「個の価値観の尊重」が個と組織を生かす! 個と組織がともに成長していくための小さなヒント

執筆者情報
企画開発部
主任研究員
桑原 正義

最近、成果主義批判が巷をにぎわしていますね。そこで指摘されていることは確かに現実に起きていることでもあるのですが、現場で日々人事や組織改革に取り組んでいる身としては、それが組織や人事への閉塞感を加速してしまわないかと危惧しています。そこでこのコラムでは、その反対にポジティブな事例を紹介したいと思います。


人事の仕事の目的って?

唐突ですが、人事の仕事の究極的な目的は、働く個人と組織が“共に”成長し合える状態を創りあげることだと思っています。いくら組織の業績が上がっていても、それが個人の犠牲や妥協の上に成り立っているものならば、それは私たち人事に携わる人間が目指す個と組織のありたい姿ではないように思うのです。

ただ理想と現実は常にギャップがあるもので、そうした姿を目指して日々取り組んでいるものの、なかなか思うようにいかないことも多々あるのが正直なところです。
数年前までは新しい制度を設計することが課題であり、設計したことによる達成感があったのだと思いますが、今は「どうすれば実際に効果を出すことができるのか」ということが課題になっています。これらはとても一朝一夕に実現できるテーマではありません。試行錯誤しながら、1つ1つ地道に成功を重ねながら継続的に取り組んでいくしかない泥臭い課題だと思います。私たちは今、それだけチャレンジングな課題に取り組んでいるということだと思います。

これからご紹介する事例は、個と組織が共に成長し合える姿を実現している、もしくは実現に向けて進み始めているなと思うものです。なお、これらはあくまで私の限られた経験の中で私が勝手に「いいな」と思ったものであり、決して「これが正しい」「こうあるべき」「これが普遍性のある法則だ」という性質のものではありません。

「個の価値観の尊重」が個と組織を生かす!

株式会社リクルートのCV(Career View)職という制度をご存知でしょうか。3年を上限とした期間限定の契約社員制度なのですが、この制度によって、個と組織が共に成長し合い、事業急成長の大きな原動力になっていることに、私は驚かされました。非正社員というと「人件費の抑制」「雇用の調整弁」というネガティブな印象が連想されやすく、「非正規社員雇用の拡大は短期的にはコスト削減効果があるが、既存社員のモラールやコミットメントの低下にもつながり中長期的にはむしろ組織全体にマイナスの影響を与える」という主旨の指摘も少なくありません。
しかし非正社員であるCV職の方々は処遇的にはあまり高いとはいえない環境でも実にイキイキと働き、社員よりも高いパフォーマンスを発揮する人もたくさん生まれています。働く個と組織がともにWIN-WINの関係を築きつつあります。
なぜこのようなことが可能なのでしょうか? その鍵は、「個の価値観の尊重」にあると思います。CV職の方々からは以下のような言葉が発せられています。

・「期間が限定されていることがよかった。その期間だけ思いっきりがんばり抜こうと決心して入社を決意した」

・「もともと1つの企業でずっと働こうという気持ちはない。一方契約社員だとあまり魅力的な仕事がないのが不満だった。普通そのような重要な仕事は正社員の仕事であり、契約社員の求人にはない。CV職制度ではそんな仕事を自分たちのような正社員でない人間にやらせてくれて非常にありがたい。まさに自分のためにあるような制度だと思った」

・「普通はスキルを身につけるために学校に行くとお金を払わなくてはいけないのに、ここではお金をもらいながらスキルアップできる。こんなうれしいことはない。おいしい!」
若者の中にこのような価値観を持つ人が増え始めていることに着目し、そうした個の価値観を生かしてもらいながら組織に貢献してもらう場としてCVというコンセプトを人事は考えたそうです。あくまで個の価値観を生かすというコンセプトを主軸に制度を構築し、運用していったことが成功要因と感じます。これが逆ならば、そうした価値観を持つ個をひきつけることはできなくなり、先に述べた非正社員のバッドサイクルに入ってしまったのではないでしょうか。
CV制度についての発表論文
CV制度についての事例掲載

誰だって成長したいと思っている。成果主義より成長主義が個と組織を生かす!

