思いが間違いでなかったかもしれないという出来事が、最初の年に起こりました。研修の最後に受講者一人ひとりがグループ内で決意表明する場面があるのですが、あるグループの男性が「いちばん響いたのは、相手の期待を考えるというところでした。僕はこのことを、これからの社会人生活の中で心がけてやっていきたい」と言ってくれたのです。周りのメンバーに冷やかされても、「いや、ほんとにそう考えているんだ」と真剣な表情になって・・・。開発に関わった人間としては、このシーンは非常に嬉しかったですね。

トレーナー自身が受講者の期待を常に問い、研修に込めたメッセージを伝える。

相手の期待や気持ちを考えることの根底にあるのは、特別なことではなく、実は普通の人の普通の感覚です。相手が自分のことを気にかけてくれたら嬉しいし、無視されたら悲しいでしょう。そして、こうしたことは誰もが経験しているはずです。ただ子供の頃は親(相手)に考えてもらっていることがほとんどですし、学生時代は仲のいい人間同士で固まっていることが多いので、「相手の期待は何か」と意識的に考える場面は案外少ない。ですから、研修の中では、相手の期待を考えるとはどういうことかを改めて考えてもらうようにしています。

例えば、初日のオリエンテーションが終って、最初に学ぶ基本行動は「出社して元気に挨拶」ですが、我々の場合は、いきなり「さあ、立って挨拶の練習をしましょう」とはいかない。「どうして挨拶をするんでしょう」「挨拶のメリットはなんでしょう」つまり、挨拶ってそもそも何?を考えることから始め、その後実践練習を繰り返していきます。こうした姿勢は、その後のセッションすべてに渡って続いていきます。受講者から質問された場合でも、すぐに答えを与えないようにしています。まず「あなたが相手の立場だったら、どうして欲しいですか」と問い返す。私たちトレーナー自身が受講者の気持ちや期待を常に問い、何度も何度も繰り返して訴えていくわけです。そこが抜けてしまうと、私たちが研修に込めたメッセージが伝わりにくいですし、何よりも受講生の皆さんがこの研修を信じてくれないでしょう。

受講生の皆さんを甘やかさないのも特長かもしれませんね(笑)。研修ののっけから、「皆さんは私たちのお客様ではありません。お金をいただいている皆さんの会社からは、びしびし鍛えてくださいと言われていますのでそのつもりでお願いします」と伝えることもあります。会社が“あなた”に何を期待しているかを感じ取ってほしいのです。こうした基本姿勢は今でも毎年春になると、トレーナー同士で確認し合って徹底させています。

誰もが成長への意欲を持っている。研修の2日間は、安心して失敗してください。

私はどんな新入社員であっても、気持ちの中には成長への意欲があると信じています。そう信じているからこそ、トレーナーができるとも思っています。今でも印象に残っている一人の受講生がいます。ついこの間まで高校生だった男性の受講者です。革靴は履けど、靴下はなし。ベルトは腰までずり落ち、シャツは出ている。直立は不可能で、いつもだらん。敬語の練習ではカンニング。初日に、おそらくは逃げようとしたところを同僚のトレーナーに捕獲されました。ロールプレイでペアを組む相手は当然引きます。そんな彼が最後の決意表明の場面で、「皆さん、ご迷惑をおかけしました」と頭を下げたのです。彼にも自分の行動が人に不快感を与えていたということはわかっていたんでしょうね。アンケート用紙にも「僕はこの研修を受けなかったら本当にダメ人間になっていたと思います」と書いてありました。これは私の想像も混じっていますが、彼はそれまで自分で自分にダメ人間のレッテルを貼っていたのではないでしょうか。でも心のどこかではそういう自分がいやだなとは思っていたはず・・・。社会に出て成長したい、先輩に可愛がってもらいたい。でも何をしていいかわからなかった。研修の場ではできませんでしたが、一人になったら部屋で一生懸命練習していたんじゃないだろうかと思うのです。

8つの基本行動』は弊社が扱っている中で、受講者の成長度が目の前でいちばんわかる研修プログラムです。初日の朝と2日目の最後では、挨拶が違い、言葉遣いが違う。そこには嬉しい気持ちを超えて、人間はこうやって伸びていくんだなぁという感動があります。この場を親御さんに見せてあげたら、きっと泣くだろうなぁと思いますね。受講生を送り出すとき、明るい顔で「ありがとうございました」なんて言われると、日本も大丈夫かなっていう気持ちになりますよ。

執筆者

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人材開発トレーナー

大川 修二

1961年生まれ。85年より外資系クレジットカード、旅行関連会社(顧客サービス、研修関連部門等)で10年間勤務。後半の5年間はマネジメント業務を担当。95年退職し、フリーの翻訳家に。マネジメント、マーケティング、モチベーション関連等の書籍を翻訳(現在までの出版点数は17冊)。2001年、リクルート(現リクルートマネジメントソリューションズ)トレーナーとなり現在に至る。数年間は翻訳業と掛け持ちでしたが、現在はトレーナーに専念

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