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企業事例

組織の鍵を握るのは現場 だから現場に入り込む 三井化学

第一に考えるのは事業成長と現場のエンゲージメント

  • 公開日:2022/06/20
  • 更新日:2024/05/16
第一に考えるのは事業成長と現場のエンゲージメント

実際のHRBPのミッションは何か。具体的にどのようなことを考えていて、どういった行動や対策をとり、人事部や現場とどうやって協業しているのか。どのようなプロジェクトがあるのか。必要な姿勢やスキルは何なのか。日系グローバル企業・三井化学の事例を紹介する。

支援は戦略策定からオペレーションまで、短期から中長期まで
M&Aの組織統合・文化統合や新規事業の組織組成も任される
成功のポイントは「人事内連携」と「現場への刺さりこみ」だ

支援は戦略策定からオペレーションまで、短期から中長期まで

三井化学の小野真吾氏は、現在、グローバル人材部部長とHRBPを兼務しているが、これまでも長年HRBPを経験しているプロフェッショナルだ。自身の経験談を絡めながら、三井化学のHRBPについて語っていただいた。

「三井化学のHRBPの役割は、第一に事業成長を加速させるために、担当組織の人事・組織機能すべてを支援することです。第二に、現場の従業員のエンゲージメントを最大化すること、つまり従業員をできるだけ元気にすることです」

支援の方法は、戦略策定からオペレーションまで、短期から中長期まで多岐にわたる。例えば、短期的なオペレーションには、担当組織メンバーの採用・教育・評価・配置・異動・退職・個別労務問題にまつわる支援がある。「多くの企業ではいわゆる部門担当人事の皆さんが担っている業務ですが、これらもHRBPの役割です」

一方で、より中長期的な効果を目指すのが、組織開発やリーダーシップ開発だ。さらに、中長期事業戦略を踏まえた活動には、戦略的組織ポジション策定、タレントマネジメント、後継者計画、エンゲージメント調査による組織変革などがある。「その他にも、例えばM&Aやジョイントベンチャー設立の際には、組織組成や文化統合を実現するためにHRBPが密に伴走します」。HRBPがカバーする職務範囲は実に広い。

M&Aの組織統合・文化統合や新規事業の組織組成も任される

具体的にHRBPはどのように動くのか。小野氏に自身の経験談を2つ語っていただいた。

1つ目の事例は、M&Aだ。「私は以前、ある海外企業を買収する大規模クロスボーダーM&Aに関わったことがあります。役員直下で、企画・ファイナンス・リーガルと共にHRチームの責任者として参画しました。私の任務は、HRBPとして組織統合・文化統合を実現しながら、統合後の組織デザインを行うことでした。

このときは、M&Aのプレ段階からプロジェクトに加わり、交渉から統合終了までの全プロセスにハンズオンで密着しつづけました。このプロジェクトには4年ほど関わりましたが、その間は1~2カ月に一度、海外出張を繰り返しました。エグゼクティブとの重要ミーティングに同席したり、海外拠点を回って話し合ったりする日々で、特に両組織のキーパーソンとは頻繁に1on1を行いました。その結果、終わる頃にはキーパーソン全員と気さくに話し合える関係を築けており、フラストレーションを抱えるチームやメンバーが見つかれば、すぐさま私のもとに情報が届くまでになりました。

文化統合は、お互いの国の文化を学び合うセッションから始めました。その上でビジネス統合を進めながら、次々に出てくる問題についてオープンに議論する場を設け、運営ルールなどの合意形成を重ねていきました。並行して、私は統合後の組織デザインを行い、両組織のエグゼクティブと話し合って組織を組成していきました」。なお、このプロジェクトは4年で完了したが、何年もかけて伴走するプロジェクトもあるという。HRBPは組織統合・文化統合が終わるまで関わるのだ。

もう1つの事例は、新規事業開発だ。「以前、BtoCビジネスの立ち上げに関わったことがあります。三井化学はBtoBビジネスの会社であり、私たちとしては画期的な取り組みでした。

このときはまず事業部長と話し合い、ビジネスを外部に委託するのか、社内にBtoC組織を新たに作るかを決めました。後者に決まり、私は採用から組織組成までを一貫して担当しました。外資系企業のマーケティング専門家などを採用して米国に新会社を立ち上げ、短期間で戦略に沿った精鋭組織を作り上げて事業成長に貢献しました。これもHRBPの重要任務の1つです」

成功のポイントは「人事内連携」と「現場への刺さりこみ」だ

小野氏は、HRBP成功のポイントは、人事内連携と現場への刺さりこみだと語る。

「三井化学人事部門には人事部とグローバル人材部があり、HRBPは両者と密に連携しています。例えば、エンゲージメント調査やタレントマネジメントなどは、グローバル人材部が主導して全社的に企画・導入するものです。三井化学では、人事部門が現場展開まで伴走する体制をとっており、HRBPは人事部門と一緒になって担当組織に導入していきます。

また、同部には『CoC(センター・オブ・コンピテンシー)』という組織があります。各事業部門に、組織開発・エンプロイヤーブランディング・ピープルアナリティクスなどの人事ソリューションを地域統括会社の人事と共にグローバルレベルで提供する組織です。HRBPはCoCとも協力し、担当組織をグローバルで支援しています」。三井化学のHRBPは少数精鋭であり、社内人事連携が欠かせない。

もちろん、それだけでHRBPの仕事がうまくいくわけではない。「組織トップと議論し、人材委員会などで話し合うこともHRBPの大切な仕事です。しかし結局、組織の鍵を握るのは現場、なかでもお客様に直接対峙する事業担当者やマネジャーです。発生する問題のほとんどは、彼らの現状を知らないと解決できません。だからこそ、HRBPは現場に入り込むことが極めて重要なのです。

最初、私たちはHRBPを『刺さりこみ人事』と呼んでいました。現場に刺さりこむ人事になろうという意志のもとに始めたのです。私たちは今もその意識を大切にしています。事実、私は問題が発生した職場に席を設けて毎日通ったり、現場でヒアリングしたりすることがよくあります。

現場では、健全なコンフリクトが日々必ず起こります。例えば、『短期的には優秀人材を動かしたくないが、中長期的には育成目的で異動させたい』という二律背反が常に存在します。HRBPは、現場と一緒になって、こうした二律背反をどうするかの合意形成を行うことが極めて重要です。その際、現場への刺さりこみを通して自分の手でファクトを掴まないと、適切な判断ができないのです」

冒頭の話を繰り返すが、三井化学のHRBPが第一に考えるのは、あくまでも事業成長の加速と現場のエンゲージメントの最大化だ。その2つを実現するために、人事内連携と現場への刺さりこみを何よりも重視しているのだ。

【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.66 特集1「現場を支える人事」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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