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コミュニケーション・エンジニアリングという突破口

「できそうにない・・・」が、「やりたい」「やる」に変わる

  • 公開日:2006/06/01
  • 更新日:2024/05/07
「できそうにない・・・」が、「やりたい」「やる」に変わる
「コミュニケーション・エンジニアリング・サービスって、どういうものなんですか?」
「ちょっと黙っていてくれませんか。我々でやりますから」
「あれ、お前が考えたんだ、すごいなー」
「こういう場って、ここ10年間、なかったんだよね」

「コミュニケーション・エンジニアリング・サービスって、どういうものなんですか?」

社内の人間でもなかなか説明しにくいと言われているコミュニケーション・エンジニアリング・サービス(以下、CES)。私は、企業の皆さんからの質問にお答えする際、よくこんなたとえ話をします。「子供の頃のことを覚えていますか?みんなで集まると、野球をやろうとか、基地をつくろうとか、知らないところへ冒険に出掛けようぜとか、誰にも何も言われていないのに、自分たちで目標や目的をつくり、時にはルールまでつくったりして遊んでいたでしょう。みんな元気で、生き生きとしていましたよね。私たちのサービスの本質を端的に言うと、企業や組織で働く一人ひとりが、子供時代の“あなた”や“わたし”のように生き生きとして、お互いに仲間になって働けるような状態をつくり出すことなんですよ」CESの本質は、非常にシンプル。そして、こんなふうにお話をすれば多くの人が、「そうなんだよ。そういうことが大事なんだよなぁ」と頷いてくれるのではないでしょうか。でも、CESがスタートしたばかりの頃はサービスの内容をなかなか理解してもらえませんでした。なぜなら組織のあり方が、こうした考え方を必要としていなかったからです。それまでの日本企業の事業推進のスタイルは、ほとんどがトップダウンでした。ビジョンや事業戦略が上位概念としてあり、それに対して現実の姿やベンチマークとなる企業がある。トップの号令一下、そのギャップを見つけ、埋めていくという発想が主流でした。

しかし、バブルを経て、さらに2000年以降になると、時代は低成長、お手本となるような企業も少なくなり、自分たちで価値を生み出していくしかなくなってきました。そんな状況を打ち破るものとして、「人はどういう時に生き生きと働くことができるか」といったモチベーションの部分に光が当たるようになったのです。ちょうど大手企業がビジョンや戦略を策定する際に、「元気」とか「かがやく個人」「現場力」といったようなキーワードを入れ込んできた時期と重なります。しかし、長年のトップダウンに慣らされてきた組織が、自立した個人の集団に生まれ変わろうといっても、そう簡単にはいきません。「人事制度やシステムは導入したんだけれど、肝心の社員にどうも元気がないなぁ」こうした状況が、多くの企業に生まれていったのです。

CESは90年代の初めに原型ができ、サービスをスタートさせていますが、本当の意味で理解されだしたのはその頃ではないでしょうか。冒頭のような話をして違和感なく納得していただけるようになったのは、ほんのここ数年のことなのです。

「ちょっと黙っていてくれませんか。我々でやりますから」

経営トップと幹部、幹部間、マネジャーとメンバー、メンバー間、あるいは部門間。企業や事業はいろいろな関係性の中で動いています。私たちはその関係性の中に生じるさまざまな課題や障害を、コミュニケーションの場をつくり出すことによって明らかにし、「やりたい」、「やる」という気持ちを一緒に引き出していきます。

例えば、私が最近担当したH社は、マーケティング戦略の失敗で10年ほど前から業績が低迷。社内変革としてまず製造現場の変革に着手したところでした。コンサルティング会社を招聘して、徹底的に効率化を行い、結果として利益は大幅に向上したものの、社長の狙いはもうひとつ別にありました。「現場の幹部たちがコンサルタントに依存せず、自立してほしい」社長の目には、彼らはまだまだ「会社に甘えている」と映っていたのでしょう。しかし、依頼を受けて現場の皆さんにインタビューを行ってみると、決してそんなことはありませんでした。彼らは社長のいっていることをきちんと理解しているし、社長からは見えないところで自分たちなりに努力し、頑張っていたのです。私たちの役割は、この思いのズレをなくし、両者をつなぐ「触媒」となること。私たちはそのための設計図を描き研修に臨みます。私たちがいなくても同じようなことは起こるかもしれない。でも、何年、何ヵ月後ではなく、3日間で起こす。それがプロフェッショナルとしての私たちの役割だと認識しています。

