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企業事例事業に必要なコトはすべてやる ディー・エヌ・エー

HRBP導入は事業の多角化がきっかけ

HRBP導入は事業の多角化がきっかけ

日本企業のなかで比較的早くからHRBPを導入している企業の1つがディー・エヌ・エーだ。事業の多角化がHRBP導入のきっかけだったという。自身もHRBPとして事業サポートに邁進する野田氏に、その実際を伺った。

事業に寄り添い、人事課題を解決していくパートナー

ディー・エヌ・エー(以下DeNA)がHRBPを導入したのは2014年のことだ。その背景を同社ライブストリーミング事業本部のHRBP、野田竜平氏が説明する。「事業の多角化がきっかけです。それ以前の当社の事業はゲームとECという2本柱が中心で、基本その2つの事業を見ていれば会社としては安心、という状況でした。そこから、2014年にヘルスケア事業、翌年にはオートモーティブ事業を開始。次第に、各組織の状況把握難度が上がり、異業種からの転職者が増え、DeNAの文化をよく把握していない人材が事業のリーダーや役職者になるケースが出てきました。そこで、DeNAの文化を伝承しながら、事業に寄り添い、事業リーダーと一緒に組織を仕上げるHRBPを各事業部につけよう、という結論に達しました」

具体的には、HR本部のなかにHRBPの組織を作り、各事業部の部長格以上のベテラン5、6名を配置した。彼らが初代HRBPだ。いずれも人事は未経験だが、社歴は長い。「自力があり、パートナーとなる事業リーダーより引き出しが豊富。HR本部のサポートのもと、組織戦略から人員計画の策定、採用、研修、組織開発まで、すべての人事課題を一緒に解決していく役割を担いました」

ここで、同社のHRBPが「やらないこと」を整理しておく。当然のことながら、給与計算や人事規程の作成などはやらない。新卒採用もHR本部が行う。次世代の経営人材や事業本部長の育成や選定にはプロジェクト的に関わる。「全社人事はHR本部、事業人事はHRBPという棲み分けですが、全社レベルの次世代リーダーの異動に関してはHRBPも関与します。経営人材は複数事業を経験することで、より成長します。DeNAでは『大黒柱を引っこ抜く』とよく言っています。HRBPは事業本部長に寄り添いながらも、そうした大黒柱の異動を実現するための次の組織設計や代替人材の確保をしたり、事業本部長がその異動を受け入れ難い場合に取締役やHR本部長を巻き込んだ議論の場を設定したりします」

採用キーマンを指名し確実な中途採用を実現

2015年頃に、ゲーム事業に大きな変化が訪れていた。携帯のゲームはスマートフォンでプレイするのが当たり前となり、内容、表現共に高度化。既存の人材では知識や経験が足りず、育成する時間も足りない。専門知識をもつ人材を求めて中途採用を開始したが、すぐには成果が出なかった。

そこで、ゲーム事業部内に組織開発部という部署を作り、そこにHRBPを所属させた。「結果として、HRBPが事業部内により深く入り込み、事業本部長と物理的に席が隣になったおかげで、コミュニケーションが密になり、現場を巻き込んだ大胆な施策を打てたのです」

具体的には、ゲーム業界に人脈が広いリーダーを中心に各部門に1人「採用番長」を指名。知人や友人を紹介するリファラル採用を事業推進と並列のミッションとし、応募数や内定数に応じて人事評価に加点し、賞与で報いるようにした。「自身の友人・知人はもちろん、配下のメンバーの友人・知人の紹介施策をリードしてもらい、成果は評価にも紐づけることまで示しているので、漠然とリファラル採用にご協力ください、というのとは違ってきます。導入前は年間目標の半数ほどしか採用できていなかったのですが、導入後は他施策もヒットして年間200名を超える採用を実現できました」

その後、2018年にHRBPの体制に変化が訪れる。上述のゲーム事業部の成功例から、他事業本部内にも事業部人事組織を設置し、HRBPや中途採用担当はHR本部ではなく事業部内に所属するようになった。それにより各所でHRBPのニーズが増え、事業部出身のベテランを配置していく以外にも、人事を主務としてきた人材を配置して育成していくというケースも増えてきたのだ。

「前提となる状況や体制が変わったことで、ただHRBPを配置するだけでは不十分になり、大黒柱の異動もなかなか成立しなくなりました。機能を切り分けて新たなポジションを作ったり、HR本部と事業部の役務分担を変えたりする必要が出てきましたし、HRBPたちもより成長していく必要が出てきました」

事業理解、全社目線、人間力…… HRBPに求められる7要件

HRBPが成長するためには、どうしたらいいのか。DeNAには「HRBPに求める7要件」がある。(1)事業ラインの管理職と同等水準の事業理解、(2)ヒト・組織の変化にビンビン気づく力、(3)適切な打ち手を考える力、(4)その打ち手を適切に実行する力、(5)相手を選ばない信頼関係構築能力、(6)社長並みの全社目線、(7)えもいわれぬ人間力、である。

「部長経験者をイメージしてもらうのが一番いいと思います。戦略や目標を定め、事業計画や人員計画を作り、自ら実行し、最後、メンバーの評価まで担当する。ただ、HRBPのニーズに対してこういう人材だけで配置をすることはできないので、経験がない人材が配置された際に何を学んでいくかが重要です」

野田氏自身は事業での経験を長く積んでHRBPになったわけではない。新卒で入り、営業を3年ほど経験した後、人事に移り、新卒採用や人事制度設計に携わってきた。「新卒採用に長く携わったので、全社目線はもちやすかったですね。あとはプライベートで参加していた人事の勉強会が大きかった。理論と具体例を山ほど学んだのです。それらがあったから、事業本部長とも丁々発止のやり取りがある程度できているように思います」

野田氏が部下に常々話していることがある。

「HRという言葉や役割にこだわらず、事業に必要なコトをすべてやるという気持ちで働いてほしい」と。しかしそうなると、現場の部長や課長の役割を奪わないだろうか。「究極をいえば、これからの時代、現場の部長や課長自身が、HRのマネジメントをしていけることが、事業の生き残りにとって健全です。人や組織の問題は人事に任せておけばいい、という時代は終わったと思います。採用だって、ベンチャー企業ではCEO自らほしい人材を熱心に口説いている。事業本部長もそうあるべきなんです。逆に人事もこれまでの期待役割を全うするだけではどんどん役割がなくなっていくはずです。なので、自分も日々危機感を覚えながら成長しつづけようとしています」

人事と現場の間にあった境界が消えかかり、両者が溶け合い始めている。その動きを先導しているのがHRBPなのではないか。


【text::荻野 進介 photo:平山 諭】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol. 66 特集1「現場を支える人事」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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