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5年いたら、もう他社には転職できなくなる? ガイアックス

ライフプランの共有が自由でフラットな開放型組織を生み出す

  • 公開日:2022/12/12
  • 更新日:2024/05/16
ライフプランの共有が自由でフラットな開放型組織を生み出す

「分散型自律組織」という言葉がよく聞かれるようになった。上意下達型ではなく、各社員の自律性や自発性に期待する新しいマネジメント手法が注目されているのだ。「雇用」という枠も超え、多様な人材が活き活きと働く株式会社ガイアックスを紹介したい。代表執行役社長の上田祐司氏にお話を伺った。

目次
その多様さは、まるで働き方の見本市
最も重要な経営資源は「情熱」“水”を差さない仕組みで運営
人生と仕事を結びつけるマイルストーンセッション
ときめかない仕事は断れる 心理的安全性も高い

その多様さは、まるで働き方の見本市

ほとんどの企業が取り組んでいる「働き方改革」だが、こんなに自由で多様な働き方ができる会社はないだろう。

まず、上長にはメンバーの異動希望の拒否権がない。逆にいえば、いつでも自分がほしい人材を口説き、集めることができる。

副業も盛んに行われている。社内で他部署の仕事を、社員としてではなく、業務委託として個人で請け負うことができるのだ。報酬もお金とは限らず、ストックオプションの場合もある。

社外での副業ももちろんOKだ。その副業で始めた事業とガイアックスの既存事業との間にシナジーが見込まれる場合、支援も受けられる。副業を本業にできるのだ。

会社との契約形態も、自由に選択できる。雇用ではなく、業務委託に切り替えることも可能だ。自分の会社を作り、そこを通じてガイアックスの業務を受託することもできる。

事業部のリーダーのみならず、メンバーであっても、担当する事業を別会社化できる「カーブアウトオプション」という制度もある(カーブアウトは「切り出す」の意)。これによって、その会社の株式のうち、3分の1を所有できる。事業の重要な意思決定を担い、外部から資金調達を受けることもできる。自らの報酬を、給与形式にするか、株の配当金にするかも自分で決められる。

働く場所も自由で、リモートワークを全面推奨。地方移住、多拠点生活、海外永住など、各自のライフスタイルに合わせた環境で働くことができる。

ダイバーシティにも熱心だ。「LGBT支援宣言」を公表しており、性別不問・顔写真不要の採用エントリーシート、パートナーの性別関係なく利用可能なお祝い金・慶弔休暇、パパ育休制度なども完備されている。

最も重要な経営資源は「情熱」“水”を差さない仕組みで運営

社長の上田祐司氏が話す。「ガイアックスの最も重要な経営資源は一人ひとりの『情熱』だと考えています。組織の都合が優先されるルールや階層の存在が、メンバーの情熱に“水”を差さないよう、他社とは異なる仕組みで運営されています。常識にとらわれず、自分らしい生き方、働き方を決められる自由さ。役職や立場に関係なく、誰もが同じ目線で議論し合える対等さ。社内外の垣根を越え、未知の世界へ積極的に飛び込んでいける風通しの良さ。『フリー・フラット・オープン』という言葉が僕たちを象徴しています」

ガイアックスは1999年に設立された。現在の社員数は132名で、ミッションは「人と人をつなげる」こと。「学生時代から起業家を志望し、さまざまなプロジェクトを手掛けていたのですが、当時から人と人とがつながることで生まれる価値に着目していました。携帯電話が登場した瞬間、有用性を確信し、高いお金を出し購入したほどです。その後、インターネットが登場し、感動しました。これこそ世の中のあらゆる人がつながる基盤になると。それで会社を立ち上げ、まずはインターネット上で送れるグリーティングサービスを事業化しました」

現在取り組んでいる事業分野はソーシャルメディアとシェアリングエコノミーだ。「インターネット内ですべてが完結するのが前者、物や人といった実物経済が絡んでくるのが後者です。前者はクライアント企業の取り組みをサポートするのが中心です。後者については、同じようにクライアント企業向けのサポート業務も行っていますが、自分たちでも事業を手掛けています。例えば、東京・永田町にある本社ビルはシェアオフィスが入ったコミュニティビルになっています」

同社は、そうした事業会社であると共に、社内から起業家を輩出するスタートアップスタジオであり、分社独立を果たした関連会社などに投資するベンチャーキャピタルでもある。「労働という面では、今やどこの企業も正社員比率が下がっています。業種によっても違いますが、IT企業の場合は2、3割でしょう。他は非正規社員、派遣、業務委託といった人たちが関わり、仕事が回っています。資本もそういう意味では同じです。正社員比率に相当する事業ごとの資本比率も100%を追求するわけではなく、柔軟に考えています」

