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会社主導・個人主導の異動がうまく合わさり流動性を促進 ソニーグループ

組織の境界を越えるチャレンジマインドを醸成する

  • 公開日:2023/12/11
  • 更新日:2024/05/16
組織の境界を越えるチャレンジマインドを醸成する

ソニーのファウンダーの1 人である盛田昭夫氏が入社式で、新入社員に「ここ(ソニー)で幸せになれないと思ったならば一日も早く辞めてください。やはり辞めた方が自分自身のためになります」と繰り返したのは有名な話だ。自分のキャリアは自分で築くという文化が根付くソニーでは、社内転職、すなわち、異動も活発に行われている。その実情をソニーピープルソリューションズ株式会社 人材開発部 統括部長の堀田綾子氏と、ソニーグループ株式会社 人事1部2課 統括課長の鈴木謙太郎氏にお話しいただいた。  

人事施策は“Special You, Diverse Sony”の理念のもとに
チャレンジマインドの醸成と適材適所の実現

人事施策は“Special You, Diverse Sony”の理念のもとに

2021年4月に、ソニーグループ株式会社が発足し、新しいグループアーキテクチャーに移行。それにともない、人材理念も“Special You, Diverse Sony”と再定義した。ソニーグループの人事総務領域においてグループ各社にソリューションを提供するソニーピープルソリューションズ人材開発部統括部長の堀田綾子氏が解説する。「ソニーのPurposeは、『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』です。異なる個性をもつ一人ひとりと、多様な“個”を受け入れるソニーとがPurposeを中心に共に成長するという意味です。盛田氏の言葉にもあるとおり、ソニーでは自分のキャリアは自分で築くというキャリア自律の考え方が創業時から根付いているように思います」

この人材理念のもとに、さまざまな人事施策が走っているわけだ。

社員のチャレンジを促し、社内で多様な経験を積む機会を増やすための、手挙げ制の施策が4つある。まず、1966年から運用されている「社内募集制度」は、上司の許可を得ずに、社内の求人に自ら応募できる。これまで累計で8000名以上の異動が実現した。

2015年には、新たに3つの制度がスタートした。

1つ目は今の職場に籍を置いたまま、新しい仕事にチャレンジできる「キャリアプラス制度」。手挙げ制による、いわば社内兼業である。業務時間の2割程度までをあてられる。

2つ目は「Sony CAREER LINK」。社員自らがプロフィールを登録し、求人のある職場のマネジメントに共有し、マッチングの機会を創出する。

最後は優秀な社員にフリーエージェント(FA)権が付与される「社内FA制度」。FA権を行使した場合、オファーされたポストや職種に異動できる。

「2021年の新しいグループアーキテクチャーへの移行にともない、各事業会社の自立性が強くなるので、当初はこれらの制度の利用者が減るのではと思われましたが、むしろ増えています」(堀田氏)

なかでも、利用者が増えているのが、キャリアプラス制度だ。2020年度と比較した場合、2022年度は173%と高い伸びだ。ソニーグループ株式会社人事1部2課統括課長の鈴木謙太郎氏が話す。「多いのは新規事業関連のプロジェクトですね。新しい事業を始める際に、迅速に人材を確保したい職場側のニーズと、新規事業に関わってみたい社員側のニーズが合致した結果だと思います。さらには、コロナ禍を経て、テレワークの体制がより定着したことも、他部署の業務を兼任することへのチャレンジを後押ししている一因だと思います」

何か問題点はないのだろうか。「今は週に1日から2日弱の兼務を半年から1年間継続するケースが多いですが、例えば2~3カ月の短期プロジェクトに集中してもらえるようにするなど、もっと柔軟に活用できるようにしていきたいです」(鈴木氏)

チャレンジマインドの醸成と適材適所の実現

ソニーグループでは、異動に関し、どんな考え方をもっているのか。例として「社内募集」で掲げられている3つの目的を見てみよう。1つ目は社員のチャレンジマインドの醸成と支援。2つ目は適材適所の実現。3つ目は重要ビジネスの強化である。「1つ目の目的につながることですが、本人のやる気やエンゲージメントが高い人の方が高いアウトプットを出す傾向にあると思います」(堀田氏)

その実現には、手挙げだけでなく、会社主導の異動も活用されている。「新しい事業を他社と合弁で行う場合は、会社の意思で配置することもあります。職種別で人材管理をしているので、経験のある人を配置したい場合もある。全部の求人が社内公募されているわけではないのです」(堀田氏)

通常の異動のなかにも、個人の意向が尊重された結果として実現するものは多い。「日常の面談のなかで『将来、こういう仕事がやりたい』という会話を上司と繰り返し、実際に異動先との関係性も自ら作って、異動につながるケースもあります」(鈴木氏)

一方、優秀な人ほどキャリアが固定しがち。社内FA制度は自分のキャリアをしっかり考えるきっかけにしてほしい、というのがその趣旨だ。

年1回、FA権が付与されたことを対象の社員に知らせ、行使可能な期間が与えられる。行使希望者のリストは人事経由で求人のある部署に回覧し、面談したい人をリストアップしてもらう。多い人には20件ほどの申し込みが殺到する。「オファーが来ている部署のうち、本人が希望する部署と面談が行われます。面談をした上で異動する社員もいますが、実はこれまでと同じ部署に残留を決めるケースも多い。社内FA制度は異動ありきではなく、自分のキャリアのさまざまな可能性を探る機会としても活用されています」(鈴木氏)

この社内FA制度で思わぬ副産物が生まれた。

「優秀な人材が他部署に異動することで、後進の育成の必要性が高まることにもつながっているのです。加えて、異動をしなくても、新しい仕事の機会が生まれることがあります。また、『キャリアを考えるきっかけ』という社内FA制度の趣旨をポジティブに受け止めていただいており、優秀な人材のリテンションにも大きく寄与しているようです」(鈴木氏)

ここまで見たように、会社主導、個人主導、それぞれの異動がうまく合わさって、社内でのキャリアの多様化が担保されているようだ。「ジョブと個人を一対一で結びつける異動だけでは、個人のキャリアも、新しい仕事が生まれる機会も狭めてしまう。それを回避するにはグループ内での機会を幅広く開示し、場合によっては本人にとって思いがけない異動も実現させることが有効と考えています」(堀田氏)

今後の課題について、まず鈴木氏が述べる。「事業の括りでは、現状はまだエンタテインメント・テクノロジー&サービス事業やイメージング&センシング・ソリューション事業間での異動が多いですが、今後は今まで以上に事業の垣根を越えた異動を促進できるようにしたいです」

堀田氏は次のように述べた。「2021年の新しいグループアーキテクチャーへの移行にともない、『個』を取り巻く環境が大きく変化しつつあります。自立した各事業を尊重しつつ、いかに越境人材を育てグループとして共創する力をつけていくかが課題だと感じています。だからこそ、グループ内での人的交流や知見の共有を今まで以上に活発に行っていく必要があると思っています」

【text:荻野 進介 photo:伊藤 誠】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.72 特集1「組織の流動性とマネジメント」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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