コラムCOLUMN
公開日:2023/09/11
更新日:2023/09/11

THEME 組織開発 ダイバーシティ

企業事例創業時からのD&IのDNAを受け継ぎ未来へつなぐ 日本アイ・ビー・エム

会社全体で障がい者の雇用と共に働く文化の醸成に臨む

会社全体で障がい者の雇用と共に働く文化の醸成に臨む

特例子会社が障がい者雇用を集中的に担う企業グループも多いが、日本アイ・ビー・エム株式会社は特例子会社を作らず、会社全体で障がい者雇用に臨んでいる。なぜそうしているのか。どのような方針があって、どういった取り組みがあるのか。日本アイ・ビー・エムで人事ダイバーシティ&インクルージョン リードを務める鳥居由起子氏に詳しく伺った。

 

障がいは多様な能力、という捉え方



IBMでは、障がい者を「PwDA(People with Diverse Abilities)」と呼んでいる。障がいを多様な能力と捉えているのだ。

「IBMにとって、障がい者活躍は、女性、LGBTQ+、介護と並ぶD&I(Diversity & Inclusion)の最重要項目の1つです」と語るのは、D&Iをリードする鳥居氏だ。「海外のIBMでもPwDA雇用を重視しています。ドイツやフランスなど、日本と同様に障がい者の法定雇用率が制定されている国もあります。私のドイツ人のマネージャーをはじめ、さまざまな国と連携し、情報共有を重ねています」

PwDAのことで困っているという現場の声には柔軟に対応



IBMでは、「誰もが活躍できる職場環境が組織全体にあるべきで、障がい者雇用が特定組織に集中するのは理想的ではない」という経営層と人事部門の合意のもと、特例子会社を設けていない。さまざまな組織にPwDAが在籍し活躍している。また採用においては、各組織のPwDA採用リーダー・HRBP・採用担当・鳥居氏たちが「Diversability Oriented Hiring Project(多様な能力に着目した採用プロジェクト)」を立ち上げ、求める人物像や採用戦略などを検討している。

鳥居氏によれば、PwDA雇用に関する大きな混乱は特に起きていないという。「多くの部門が他の社員と同じようにPwDA社員を迎え入れ、支援しています。個々の事情への配慮はしますが、特別扱いや優遇はしない、というのが私たちの一貫した方針です。これは、障がいのない社員と同様、できないことだけではなく、多様な能力に着目しているからです。個別の事情への配慮としても、例えば、PwDA社員が通院することと、社員が通院や介護で休むことは自身や家族のケアのために休暇をとるという観点で同列と考えています。もちろん、私のもとに、PwDA社員への対応で困っているから相談したいという声があれば、配属部門および人事部門が連携し、都度対応しています。

PwDAの活躍は、組織にプラスに働くことが多いです。例えば、Access Blue(後述)のOJTでPwDAを受け入れたある部門のマネージャーからは、“PwDAメンバーがプロジェクトに加わったことで、個と向き合い、対話する姿勢が浸透して、結果的にプロジェクト全体のパフォーマンスが向上した”とコメントをもらいました」

有志のPwDA+コミュニティーが障がい者活躍を根づかせている



PwDAの現場受け入れがうまくいっている背景には、いくつかの取り組みの影響がある。最も大きいのは「PwDA+コミュニティー」の存在だ。

「PwDA+コミュニティーは、当事者であるPwDA社員と、当事者を理解・支援するアライ社員が一緒に活動する有志の社内コミュニティーで、2019年に立ち上がりました。

彼らは定期的にお話会を開いたり、PwDA個人のストーリー紹介記事を作成したりと、社内に深い理解を促してくれています。2022年にはアライの輪を広げる特別なイベントを複数行いました。彼らは極めて自主的で、海外IBMのPwDA+コミュニティーとも直接タッグを組んでいます。彼らのおかげでPwDAの採用や定着が加速しています」

それ以外にも、PwDAにとって安全な環境を整え、緊急時の避難に備えるために、多様な働き方制度・災害避難行動支援制度・職場環境整備・設備評価の実地確認などを実施している。一般社団法人ACE(企業アクセシビリティ・コンソーシアム)を通して、お客様企業と共に障がい者雇用の新しいモデル確立も目指している。

障がい者向けインターンシップAccess Blue Programを実施



さらにIBMは、長期の障がい者向けインターンシップ・プログラム「Access Blue Program(以下Access Blue)」も提供している。

「Access Blueは、PwDAの皆さんの就労支援として2014年に始めました。近年では40名程度の参加者が7カ月にわたり、社会人に求められるビジネスマナー、コミュニケーションスキル、基礎的なプログラミング知識のほか、クラウドやAI、量子コンピューターといった最新のテクノロジーに触れる長期のインターンシップです。10年間で延べ284名が参加しました。多様な人材がチャレンジできるよう、インターンシップ期間中は参加者の障がい特性に応じて、可能な範囲で合理的配慮や情報保障を提供します。給与も支給しています。

Access Blueは人事部門とIBM東京基礎研究所の共同開催で、過去には、参加者に視覚障がい者向け自律型誘導ロボット“AIスーツケース”の開発などにも協力してもらっていました。

それから、Access Blue参加者には、社内で働くOJT体験も積んでもらっています。これには、PwDAとの協働体験を通し、PwDA一人ひとりの強みや特性、必要な配慮などをIBM社員に理解してもらい、PwDAと一緒に働くことが当たり前の文化にするねらいもあります。2023年からOJTの拡充を図り、D&Iをさらに推進していきます」

多様性こそイノベーションの源泉である



一連の取り組みの背景には、IBMの長い歴史があるという。「IBMの創業者は、20世紀初頭のアメリカで、当時働き口が少なかった女性、黒人、移民や障がい者を積極的に雇用しました。100年前から、IBMにはD&Iの思想があったのです。“多様性こそ、イノベーションの源泉である”という考え方が古くから根づいています。私たちはそのDNAを引き継ぎ、今後もPwDAの雇用および自分らしく輝ける文化の醸成に注力します。理想は、全社員がPwDAを支援し、“アライ”という概念すら不要になることです。そのためには、経営層と共に、私やコミュニティーが触媒となり、PwDAを“知る・理解する・発信する”活動を地道に続けることが最も大切だと考えています」



【text:米川 青馬 photo:平山 諭】

 

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.71 特集1「障害者雇用・就労から考えるインクルージョン」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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有志のPwDA+コミュニティーが障がい者活躍を根づかせている
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