企業事例
オープン・イノベーション実践における工夫と課題 ナインシグマ・ ホールディングス
リスクよりゲインを 属人的ではなく組織的な推進を
- 公開日:2019/03/25
- 更新日:2024/03/15
オープン・イノベーションは実際のところ、どのように行われているのだろうか。世界で5000件、国内で1200件の実績がある世界的オープン・イノベーションの支援企業であるナインシグマ・ホールディングス株式会社の取締役COO 村上まり恵氏に、最近の傾向、日本企業と欧米企業の取り組み方の違い、オープン・イノベーションを促進させるポイントなどを聞いてみた。
グローバル・ネットワークによる技術課題の解決
ナインシグマは日本、アメリカ、ヨーロッパの3拠点で事業を行っている。顧客企業は世界で800社、国内で220社にのぼる。取締役COOの村上まり恵氏は「われわれは、いわば技術のお見合い業です。大手メーカーが主な顧客で、その要請に従い、世界中の企業やスタートアップ、大学に所属する適切な研究者やエンジニアを見つけ出してマッチングし、イノベーションを促進、創発させています」と言う。
お見合いはどのように進めるのか。「ナインシグマの強みは、顧客企業のニーズに合致する技術をもつ人材を探し出すサーチ能力と、そうしたサーチを通じて蓄積した250万人に及ぶグローバルなネットワークです。それに加えて、われわれのスタッフは顧客企業の依頼案件を理解し、分かりやすい言葉に置き換える能力を鍛えています。その力を駆使しつつ、例えばある技術課題の解決策を探すといった場合、依頼者との対話を通じ、技術の間口をできるだけ広げ、想定外の分野の相手も見つかるようにして、マッチングの精度を高めていきます」
オープン・イノベーションを進めるには、大きく2つのパターンがあるという。「1つは、『何をするか』から決めるWhat to do型で、もう1つが、実現したいビジネスを見据えて、それを実現する手段を模索し、足りない技術のピースを探すHow to do型です」
同社は設立の2006年当初は、How to do型に力を入れてきた。「今、技術はあり余っています。ビジネスの出口戦略をもっている人や企業が優位に立てます」。しかし、特にここ数年は「新規事業を作り出さなければ」という顧客の危機感が強まっており、What to do型の需要が高まっている。
市場のニーズに応えるため、同社は世界の大手メーカーのマネジャー層以上をメンバーとする「OI(オープン・イノベーション)カウンシル」を立ち上げた。ここでは、自社技術の出口戦略や新規市場へのリーチ戦略、事業フェーズごとの課題など、イノベーションに結びつくあらゆる設問を気軽に問い合わせることができ、多くの場合、数週間以内で何らかの回答が得られる。
オープン・イノベーションはトライアルから実践フェーズへ
最近の傾向として、お見合いの結果、協業相手を国内に求める日本企業も増えてきたという。「似たような技術を保有しているのであれば、協業しやすいのは圧倒的に国内です。そういう点からも、日本企業の本気度は上がってきています」
ただ、業界ごとの濃淡はあるようだ。「弊社の中心顧客である日本の大手メーカーに限っていえば、自動車や食品など変化の激しい業界ほど、熱心に取り組んでいます。一方、鉄鋼などに代表される寡占業界はまだそれほどとはいえません」
また最近はWhat to do型に取り組む企業も、その本気度をさらに高めているという。懸賞金をつけ、大規模なコンテストを行う企業が日本でも出てきたとのことだ。
そのなかでナインシグマがサポートしたのが旭化成のケースだ。自社独自のセンシング技術を利用した新しいビジネスをアメリカで立ち上げるため、2017年10月、学生などを相手にしたビジネスアイディアコンテストをアメリカで開催。総額3万5000ドルの賞金が用意され、上位3名を日本での表彰式に招待するという豪華な内容だった。
この場合、副社長の肝入りだったからこそ、社名公開もできたのだろうと村上氏は推測する。というのも、こうしたコンテストを含め、お見合いの際に社名の開示を選ばない日本企業が多いからだ。他社に秘密が漏れ、真似されるリスクを避けようとする姿勢に村上氏は懐疑的だ。「リスクとゲインのうち、リスクを重視するということだと思いますが、欧米企業は違います。リスクだけを考えて情報を出し惜しみするより、社名を明らかにした上で求めている技術や困っていることを世の中に知らしめ、解決策を募った方が、大きなゲインが得られるはずだと考えているのです。この姿勢を日本企業ももっと見習う必要があります」
オープン・イノベーション活動を人事評価に組み込め
社名開示の件でも分かるように、この分野は欧米企業の方が進んでいるのは間違いない。村上氏はこう強調する。「優れた人間が戦略を立て道筋を描いた上で、属人的ではなく組織的に取り組んでいるのです」
例えば、自社の技術資産を社外のビジネスパートナーに公開し、新たな共創関係を作り出すイノベーションセンターを設ける欧米企業は多い。同じような組織を作る日本企業はあるが、自社のネットワークの外部にいる人たちをなかなか呼び込めないのだという。
また、オープン・イノベーションのための専門組織を立ち上げても、イノベーションとはほど遠い人材が責任者に任命される場合もある。
これは人事の問題が大きいと村上氏は指摘する。「P&Gではオープン・イノベーションに関わる活動を人事評価の項目に入れると共に、研究者やエンジニアのキャリアパスとして、オープン・イノベーション推進組織への配属が組み込まれています」
社員やサプライヤーから出てくるアイディアをもとにしたイノベーションも大切だが、それだけではなく、外部の人とも積極的につながり、多様性あるアイディアを広く集め、すばやく形にしていく。オープン・イノベーションの意義を人事や経営がもっと理解し、組織的・戦略的に取り組まなければならないということだ。
【text:荻野進介】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集1「オープン・イノベーションを成功させる組織のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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