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THEME キャリア自律

企業事例キャリア自律を促進する人事改革 カゴメ

強い会社を支える強い個人を作るべく人事を作り直す

強い会社を支える強い個人を作るべく人事を作り直す

伝統的な大企業がすべて保守的であるわけではない。昨今、「トマトの会社」から「野菜の会社」へ、急変貌しているカゴメがそうだ。同社はこの10 年近く、社員のキャリア自律の促進を核に、抜本的な人事改革を実行してきた。その中身と背景を、カゴメ株式会社 常務執行役員 CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏に伺った。

イノベーティブで「強い会社」にするための社員のキャリア自律

有沢正人氏がカゴメに入社したのは2012年1月。当時をこう振り返る。「非常に雰囲気のいい会社ですが、歴史の古い保守的な日本企業の典型でした。環境変化の少ない食品業界で、売上も利益も、安定している半面、大きくは伸びない。株主もそれをあまり批判しない。競争の激しい業界ばかり経験してきた私は大きな違和感を覚えました」

人事もそうだった。「年功序列で、差をつけない。職能資格制度のもと、大卒で16年ほど在籍すれば、必ず課長になれる。いわゆるいい会社で離職率は非常に低い。評価差をなぜつけないのか管理職に聞くと、自分が減点したら部下は昇格できないかもしれない。それは彼のキャリアを傷つけてしまう、と」

有沢氏は考えた。「未来永劫、食品専業であり続けられるなら、現状維持でも構わないが、そうではないはずだ。しかも社員は真面目で優秀だから、もったいない。カゴメを競争に勝ち残れる、イノベーティブで『強い会社』にするには、社員を、自らのキャリアを自分で決められ、社外でも活躍できる『強い個人』に変えなければならない」

人材要件定義書を基盤としたジョブ型人事を導入

社長以下、役員からの賛同を得て、2013年から取りかかったのは、ジョブ型人事の導入だ。具体的には、職能資格制度に代え、職務等級制度を入れた。それも全世界の拠点でだ。

対象は役員を含めた課長クラス以上の管理職。ジョブ型人事に必須とされる職務定義書ではなく、人材要件定義書を作成した。「社員のキャリア自律を促すという意味でジョブ型はいい仕組みなのですが、使い方を間違えると、スペシャリストだけのまとまらない集団になってしまいますし、職務定義書は作成だけで膨大な時間がとられてしまう。そうではなく、キャリア自律の意識を社員にもたせ、人材の可視化とデータベース化に活用するという目的で、人材要件定義書だけを作成したのです」

2015年からはキャリア自律を促進する基盤として「生き方改革」に取り組む。「これまで会社で使いすぎていた時間や、会社に向かいすぎていた意識を、社員個人に振り向ける改革です。働き方改革と暮らし方改革の2つから構成されます」

働き方改革から説明すると、まずスケジュール管理のソフトウェアと勤怠システムを連動させ、週および時間単位で、各自の「仕事と労働時間の見える化」を行った。しかも、社長を含め、全社員が全社員のそれを閲覧できるようにした。「1週間の仕事の予定を自分で組み立て、上司が承認する。仕事のやらされ感を払拭し、“わが事”化させた。仕事を自分でコントロールし、出社しなくても仕事ができる仕組みを作ったのです」

キャリア構築の一助として副業制度もスタートさせた。ただ、一定の社歴を必要とし、さらに健康確保という観点から、対象は入社2年目以上(新卒は4年目以上)で、年間総労働時間1900時間未満の社員に限定される。副業の内容制限は設けない。他社と雇用契約を結んでもいい。「働いてみて、カゴメよりそこがふさわしいと思ったら、どうぞ新たなキャリアを歩んでくださいと話しました。離職者が増えると心配した役員もいましたが、『もし離職率が上がればそれはカゴメに魅力がないからです。魅力をつけ、こんな制度があるなら入りたいという人を逆に増やせばいい』と言いました。来年からは社外の人材がうちを副業先とできる制度を導入したい。カゴメを、優秀な人材を輩出する、出入り自由の会社にしたいんです」

新たなキャリアとして「専門職コース」も新設した。従来は管理職にならなければ“出世”できなかったところ、特定の資格保有者、ある分野の卓越した研究者など、スペシャリストを処遇するキャリアアップの道を用意したのだ。会社が決めるのではなく、希望する人が自ら挑戦できるのもカゴメ流だ。

暮らし方改革の一環として「地域カード」を創設

暮らし方改革の目玉は「地域カード」だ。現在の勤務地が本人希望の地である場合、「地域カード」を使えば、そこで勤務を続けられる。いわゆる転勤回避制度である。逆に希望と違う場合、希望地へ転勤できる、転勤実現制度となる。「地域カード」は在社中に、1人2枚使える。それぞれ3年間有効なので、都合6年間、自分の好きな勤務地で仕事ができるということだ。

「一番多かった女性の退職理由が配偶者の転勤だったんです。そうした理由で、貴重な社員が退職してしまうのはもったいない。一方、保育園に子どもを入れることができたのに転勤を命じられ、退職してしまうケースも出てきていた。単身赴任や子どもとの別居がキャリア自律の足かせになってはいけないと考えました。部長も含め、多くの社員がすでに利用しています」

こうした制度を目白押しで導入する一方、別の手も打つ。2017年から「人材育成担当」というポジションでHRビジネスパートナー(HRBP)機能を導入し、生産、営業、管理部門出身の経験、実績ともに豊富な3名を人事部内に置いた。彼らは戦略的な視点から人材育成を担当する。キャリアコンサルタント資格の保有者だ。

「自己申告のタイミングで、社員と面談するんです。とにかく当人の話を徹底して聞く。『今後のキャリアなんて想像つきません』と言われたら、理由を深掘りしていく。人材育成担当(HRBP)は現場の痛みがよく分かり、社内を熟知していますから、いろいろな話ができる。この面談を通じ、誰もがキャリア自律の一歩を踏み出せるよう支援するのです」

有沢氏の理想は、社員一人ひとりがキャリア自律を果たし、会社と個人がフェアで対等な関係を結ぶこと。「そこまで行くにはまだ時間が必要です」

カゴメといえば、120年の歴史がある老舗企業。いわば外様の有沢氏がなぜここまでの改革を実現できたのか。「最初に職務等級を入れる際、経営トップはもちろん組合にも行って話したんです。ちなみに当社では組合員は職務等級の対象ではありませんが。一部には給料が下がる人も出てくるが、一人ひとりを不幸にするつもりはない、自分のキャリアを自分で決められる、社員のための変更なんだと。きちんと説明すれば納得してくれる現場でした。以降も率直に対話しながら信頼を築いてこられたことが大きかったのでしょう」


【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.64 特集1「キャリア自律の意味すること」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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