連載・コラム
アセスメントによる自己理解の扉を開く
「腹に落ちる」ということ
- 公開日:2007/06/01
- 更新日:2024/03/25
まだ肌寒い3月、知人のオフィスを訪ねたときのこと。総務部の彼は薄着で暑いオフィスの中にいた。「ウォームビズを実践したら?」と提案し、暖房の設定温度を25℃から20℃に下げてもらった。1週間後に再び訪れると、暖房の設定温度は25℃のまま。しかも、シャツの袖を捲り上げ「企業における環境問題への取り組み」というレポートを書いていたのだ。
「腹に落ちる」感覚を味わったことがあるだろうか?
さて、能力開発やキャリア開発のためにアセスメントを実施している企業の人事の方から、「アセスメントをもっと活用して、個人のパフォーマンスを上げられたらいいな」という声をいただく。私も以前勤めていた企業で人事を担当していたとき、アセスメントによる自己理解をどうしたら行動に結びつけることができるのか頭を悩ませていた。
アセスメントでは自分の強みや課題、場合によっては他者からの評価が分かる。この結果を見て行動を起こしてくれればいいと思うのだが、そう簡単にはいかない。しかし、アセスメントの結果が自分のものになれば、腹に落ちれば、行動することができるのではないだろうか。
アセスメントによって開かれた自己理解への扉を、覗いただけで閉めてしまうのはもったいない。扉から見えたものを自分の言葉に置き換えていく、あるいは自分の言葉をつなげていく。そうすると、じわーっと体に染み渡る感覚がある。あるいは、はっと気づく感じがある。そして腹に落ちる。
冒頭に紹介した私の知人は、ウォームビズという言葉が自分のものになっていなかった。厚着をして暖房の設定温度を下げる些細な行為が、地球温暖化防止に貢献するということが腹に落ちていなかったのだ。だから、環境問題と言いながらも行動が伴わなかったのだろう。
「腹に落ちた」ら、やるべきことが見つかった!(ケース紹介)
アセスメントの結果を自分の言葉にしていく作業は、一人で行うと意外に難しい。キャリアカウンセリングは、腹に落ちるまでのそのプロセスを支援してくれる。弊社キャリア相談センターにいらした方のケースを紹介したい。
【相談者】Aさん(40代男性・メーカー勤務 管理職)
【相談内容】半年前に販売促進の企画部門に異動したが、上司から「もっと思い切って仕事を進めるように」と言われ、自信をなくしている。
Aさんはキャリア志向調査(R-CAP)を受検した。15のBusiness Skill(ある職務を遂行するために求められる能力)のうち、「判断」のポイントが低く、「分析」および「関係構築」のポイントが高いという結果が出た。
Aさん:「はぁ・・・。上司が言っていたのは判断力がないということなのかもしれません」
最初は暗い表情で口ごもっていたAさんだったが、キャリアカウンセラーがAさんのペースに合わせてじっくりと耳を傾けてくれたことで、ここが否定される場ではないことが分かると、堰を切ったように話し始めた。
Aさん:「新しい販売促進の決定をするとき、本当にこれでいいのか不安になってしまうのです。現状を改善するのは苦手ではないのですが、漠然とした状況の中で物事を進めていくのは、なんとなく気が引けてしまって・・・」
Aさんはこれまで、上司から「思い切りよく仕事をしろ」と言われても、なんとか自分なりに判断しながら進めており、具体的に何が欠けているのか分からなかったという。しかし、キャリアカウンセラーに話をしていく中で、自分は多くの情報を集めた上で慎重に判断しないと不安なのだということが分かった。それで結論を先延ばしにしてしまうということも。
アセスメントの「判断」という言葉をきっかけに自分の経験を語ったことで、Aさんにとってピンとこなかった上司の言葉が、自分の中で結びついた。そう、腹に落ちたのだ。
Aさん:「自分の弱みについて正直に話したのは初めてです。なんだか気持ちが軽くなりました。話したことで自分の課題が見え、行動の手がかりになりました」
また、キャリアカウンセラーがAさんの過去の仕事について聞くと、Aさんはゆっくりと記憶を辿り、いくつもの成功体験を思い出した。
成功体験1
異動した直後に販売促進の企画を任されたときのこと。時間はかかり過ぎたが、さまざまな角度から情報を分析したことで、以前の販売促進活動の問題点を明らかにすることができた。
成功体験2
30代の頃は、関連会社の管理業務をしていた。情報共有を積極的にし、時には大変な仕事を自分が引き受けることで、関連会社と信頼関係を築いていた。
これら過去の出来事を自分の言葉で物語ることで、アセスメントでポイントの高かった「分析」「関係構築」という言葉とAさん自身の体験とが結びつき、自信を取り戻すことができた。そして、強みを発揮することで弱みを補完できるということにも気づいた。
Aさん:「これからは、部下を通じて事前に情報収集できる環境をつくることで、分析する時間を確保します。そして、決断のタイミングを逃さないようにしたいと思います!」
そう宣言して、Aさんは晴れ晴れとした表情でキャリア相談センターを後にした。
自分のことを話せる相手がいるだろうか?
Aさんのケースのように、「腹に落ちる」には、一般的な言葉と自分の経験が結びつくこと、あるいは一般的な言葉が自分なりの言葉に置き換わることが必要なのだ。腹に落ちれば、人は行動に移すことができる。Aさんはキャリアカウンセラーとのやりとりの中で、日頃感じていることや気になっていることを正直に話した。それがアセスメントの結果とつながり、腹に落ちた。もし職場にこのような環境があれば、同じ効果が得られたのかもしれない。
キャリアカウンセリングでは、弱みや課題も含めて自分のことを話し、キャリアカウンセラーとの関わりを通して自分自身について深めることができる。職場で実施しているアセスメントの効果をより高めるために、「腹に落ちる」プロセスを支援するキャリアカウンセリングを活用してみてはいかがだろうか?
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