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企業事例

従業員のモチベーションを高める目標管理制度 旭化成

「目標の質」が内発的モチベーション向上の鍵である

  • 公開日:2021/09/06
  • 更新日:2024/05/17
「目標の質」が内発的モチベーション向上の鍵である

旭化成の塩月氏たちは、人事業務の傍ら、2019年に「目標管理制度の運用と従業員の内発的モチベーションの関係」という論文を発表した*。目標管理制度は内発的モチベーションにどのような影響があるのか。研究成果をどう現場での実践に生かしているのか。旭化成株式会社 人事部 延岡人事室 室長 塩月顕夫氏に詳しく伺った。 *塩月顕夫・三原祐一・古屋順・敦奎利・開本浩矢 (2019).<a href="https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2019/08/pdf/086-100.pdf"target="_blank">目標管理制度の運用と従業員の内発的モチベーションの関係</a> 日本労働研究雑誌 61(8), 86-100.

目標の質は従業員を動機づける
面談の質と上司の関わりは動機づけの前提
目標の質で種を蒔く

目標の質は従業員を動機づける

2017年から、旭化成人事部では「組織行動論」という研修を行っている。大阪大学の開本浩矢教授を講師に招いて組織行動理論を学びながら、人事メンバーが毎年3チームに分かれて、チームごとに異なるテーマで研究する。今回の「目標管理制度の運用と従業員の内発的モチベーションの関係」研究は、この研修から生まれたものだ。

旭化成では、仕事の成果と専門能力をトータルで評価することで、社員一人ひとりが成長のステップを踏んでいくことを目指した制度「STEP」を運用している。考課のためだけの仕組みではなく、「質の良い組織目標・個人目標を設定する」「その目標を組織内で共有する」「結果をきちんと振り返り、組織と個人の成長につなげる」というサイクルを回すことを目的とした、成長のための仕組みでもある。

2017年には、目標管理制度「MBO-S」の本質的定着を目指した改定を行った。部課長向けMBO-S研修など、MBO-Sの考え方を浸透させる取り組みにも力を入れている。ドラッカーが提唱したManagement By Objectives and Self-controlは一般的にはMBOと略されるが、旭化成ではあえてSを付けて社員の自己管理を重視するメッセージを発しているのが特徴だ。実際STEPでは、組織目標はなるべくメンバー全員で議論し、個人目標は本人が主体的に設定することになっている。

「私たちは、STEPの『目標の質』に何よりもこだわっています。社員一人ひとりが、質の良い目標を設定することを通じて、達成に向けた強い意欲を生み出し、上司・同僚と協力しながら挑戦目標をやりきることを目指しています。

そこで私たちの研究チームでは、『目標の質』を中心とした目標管理制度の運用プロセスと従業員の内発的モチベーションの関係を定量的に明らかにすることを試みました」(塩月氏)

塩月氏のチームは、社内アンケートを実施して、「目標の質」「面談の質」「上司の関わり」という3つの目標管理の運用プロセスが、従業員の内発的モチベーションに及ぼす影響を検証した。その際、デシの理論を参考に、内発的モチベーションの源泉である「自律性」「有能感」「関係性」が、どのように機能しているかを同時に見ていった。なお、アンケート項目は、先行研究を参考にしながら、人事部内での検討を通じて作成した。

224名の社内アンケートの解析結果を簡略化して表したものが図表1だ。仮説のとおり、目標の質は、有能感と自律性を媒介して、内発的モチベーションに正の影響を与えていることが分かった。

<図表1>目標管理制度の運用が内発的モチベーションに与える影響

<図表1>目標管理制度の運用が内発的モチベーションに与える影響

面談の質と上司の関わりは動機づけの前提

一方で、面談の質と上司の関わりは関係性に影響しているものの、仮説と異なり、このモデルでは関係性から内発的モチベーションへの影響は確認できなかった。

「今回の研究では確認できなかったため、ここから先はあくまでも私の仮説ですが、面談の質と上司の関わりは、関係性を媒介して、内発的モチベーションの『衛生要因』として機能しているのではないか、と解釈しました。

つまり、面談の質や上司の関わりが不足し、関係性が整っていない状態だと、目標の質がどれだけ良くても、内発的モチベーションは高まりにくいのではないか、と考えたのです」

塩月氏は、こうしたことについての実体験があるという。「私は今、旭化成・延岡工場で人事を務めています。首都圏企業と比べると、延岡のような地域企業の賃金は総じて低いのが実情です。

賃金などの処遇も、内発的モチベーションの衛生要因と捉えることができるでしょう。必要最低限の給与をもらっていなければ、頑張って働こう、目標に向かって成長しよう、という気持ちにはどうしてもなりにくいものです。

面談の質が低かったり、上司の関わりが少なかったりしたときも、従業員はやはり目標に向かって成長しようとは思いにくいのです。私たちが最近取り組み始めた1on1は、まさに面談の質や上司の関わりを改善して、目標に向かおうとする気持ちを醸成する施策です。こうして衛生要因を満たした上ではじめて、目標の質の良さが内発的モチベーションにつながっていくのです」

目標の質で種を蒔く

これらの研究成果を踏まえ、塩月氏は目標管理制度について以下のように考えている。

「一言で言えば、面談の質と上司の関わりで畑を耕し、目標の質で種を蒔くのが目標管理制度だ、というのが私の考えです。

これまで触れてきたとおり、目標の質が内発的モチベーション向上の鍵です。組織目標を設定し、個人目標をマネージするマネジャーの役割は重大です。先にお伝えしたとおり、STEPの個人目標は各自が主体的に設定するものですが、当然ながら、最終的には上司とよく話し合った上で決定します。本人が設定した目標の質が良くなければ、マネジャーが軌道修正を行い、従業員に個人目標の再提出を依頼することもあります。マネジャーには、目標の質の大切さを繰り返し伝え、組織目標・個人目標の質の担保をお願いしています。

ただ一方で、面談の質や上司の関わり、処遇などの衛生要因が満たされていることが目標管理制度の前提です。マネジャーや人事はこのこともよく理解し、必要に応じて1on1などを上手に利用して部下と交流し、人間関係などの改善を図ることが大切です」

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.63 特集2[従業員のエネルギーを高める 「目標によるマネジメント」]より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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