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個性を踏まえた上司・部下コミュニケーション ABB

個の違いを認識することが組織成果の鍵を握る

  • 公開日:2019/11/11
  • 更新日:2024/03/18
個の違いを認識することが組織成果の鍵を握る

多様さや心理面でのすれ違いが、時にはビジネスの損失につながることもある。上司に「気づき」を与え、社員一人ひとりの個性とワーク・メンタリティ(仕事に臨む心理状態)を踏まえたコミュニケーションをとってもらうにはどうすればいいのだろうか。ABB株式会社 人財開発責任者光井美穂氏にお話を伺った。

上司・部下のコミュニケーションへの着目
アンケートで一人ひとりのタイプなどを分析した
特に不満はない人ほど実は要注意

上司・部下のコミュニケーションへの着目

グローバルであらゆる産業のデジタル化に関わるABB。1907年から日本に参入し、産業用ロボットなどのオートメーション事業を手掛けている。約9割の従業員が工学系のバックグラウンドをもつなど、エンジニアの多い会社だ。そんなABBが社員一人ひとりの人間性と内面に目を向けることになったきっかけは、ある事業部で起きた出来事だった。人財開発責任者の光井美穂氏が説明する。
「弊社の場合、モノを受注して生産し、納品するまでに短くて3カ月、長いと1年くらいかかることもあります。いくつかのプロジェクトで、予定どおりの予算で納品を完了できず、利益が圧迫されてしまったことがありました。その原因を探ると、どうやら上司と部下のコミュニケーションに問題があるような構図が見えてきたのです」

この道何十年のプロが集まるなかでも、起きてしまったすれ違い。真の課題を探って解決へと導くには、通り一遍の研修では到底不十分だと光井氏は考えた。そこでアセスメントを活用し、一人ひとりの仕事に臨む心理状態や性格特性の違い、認知のすれ違いにまで踏み込んだ研修を行うことにした。

アンケートで一人ひとりのタイプなどを分析した

研修では、まず、上司・部下それぞれへのアンケートから、上司から見た部下の期待への到達度と、部下本人のワーク・メンタリティ(仕事に臨む心理状態)を比較した(図表1)。

上司・部下間の認識の比較

上司にフィードバックすると、驚きの声があがったという。上司からは問題ないように見えていた社員のなかに、余裕を失って状況を冷静に捉えられない人がいたり、上司からすればもっと頑張ってほしいのに、本人は職場や上司に対して不満を抱えており、素直には頑張れなかったりする人もいたからだ。
「ひとくちにエンゲージメントを高めると言っても『職場に不満はないけれどエンゲージメントも高くない人』と『仕事自体は好きだけれど上司や会社への不満がある人』『自分自身が余裕を失って状況を冷静に捉えられない人』では、それぞれ、適した接し方が違います」と光井氏は言う。

そして、4つの性格タイプ(図表2)に基づいて、上司・部下間での性格の違いも明らかにした。

性格分類の4タイプ

利益が圧迫されてしまった先のケースでは、部下のエンジニアが秩序重視タイプなのに対し、上司は結果重視タイプだった。秩序重視タイプのエンジニアはプロセスを共有して手戻りがないように積み重ねていきたいのに、上司が結論や変更点の報告だけ求めることに不満を抱いていた。その結果、プロジェクトのなかで重大な問題が起きた場合でも、それが吸い上げられない状態も生まれていた。

特に不満はない人ほど実は要注意

業務に忙殺されたり、自分に余裕がなかったりするときほど、人間は自分自身の考えや好むやり方に固執してしまう。「人間は多様なものだと理解した上で、相手のタイプを認識しながらコミュニケーションをとることは、結果的に謙虚さにもつながると思います」と光井氏は指摘する。

ABBでは、当初、ワーク・メンタリティの状態が良くなかったため、余裕を失っている人へのフォローから始めた。実際に接してみると、自分がしんどい状態にあることを本人すら自覚できていないケースもあり、問題が起こる前に対処することの難しさも実感した。人事としての重要な気づきは、会社や職場に不満はないもののエンゲージメントが低い人こそ対処が必要という点だったという。
「会社や職場に不満を抱いている人は、その不満が解消されればエンゲージメントの高まる伸びしろがあります。対処が難しいのはむしろ、何の不満もないのにエンゲージメントが低い人ではないでしょうか。取り組みを続けていくなかで、そういう人は結果的に離職のリスクも高いと分かりました」(光井氏)。

ピープルマネジメントのプロでもあるマネジャーに対して人事が果たすべき役割は「気づき」を与えることだ。ビジネスに寄与してこそ、人事の意味がある。ビジネスを促進させるために、人事として何ができるのかを考えることが重要だ。
「相手の心情やタイプに合わせてコミュニケーションをとることが大事だと理屈では分かっていても、日常業務に追われるなかでは、忘れてしまいがち。だからこそ、継続的に気づきの機会を提供していく必要があります」と、光井氏は強調した。

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.55 特集2「心理的側面に着目して、一人ひとりを生かす~ワーク・メンタリティの視点から~」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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