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オープン・イノベーションの推進組織 トヨタ自動車

社外メンバーが3分の1 モビリティの未来を生活者視点で考える

  • 公開日:2019/04/08
  • 更新日:2024/03/15
社外メンバーが3分の1モビリティの未来を生活者視点で考える

さまざまな分野のイノベーションが同時多発的に起こっているのが自動車業界だ。各社とも必要な知識や技術を外部から積極的に採り入れるようになった。自前主義のイメージが強かったトヨタも例外ではない。未来プロジェクト室というオープン・イノベーションの推進組織について、トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー ITS・コネクティッド統括部 総括・企画室長 鈴木雅穂氏にお話を伺った。

東京・表参道にあるトヨタの本社直轄組織
公共交通機関に限らない最適な移動手段を検索可能
物流や物販を含むMaaSを実現する車

東京・表参道にあるトヨタの本社直轄組織

未来プロジェクト室は本社直轄の部署だが、所在地は若者が多くさまざまなトレンドが生まれてきた東京の表参道にある。与えられた役割は2030年頃を見据えた新しい車のコンセプトや移動に関する新たなサービスを企画、発案することだ。

同室設立時の室長で、現在はコネクティッドカンパニー(後述)に所属する鈴木雅穂氏が話す。「世の中のさまざまな商品やサービスが劇的に変化するなかで、『人を乗せて運ぶ』という車の価値提供は今のままでよいのか、という問題意識のもと、新しい車のコンセプトや、移動サービスをも含む、モビリティ社会の未来を考えようという目的で作られたのがこの組織です」

その発祥は1990年代にさかのぼる。当時は商品企画部に所属し車の企画中心であったが、2012年に役割が拡大、2017年には本社機能直轄の独立組織となった。本社機能に属しながら室単独で異なるエリアに設置されているユニークな組織である。

取り組むテーマは3つある。1つ目は既存の車に関するもの、2つ目は未来の車に関するもの、最後が人の移動に関する新しい価値提供だ。「仕事を進める上での心構えも3つ掲げています。1つ目はメーカー視点や車のお客様目線だけではない、生活者視点で社会課題解決や新価値創造に取り組むこと。2つ目は共創主義。単に新しい技術やサービスをお借りするのではなく、さまざまなステークホルダーの方と連携し、ソリューションを一緒に創出すること。3つ目は自らの手で試す。提案して終わりではなく、プロトタイプを作って自ら試し世に送り出すまで粘り強く取り組むことです」

公共交通機関に限らない最適な移動手段を検索可能

未来プロジェクト室から生まれた新サービスがある。スマートフォン向けの交通系アプリ「my route(マイルート)」だ。バスや鉄道などの公共交通に加え、タクシーや自家用車などの自動車、自転車、徒歩など、さまざまな移動手段を組み合わせて最適な移動ルートを検索しそれらの予約・決済まで行えるだけでなく、地域のイベントや店舗情報も提供し「街の賑わい創出」もねらう新たな試みである。

現在、トヨタと西日本鉄道(西鉄)やサービス事業者などが連携し福岡市内で実証実験を行っている。生活者視点、共創主義、自前で試す、という3原則をみごとに貫徹している。

興味深いのは、未来プロジェクト室のメンバーの構成である。十数名のうち、社外が3分の1を占めているのだ。トヨタへの転職ではなく、出向という形が多い。「当初のメンバーは社員だけで、社外との接点は外部の人たちとのワークショップや業務委託・協業が中心でした。しかし、互いの組織風土やミッションが壁になり新しいことが生まれにくい。そこで問題意識やミッションを共有化し迅速にプロジェクトを遂行するために、こちらに来ていただこうとなったのです」

顔ぶれは地方自治体の職員から自動車業界とは縁遠い企業や先端産業の社員までと幅広く、年齢は30代、40代が中心だ。未来プロジェクト室からの依頼で実現するケースもあれば、プロジェクトを進めるなかで関わった企業が、同室に魅力を感じ「一緒に新しいことに取り組みたい、若手育成のために派遣したい」と希望されるケースも少なくないという。「イノベーションは異質なものの掛け合わせから創造されると思います。人材も同じで、異なる背景をもった人が同じ組織・同じ場所で同じ問題意識・ミッションをもつことで、他にはない新しいことが生まれるはずと考え、あえてトヨタにはない背景のさまざまな方々にメンバーになっていただきました。上層部もこんな試みをよく認めてくれたと感謝しています」

メンバーはどんな気持ちで働いているのだろうか。「自動車ビジネスは企画・開発期間が長く、投資規模も莫大になり、その結果、各自の仕事の範囲や権限は限定的にならざるを得ません。一方、同室の仕事は、企画から予算管理、外部折衝、メディア対応など非常に幅広く、また自らの問題意識でさまざまな方との接点がもてる。しかもプロジェクトの最初から最後まで関われ、失敗も成功もすべて自分に跳ね返り、成長実感が得られやすいと思います。室長としては、イノベーションは短期間では起こらないなか、この組織をいかに維持・発展させるかに注力し、企画には極力口を出さないことを心がけていました。上司が口を出すと企画のサイズが上司のサイズに縮まってしまいます」

物流や物販を含むMaaSを実現する車

トヨタでは、展開中のビジネスにおいても新しいモビリティ社会の創造に積極的に取り組んでいる。その主体の1つとなるのが、現在鈴木氏が所属するコネクティッドカンパニーだ。2016年4月に設立された社内横断のバーチャルカンパニーで、ITなど新技術を駆使し、車をさまざまなモノやコトにつなげ、新たな事業を推進している。この組織にも企画・開発そして市場に商品・サービスを送り出すためのさまざまな人材が集う。4月には通信・情報領域の先端・応用研究を担うトヨタ100%出資のIT開発センターが同カンパニーに融合し、先端・応用研究から商品化までの迅速化・新事業創出に取り組む予定だ。

昨年1月、アメリカのデトロイトで行われた家電見本市で、同カンパニーが深く関わった人々の生活を支える新たなモビリティ「e-Palette Concept」が発表され、大きな話題を呼んだ。「人の移動はもちろん、物流や物販など、さまざまな目的で利用できるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を実現するモビリティサービス専用車です」

e-Paletteの実用化に向け、トヨタはマツダ、ウーバー、アマゾン、ピザハットといった内外の大手企業とアライアンスを結んだ。

自動車業界においては、オープン・イノベーションという言葉は、当たり前すぎて死語になるのではないか。そんな感じを抱かせるトヨタの挑戦だ。

【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集1「オープン・イノベーションを成功させる組織のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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