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THEME 組織開発

企業事例プラスをさらにプラスにするようなキャリア支援 博報堂

現場に入り込んで「横の風」を入れ組織の活性化を目指す

現場に入り込んで「横の風」を入れ組織の活性化を目指す

博報堂のビジネスデザイン局(主にクライアント企業に向き合うビジネスプロデューサーが所属する部門、以下BD局)にはヒューマンリソース・マネージャー(以下HRマネージャー)と呼ばれる役割が存在する。人材マネジメントやキャリア支援を通じた現場部門支援を担うが、「横の風を入れる」ことも重要な役割だという。どういうことだろうか。HRマネージャー本人とそれを束ねる組織の長に話を伺った。
 

要諦は「人材開発の専門性」と「現場感覚」の両立

博報堂のBD局では、2020年からHRマネージャーという役割を設置している。本社の人材開発戦略局に所属しながら、BD局側の管理部門にも籍を置く。人材開発の専門性を生かしつつ、BD局側の人間として社員のキャリア支援・成長支援に日々汗をかく。人材開発の専門性と現場感覚の両立はその人選にも表れている。HRマネージャーは2名体制をとっているが、2名のうち、1名はBD局の部門長経験者のベテラン、もう1名が人材開発領域の経験者という組み合わせだ。

HRマネージャーの1人、木村英智氏によれば、この2年、試行錯誤して決めた活動は3つある。

1つ目は現場のコンディションを「ヒト」と「ビジネス」の両面から把握すること。「ヒト」のコンディションでいえば、新入社員や期中異動者、中途入社者への個別面談、マネジメント層やチームリーダー層へのヒアリング、本社人事部門との労務状況の共有、各種の従業員サーベイや経験やスキルなどの人材データの整備などを通じ、網羅的、多面的に把握することに努めたという。なかでも、年に一度、部門単位で実施される、社員一人ひとりのキャリアについて検討する会議体へのオブザーブは非常に重要な位置づけだ。

「ビジネス」のコンディションでいえば、各BD局にて実施されているビジネス動向の情報共有の場にオブザーブすることもある。

「『ヒト』だけではなく、『ビジネス』のコンディションをも把握しながら、机上の空論にならないよう、中立的立場から各自のキャリア支援・成長支援に関わるということです」(木村氏)

2つ目が育成施策と連動することだ。自らの強みの把握、スキルの底上げといった各部門のニーズに合った研修を企画、実施する。

現場社員の成長やキャリア形成をセカンド・オピニオンで支援

3つ目は、キャリア支援。同社ではいわゆる目標管理制度が運用されており、期初・中間・期末にて、3度の対話が上司と部下の間で設定される。その2回目にあたる中間期での対話は、上期レビュー・下期展望だけでなく、むしろ中長期的キャリアについて各自が上司と話す機会とされている。

個人の成長やキャリア形成に向けては、上司(管理職)と部門長が集まり、一人ひとりの今後の成長の方向性について話し合う会議体が実施される。HRマネージャーはそうした場にも同席する。

「会議体での議論を受け、HRマネージャーの2人で意見のすり合わせもしています。例えば、Aさんに関しては現在議論されている方向でよさそうだけれども、Bさんに関しては別の経験を積む機会を検討するという方向性もあるのでは、などと意見を出し合います」(木村氏)。そうした見立てを、部門長に伝えることもある。「あくまで私たちの視点からの解釈やアイディアであり、いわばセカンド・オピニオンとして、参考程度に考えを共有しています」(木村氏)

セカンド・オピニオンとは言い得て妙である。

「HRマネージャーとしての活動のなかで得られた情報を、本人の成長に資するような情報として、中立な立場から提供することもあります。本人や上長の意向がファースト・オピニオンだとすると、それらはビジネスコンディションに左右されることも当然あります。われわれのオピニオンは、あえてビジネスコンディションには過度にとらわれずに、なるべくフラットなものを心がけています。

一方で、キャリア形成の主体者は社員一人ひとりだと考えており、そのためには、社員一人ひとりがどのような成長を遂げたいかをしっかりと考える必要がある。そのために上司と部下の間で日常的にキャリアのことを話してほしいと考えています。会社としてはこの仕事をやってほしい、その理由はこうである。でも自分はこういう仕事もやりたい。そういう対話をもっとやるべき。そうした考え方を周知していくのも私たちの役割です」(木村氏)

HRマネージャーとしての活動の手応えをたずねると、木村氏はこう答えた。「人とビジネスの状況を丁寧に把握するからこそ、フラットに成長やキャリア形成の可能性を提案できる。このような支援をもとに、プラスをさらにプラスにするような成長支援・キャリア支援の成功例がいくつか出てきました」

課題については、「われわれが担当しているのは、数百名が所属する組織です。その全員にきめ細かく、サステナブルなサポートをするためには、サーベイやデータの活用などの工夫が必要だと思います。そこは改善点です」と答えた。

業界の変化によってキャリア開発がより重要に

博報堂では社員のキャリア開発に力を入れている。人材開発戦略局には木村氏含め、キャリアコンサルタントの有資格者が20名弱おり、社員のキャリア相談に親身に乗る。なぜそんなに社員のキャリアにこだわるのか。

その背景には、広告業界の変化があるという。同社人材開発戦略局局長の峯岸孝之氏が話す。「デジタル化を中心とした世の中の変化により、広告会社が担う役割も大きく変化しています。高度化・複雑化・広範囲化するビジネス環境において、会社がやってほしいことと社員がやりたいことをどのように両立させるか、会社と社員の成長ベクトルをどのようにすり合わせるかが、非常に重要だと考えています。HRマネージャーという仕組みを導入した理由の1つでもあります。

加えて、コロナ禍の影響でテレワークが進んだこと。効率化という点で良い面もたくさんあるが、社員同士のコミュニケーション総量が減少しているという側面もある。同僚はもちろん、上長との本音の会話ができにくくなっている状態を改善しようと思ったのです」

このHRマネージャーの仕組みを構想した役員がその役割を「横の風」という言葉で表現した。「博報堂はチームで仕事を進める文化があります。組織としてもとても強いつながりがあるので、時に組織間に壁があるように感じられてしまうこともある。コミュニケーション総量が減るなかで、HRマネージャーが横から風を送り、空気を攪拌したり温度や湿度を調節したりすることで、より快適な状態にしてほしい」(峯岸氏)

組織に、横串ならぬ、横風を入れる。人事の流行語になるかもしれない。


【text:荻野 進介 photo:伊藤 誠】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.66 特集1「現場を支える人事」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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