ある企業で、営業担当の多くを業務委託契約の人たちで運営しているところがあります。業務委託で働いている人たちは束縛を嫌い、組織よりも個人で仕事をしたいと思っている人が多いと言われます。この企業で働く業務委託の方々も例外ではなく、はじめは「稼いだ分だけもらえる」ことを組織に期待していましたし、組織側もそうでした。 しかしあるマネジメントを受けてから、業務委託の方々の意識が変わり始めました。積極的に自分が所属するチームに関わるようになり、自分よりも若い正社員にアドバイスをおくったり、自分の業績が達成された後もチームの業績を最大化させるために期末まで数字を追いかけ続けるようになりました。ついには営業数字への関心に留まらず、商品をこうしたらもっとよくなるとか、事業についての提言もなされるようになっていきました。自然とオフィスに来る機会も増え、見た目上は社員となんら変わらない状態になっていったそうです。 なぜこのように意識が変わっていったのでしょうか? その鍵は「成長のマネジメント」にあると思いました。
以下は、業務委託の方々から聞いた言葉です。

・「あのマネジャーは、業務委託という範疇にとらわれず要望を聞いてくれ、色々と任せてくれた。やりたいことをやらせてくれた」

・「目先の数字よりも顧客の効果を出すことが一番大事だ。そのために徹底的にこだわろうと言われた時、心底それを追求したいと思えた。自分が本当にやるべきことが見えた。それを実感できる仕事ができた時、数字を達成する以上の満足感を味わった。もっともっと追求していきたいと思ったら、自然と商品や事業について考えをめぐらすようになっていた。数字を追いかけている生活だけではできなかった成長をしてこられたのではと思う」

メンバーを成果でマネジメントするのではなく、成長をキーワードにマネジメントしているように感じます。人は誰でも程度に差はあれ「成長したい」と思っているはずです。だからその「成長したい」という欲求を響かせ、そのために何をすればいいかということと目の前の役割・課題との接点を見つけてあげられれば、人は自律的に目標に向かって進んでいけるのではないでしょうか。成果主義にして「やればやるだけ処遇が上がるからがんばろう」という声だけでは人が動いていかないのは、このあたりに原因とヒントがあるのかもしれないと思いました。

DNAの共鳴でライバル企業の合併問題が大きく前進!

次はある2つのライバル関係にあたる損害保険会社の合併時での取り組みをご紹介します。明らかにカルチャーが異なる両社組織の融合を円滑に進めていけるかが課題になっていました。合併というと様々なリストラ策が打たれ、現場社員の間にはネガティブなムードが漂ってしまいがちなので、何としてもそれを打破したいとの思いが人事にはありました。 そうした中で取り組んだのは、社員一人一人から「仕事をしてきて一番うれしかったこと」「すごく充実した体験・エピソード」を募集し、それを「こころから」という名前をつけた小冊子にまとめて全員に配布したことです。その中には、事故にあって大変な目に合っている人へ誠意を尽くした対応によってものすごく感謝された出来事とか、娘から「お父さんってすごくいい仕事しているんだね」と声をかけられたエピソードなど、自分たちの仕事が世の中に提供している価値や素晴らしさを再認識できる言葉や経験がキラ星のごとくちりばめられていました。私も実際に、その小冊子を毎日持ち歩いて励みにしてがんばっていますという社員の方に出会いましたし、経営の上層部の方も涙を流しながら読んでいたというエピソードを聞きました。 こうした言葉やエピソードは合併の戦略的目的や新会社のビジョンを語るよりも、何よりも何倍も社員の心に響き、「同じ目的を目指してやってきた相手と一緒の組織になるんだ」という仲間意識を生み出し、合併後の組織運営をスムーズにいかせる要因になったということです。

この事例から感じるのは、組織が本来持つDNAと自分のDNAに共鳴が起きた時、人はものすごいエネルギーを感じ、制約や壁を突き破る原動力を持つということです。人事制度の設計や見直しをするプロセスにおいて現場社員の方々に会いにいくと、成果主義の浸透によって組織が持つ良きDNAが失われてしまうことに危惧を抱かれている場合があります。これは、無意識にも上記事例のようなことが大切であることを感じているからこそなんだろうと思います。 成果主義というのはあくまで組織や個人のありたい姿を実現するための架け橋となるものとして使われるべきで、それが目的になってはいけないのだろうと思いました。
いかがでしょうか。今私たち人事に関わる人間は、非常に難しくもやりがいのある課題に挑戦していることが多いと思います。上手くいかない原因や問題点の指摘も必要なことだとは思いますが、こうしたポジティブな事例も一緒に共有しながら共によりよい個と組織の関係づくりの実現に取り組んでいけたらと思います。 みなさまの経験からもポジティブな事例などございましたら、是非私たちにも共有させてください。

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