人生と仕事を結びつけるマイルストーンセッション

先ほど、「一人ひとりの情熱が重要」という上田氏の言葉を紹介した。その情熱を汲み取り、生かすための仕組みがガイアックスにはある。四半期ごとに行われる「マイルストーンセッション」と呼ばれるものだ。

人生の目標は何か。どんな人生を送っていきたいのか。この10年、何を大切にして過ごすのか。そうした各自のライフプランをまずは上司(事業部長)と確認する。具体的な目標と期間を設定した上で、仕事内容や報酬を本人が主体となって決める。

「自分で決めるというのが味噌なんです。すると、自我がどんどん強くなります。会社と本人との関係が会社は会社、私は私とフラットになり、双方のシナジーが最大限に発揮されるところでお互い協力しましょうと。一人ひとりが自律するわけです。各自が自律すると、組織はフリー・フラット・オープンでなければうまく回らなくなります」 

そのフリー・フラット・オープンな組織を、上田氏は砂鉄と磁石のたとえで説明する。

砂鉄がある場所に磁石を置くと、磁石を中心にこんもりとした山ができる。その磁石が事業リーダーであり、砂鉄の粒がメンバーだという。こんな事業を提供して世の中を変えたいというリーダーの思いの強さが砂鉄の山の高さを形成する。高い山ほど、裾野も広い。「高い場所にある砂鉄が偉くて、低いのが偉くない、というわけではありません。高い人はその事業に専念できるから高いわけであり、低い人は、他の仕事をやっているのかもしれないし、他の場面で磁石を担っているのかもしれない。他社に所属し、副業として携わってくれているのかもしれない。世間では、適切な指示や命令をメンバーに出せる人が活躍するといわれますが、うちではきついでしょう。何しろ思いの強さや自分の魅力でメンバーを引き寄せないといけないわけですから」

ところで、ライフプランと事業の方向性がずれてしまい、その期の仕事が決まらない、という事態に陥ることはないのか。「あまりないですね。特に新卒で入る場合、社会に大きなインパクトを与えたい、人に感謝されたい、人の役に立ちたい、といったライフプランをもつ人がほとんどです。そのためにこの20代をこんなふうに過ごしたいと。具体的な事業を念頭に置き、そこから仕事をブレイクダウンしていくわけです」

ときめかない仕事は断れる 心理的安全性も高い

時には上司が取り組みたい仕事をひっくり返しにくることもある。「例えば、『20代のうちに大物になりたい。こんな起業を考えているのですが』と言うメンバーに対し、上司が『大きなことを成し遂げたいのなら、僕らが取り組んでいるシェアリングエコノミーが一番有望だよ。今後、さらに成長するだろう』と返す。メンバーも納得し、『思ってもみませんでした。この分野で一旗揚げることを20代のライフプランにします』となったりする。僕がナンセンスだと思うのは、マイクロマネジメントです。やる気がない人をなだめすかし、どうにか成果をあげさせようとする。効率が悪すぎます。僕らのやり方は違います。各自のライフプランまで理解し、それに即した仕事をやってもらえれば、本人はやる気に溢れていますから、余計なマネジメントが要らなくなります。社員満足度や働きがいを高めるために、最も重要な情報はライフプランだと思うんです。それに踏み込まずして、社員の本当の満足は引き出せない」

ここまでの内容で想像がつくように、同社への入社希望者は自立心溢れた若者が多い。新卒に限ると、起業家志望が6割だという。「うちに新卒で入り、5年ほど経つと、他社に転職できなくなってしまう。他社にはライフプランを考えさせるような場はありませんし、感情を声高に表現するようなことも許されないことが多いからです」

ご存じ、世界でも有名な、日本発の片づけ法“こんまりメソッド”。その物を手にしたとき、ときめいた物だけを残すという方法だが、ガイアックスではこの“ときめき”基準で仕事の“えり好み”が可能なのだ。「上司に仕事を振られたとき、ときめかなければ、引き受けるのを断ってもいいと社内で言っています。こんなふうですから、余計、他の会社に転職しづらくなるのではないかと」。心理的安全性が確保されているともいえるだろう。

今後はDAOという概念を組織運営に取り入れることを考えている。分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)の略称で、中央で意思決定を行う人や機関が存在せず、メンバー一人ひとりによって自律的に運営される組織のことだ。それを可能にするのがブロックチェーン。「仮想通貨(トークン)で報酬を支払うのですが、性別も国籍も名前すら明かさなくていい。意思決定も皆の投票でスピーディに決めることができる」。究極のフリー・フラット・オープンを求め、ガイアックスは進化を止めない。

【text::荻野 進介 photo:伊藤 誠】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol. 68 特集1「自律型組織を育むシェアド・ リーダーシップ」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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