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人事制度を感情報酬を中心に、挑戦と安心をセットで考える サイバーエージェント

感情報酬を重視 褒め&手挙げ文化が組織を加速させる

  • 公開日:2022/03/18
  • 更新日:2024/05/16
感情報酬を重視 褒め&手挙げ文化が組織を加速させる

働く人は成果に対し報酬を手にする。金銭がまさに報酬だが、昨今、やりがいや楽しさといったポジティブな感情、すなわち感情報酬に注目する企業が増えてきた。株式会社サイバーエージェントが代表格で、感情報酬をマネジメントの重要なキーワードとしている。同社の野島義隆氏に、その実際を伺った。

離職率を高めた「詰め文化」からの脱皮
制度は流行るから利用される 「白けのイメトレ」が必須
個人のベクトルと組織のベクトルを合致させる

離職率を高めた「詰め文化」からの脱皮

感情報酬を大切にするようになったきっかけは離職率の高さだった。同社人事本部全社推進部部長の野島義隆氏が話す。「会社の創業は1998年で、私が入社したのが2003年です。当時の私は営業で、目標数字は必達、できなければ上司から詰められる、というような職場でした。その詰め文化のせいで人がどんどん離職しました。これではいけないと経営陣が考え、その年、『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンを作りました。社員はそのための同志、チーム・サイバーエージェントというわけです」

2005年には営業のトップを人事のトップにする異例の人事が行われた。人事重視の表れだ。「そこから、全員がやりがいや楽しさを感じながら前向きに挑戦していける会社への脱皮がスタートしたのです」

サイバーエージェントの人事方針にはもう1つのキーワードがある。「挑戦と安心はセット」だ。「挑戦をし続けるための安心を用意し、長期間働いてもらう社員をいかに作るか。うちのすべての人事制度は縦軸に感情報酬と金銭報酬、横軸に挑戦と安心を置いた全4象限にマッピングされています」

制度は流行るから利用される 「白けのイメトレ」が必須

社員の感情を重視するとは具体的にどんなことなのか。

「新たな制度を設ける場合、流行らせ、白けさせないということを重視しています。まずはネーミングにこだわり、覚えやすく印象的な名称を心がけています。ただ、名前を面白くしただけで中身がなければ、一時は流行らせることができても、社員は白け、結局は形骸化してしまう。そこで、『こんな理由で白けてしまうかも』という通称“白けのイメトレ”を関係者で行い、懸念点を潰してから制度をスタートさせるようにしています」

野島氏が具体例として挙げたのが女性活躍を推進するmacalon(マカロン)という制度。体調不良時に取得できる特別休暇、妊活に関する個別カウンセリング、キッズ休暇など、8つの制度をパッケージ化したもので、名称は「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」という意味をもつ。「イメトレによって、女性だけなぜ優遇されるのかというパパ社員からの疑問の声があがることが予想できたので、パパでも活用できるように準備していました」

しかも、制度をいきなり作らないようにもしている。最初のママ社員が生まれたのは2005年で、macalon開始は2014年、その間、9年が経過している。「ママ社員が生まれたらその活躍を社内で発信し、ママは時短でも活躍しているという個別事例を生み出す。次第に事例が増えていくと、ママは復帰しても活躍をし続けるという風土になっていく。そこで初めて制度を作るんです。制度が定着すると、ママが長く活躍できる会社という文化になる。最近は育児出産後の復職率が100%近くまできており、ママ社員の活躍がようやく文化になってきました」

文化といえば、今や初期の頃の詰め文化は消え、褒め文化になってきたという。その象徴が年2回、ホテルの大宴会場を貸し切って行われるアカデミー賞の授賞式のような大掛かりな全体表彰だ。

褒め文化には2つのいい点がある。1つは褒められた社員の仕事への情熱が他の社員に伝わり、「私も頑張って次は壇上に立とう」という思いになること。組織全体のモチベーションが上がるのだ。

もう1つは、会社の方向性が理解しやすくなること。「『それをしてはいけない』という言い方の場合、それ以外ならどこにでも行っていいということになります。一方の褒める場合は正しい道を提示することになり、進むべき方向を示すことができる。皆の共感を得、気持ちを1つにすることができるんです」

個人のベクトルと組織のベクトルを合致させる

サイバーエージェントには手挙げ文化もある。

例えば、年に1度、開催される経営会議「あした会議」は、たとえ新人であっても、案件の提案者が実行役となる。「個人のベクトル(感情)と組織のベクトル(戦略)が合致した場合、成果が最大になるわけですが、うちでは、月に1度の面談等で両方のベクトルが一致するように対話を続けています」

ただ、個人のベクトルといっても、独り善がりのものであってはならない。

昨今、職務無限定のメンバーシップ型人事を、職務限定のジョブ型に変える企業が増えているが、サイバーエージェントが、2021年から開始したのが、「成果ミッション」という新評価制度だ。単純なジョブ型ではない。

成果は各自のジョブ(職務)の達成度に、ミッションが組織貢献度にあたる。ミッションには、採用、広報といった全社横断施策などの「全社貢献」、部署の活性化や社員育成といった「自部署貢献」、部署を超えた協力、社内勉強会での登壇といった「他部署貢献」の3つがある。

何をジョブとし、どんな組織貢献を行うか。これは上司と部下が話し合って決める。「ジョブ型を進めると、どうしてもIが主語になってしまう。そうではなく、主語はWeであるべきです。そのためには他者に対する思いを大事にしなければならない。『私は仲間に対して、こういう形で貢献したい』という熱量や温度感を大切にし、それをもとに組織貢献の中身を考えるようにしたのです」

一方、これまで述べてきたポジティブな感情ばかりではなく、社員はネガティブな感情を抱くこともある。これについてはどう対応しているのか。「毎月、社員の声を集めるアンケートシステムを運用しており、何かあればそこに書き込んでもらい、都度、人事が対応し、成果をあげるための障害を排除しています」

感情報酬を基点にしたマネジメントは他社でも実践できるのだろうかという問いに対して、「大企業の場合、いきなり全社一律というのは難しいでしょう。ただ、課や部単位で、まずは組織長と周辺の数名がその気になれば十分できるはずです。それが成功したら、横展開を考えたらどうでしょう」と答えてくれた。

【text:荻野 進介 photo:平山 諭】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.65 特集1「仕事と感情」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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