- 公開日:2022/03/28
- 更新日:2024/05/16
「従業員の感情」と言った場合、正社員のそれに限らない。特にサービス業においては、顧客接点を担う非正規従業員の気持ちをしっかりケアしておく必要がある。応募から面接、採用、そして退社に至る彼・彼女らの心理の把握に乗り出したワタミの事例を紹介する。お話を伺ったのは、ワタミ株式会社の森園啓司氏だ。
従業員がより満足して働けるよう、ペルソナ(人間像)を見定める
居酒屋や焼肉店など、数にして400強の店舗を国内に展開するワタミ。店舗の主役は学生や主婦などの非正規従業員だ。ワタミは彼・彼女らを対象とした「エンプロイー・ジャーニーマップ(従業員の旅の地図)」を2021年から作成、運用している。
顧客が商品を知り、購買に至るまでのプロセスをまとめたものは一般にカスタマー・ジャーニーマップと呼ばれる。顧客の心理や感情と、それによって引き起こされる行動を順次理解し、マーケティングに結びつけるわけだ。その従業員版であるエンプロイー・ジャーニーマップは募集から面接、採用、教育、就労、そして退職(ケースによっては正社員として入社)までの間の、従業員の気持ちを理解し、働きがいの向上に結びつけるためのツールということになる。
営業推進本部本部長の森園啓司氏が話す。「従業員のペルソナ(人間像)を見定めて、フェーズごとに、彼・彼女らが何を考え、感じているのか、それに対し、店側がどんな施策を打てば、彼・彼女らがより満足して働いてくれるのかを明らかにしています。作成、更新にあたっては、年2回実施される従業員アンケートが大きな鍵を握ります」
例えば、彼・彼女らの早期離職の理由はほとんどが「店長や先輩が十分に教えてくれない」ことだが、その対策がこれまでは徹底されていなかった。「このマップができたことで、入職後いつまでに、何を、どの程度教えるべきか、それはマニュアルによるべきか、店長による直接指導か、といったことが明確になり、店舗でも共有されています」
従業員満足が顧客満足に、さらに業績向上につながる
このマップを活用し、従業員の感情を理解し、満足度を高める。そうすると接客の質が高まり、顧客満足度も向上する。結果、来店頻度はもちろん、友人や知人に店を推奨してくれる度合いも高くなる。必然的に客数が増え、店の業績も向上する好循環が生まれることを期待しているという。
ワタミがこの施策をスタートさせたきっかけの1つが、覆面調査員による店舗調査(ミステリーショッパー)の結果があった。それを従業員アンケートの結果に紐づけると、従業員の帰属意識が高い店、満足度の高い店ほど、覆面調査の結果が良いことが分かったという。「そうした店舗は、従業員の気持ちや意向をくみ取ったマネジメントがすでに行われているはずです。『新人なのだからしっかり教えてもらいたい』『やった仕事に対し、レビューやフィードバックが欲しい』といった彼・彼女らの気持ちを店長がしっかり理解し、応えているのでしょう」
しかも、ワタミでは非正規従業員に対し、「仕事に対して、時給プラスアルファの経験を提供したい」と常々伝えている。「ワタミで過ごす数カ月、数年間を意義あるものにし、その後の人生に役立ててもらいたい。実際、店舗内の改善や営業活動にも非正規従業員に従事してもらい、まさにプラスアルファを経験してもらっています」
まずは外食事業でスタートしたこの取り組みはワタミ社内で注目され、近々、宅食、環境といった他事業でも展開される予定だ。
新たなマニュアルの一項に「服は着用すること」
ところで、多くの外食チェーンには、現場の仕事を円滑に進める膨大なマニュアルが存在する。それにより、一定以上の質の顧客サービスが維持されるから、顧客にとっては当たり外れがなく安心して訪れることができる店となるが、従業員の側に、マニュアルは覚えるのが大変で窮屈、個性が押し殺されてしまう、という不満を生む。
このマニュアルの弊害打破にも、ワタミは取り組んでいる。2016年に1号店がオープンしたミライザカ、三代目鳥メロという居酒屋の2つの新業態では、マニュアルの大幅な簡素化を行った。「和民など、それ以前からの業態では、接客から店舗管理まで、それこそ膨大なチェック項目からなるマニュアルがありました。いわば、これはダメ、これもダメという禁止事項のオンパレードです。
身だしなみも、女性の場合、額に少しでも髪の毛がかかったらNGで、前髪はきっちり分け、ピンで留める必要がある。長髪の女性はお団子ヘアにしてキャップを被らないといけない。そこまでしてワタミで働いてくれるのか、窮屈そうで忍びないなあと、正直言えば私もマネジャー時代、思っていましたし、お客様から従業員との会話が弾まず面白くない、という声もありました」
新業態で採用されたマニュアルはそれとは対極で、禁止事項以外は自由、という内容だった。「飲酒しながら働いたり、時間を守らなかったりするのが禁止事項で、それ以外は自由です、と。鳥メロのマニュアルには『服は着用すること』という記載があるくらいです」
この流れが拡大し、その後の新業態はもちろん、旧業態の和民でも、接客や服装のマニュアルはかなり簡素化された。
その結果、「これはどうしたらいいですか」と従業員が問いかけ、「それは自分で考えてやってみて」と店長が答えるケースが増えてきたという。
「今まではワタミのルールはこうだからと、ある意味、機械的に動いていたのが、自分の頭で考え、実行するようになった。接客の基本は、自分が人からやってほしいことを相手のためにやってあげることです。それは、自分の気持ちを押し殺した状態より、伸び伸び解放された状態の方が、実行しやすいはずです」
コロナ禍で苦杯をなめている業態の1つが外食であり、各社が人との非接触を売り物にしたサービスを次々と投入している。ワタミもタッチパネル方式のオーダーシステムを普及させ、料理の配膳ロボットや配膳レーンを備えた店も増やしている。「オーダーや配膳は機械が代替することができますが、無人店舗でいいのかといえばそうではありません。お客様は人間との関わりを求めて来店します。気配りや心配りに長けた、この人からサービスされてよかったと思ってもらえる人材は、これからも必須です」
お客様の心の動きに敏感な従業員は、従業員の心の動きに敏感な職場・企業でしか生まれないのではないだろうか。
【text:荻野 進介 photo:伊藤 誠】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.65 特集1「仕事と感情」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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