研修当日、メンバーの胸に秘めていた悔しい思いがそれぞれの口から溢れ出してきました。メーカーの場合、自分たちの商品や技術に対する思いやこだわり、誇りが共有されて、心に火が付くことが多いのですが、このケースもそうでした。同時に、新しいことへの挑戦こそが自分たちの強みであり、誇りであることが確認されていった。「もう一度、挑戦したい。ヒット商品を作りたい。そのためには何が足りないか」自分たちで話し合い、決めていったのです。しばらくしたある日の会議室、いつものように発言しようとしたコンサルタントをさえぎったメンバーの一人が、こう言ったそうです。「ちょっと黙っていてくれませんか。我々でやりますから」。まさに社長が願っていた“一皮むけた”瞬間でした。


「あれ、お前が考えたんだ、すごいなー」

中小・中堅企業が成長していく過程で生じるさまざまな課題に対して、中・長期的なスタンスでかかわり解決していくようなケースもあります。メーカーN社とは、かれこれ7年以上のお付き合い。「事業の強みを現場から幹部まで共有し、恒常的な業績を上げる組織体系づくり」を目指してスタートしたプロジェクトは、「生産現場の元気を取り戻す」というテーマを皮切りに、営業部門の強化、部門間の連携をテーマにしたソリューションを展開しています。その中から印象に残っているシーンをひとつ。

同社は急成長中に多くの中途採用をしてきたのですが、採用者同士のつながりが弱く、一人ひとりが黙々と働いているような状況。そのことが生産現場の元気のなさや部門間の連携の弱さの原因の1つとなっていました。そこで中途採用者を対象とした研修を行うことになり、最初のステップとしてそれぞれの日頃の仕事や成功体験を語っていただくような場を設けました。

参加メンバーの一人だったAさんは、同社の製造過程でスタンダードとなっている“ある工程”を考えた人でした。Aさんがそのことについて照れくさそうに話すと、それまで義務感的な雰囲気が一変しました。普段当たり前のように行っているその工程を、自分たちと同じ中途入社のAさんが考えたものだったとは知らなかったからです。「知らなかった。あれ、お前が考えたんだ、すごいなー」と、身を乗り出してくる。私が思わず、「○○さんのやられたことは、まさしくN社の命ですね」と言ったら、「そう、そう」と納得の声。現場での小さな創意工夫がN社の強み(競争優位性)にほかならないことを、その場にいらした社長と生産部長を含めた全員で共有することができたのです。同じようなことは営業部門と部門間の連携をテーマとした際にも起こり、そのことがきっかけとなり徐々に社員のコミュニケーションが始まっていきました。活気を取り戻した同社は、停滞期を脱し、再び成長への軌道に乗ったところです。

「こういう場って、ここ10年間、なかったんだよね」

生き生きとした個人同士が、お互いに協力して働けるような状態。私たちが目指す「自立協働型の人と組織づくり」は、あらゆる企業活動の基本となるものです。だからなのでしょうか、最近では、事業・戦略推進にむけて、さまざまなテーマに利用されるケースが増えてきました。

例えば、研究者のタコツボ化(自分の専門領域に固執し、協働の姿勢に欠ける状態をタコがつぼに入りこみ、出てこないさまになぞらえた言葉)などの研究開発マネジメントにおける課題解決、企業や事業の合併・統合の際の意思統一、2007年問題(団塊世代のリタイアに伴う技術伝承)、世代交代(DNA継承)、新卒者と中途入社者との意識のギャップ対策…。また対象となる業界も、当初多かったメーカーだけでなく、金融やサービス業界にまで広がりを見せています。それぞれの企業によって置かれた状況や課題となるテーマは異なりますし、何が生き生きと働けるようなモチベーションのエネルギーとなるかも、企業によってさまざま。しかし、まずコミュニケーションができる場をつくるという点は同じです。ある大手メーカーで若手技術者を対象としたCESを行った後、社員食堂を使って上司やベテラン技術者との懇親会を開いていただいたことがあります。上下左右関係なく、楽しそうに談笑する光景を見ていた担当者がふと呟いた一言が、今でも印象に残っています。「そういえば、こういう集まり、ここ10年間、なかったんだよね」

考えてみれば、社内の人と人とがコミュニケーションできる場というのは、かつては当たり前のようにあったんですね。飲み屋、社員寮、社員旅行、運動会…、こうした中で世代や部門を超えたコミュニケーションが自然と起こり、企業の見えない価値が生まれていたように思います。最近、ある大手商社さんが独身寮を復活させるというニュースを耳にしました。「やっぱり、気付いている会社は気付いているんだなぁ…」と、少しばかりの危機感も感じながら、社会や企業という生き物の不思議さに思いをはせています。

次回連載:『職場に活かす心理学 第1回 「幸福感」を高めるために必要なこと』

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