企業事例
意識的・体系的な人財育成へ 株式会社アシスト
「職場育成ガイドブック」で役割を意識した人財育成を促進する
- 公開日:2018/10/01
- 更新日:2024/03/15
ソフトウェアの専門商社として、世界中から優良なソフトウェアを発掘し、日本企業が使いやすい形でパッケージとして提供している「アシスト」。会社設立は1972年。創設者のビル・トッテン氏が執筆した「哲学と信念」をベースに、「超サポ愉快カンパニー」を目指し、「めげない」「逃げない」「あまり儲けない」の3つを顧客との約束に掲げ、信頼を集めている。
そんなアシストが2015年、独自の「職場育成ガイドブック」を作成し、社内の全マネジャーに配布した。社員向けには、社内のイントラネットで公開しているという。どんな狙いがあるのだろうか──。株式会社アシスト 経営企画本部 人事企画課 課長 渡辺 美和氏、主任 森 圭吾氏にお話を伺った。
- 目次
- 職能等級制度から役割等級制度へ 人事制度改革がきっかけ
- 「人が育つのを待つ」から意識的・体系的な人財育成へ
- 「面談を通じて浸透」にはマネジャーからの反発も
- 若手育成の効果を高め 自律的な学びの環境を増やす
職能等級制度から役割等級制度へ 人事制度改革がきっかけ
「きっかけは2015年、人事制度を大きく変えたことにありました」と、経営企画本部人事企画課課長の渡辺美和氏が説明する。
「この年、それまではいわゆる職能等級制度でやってきたものを、役割等級へシフトしました。制度改革の柱は複線型キャリアパス、役割に基づいた公平、公正な評価・報酬制度、計画的・体系的な育成制度の3つです。職場育成ガイドブックはこの3つの柱に基づき、社内へ役割を意識した人財育成を浸透する目的で作りました」
顧客期待を上回る「超サポ」をモットーに掲げるアシストでは、顧客に対して常に120%の満足を提供していくことが求められる。そんななか、マネジャーの意識はチームとして成果を上げることよりも、個人としての専門性を高める方向に向きがちだった。ただし、優秀なプレイヤーが必ずしも有能なマネジャーになれるとは限らない。期待役割がプレイヤーからマネジャーへと移行していくトランジションの過程で、つまずくケースも見られた。
「人が育つのを待つ」から意識的・体系的な人財育成へ
「マネジャーの役割はチームの成果を最大化することです。専門性や業績ばかりではなく、マネジメントで会社に貢献する部分も正当に評価していかないと、組織としての永続性や企業文化を育むという面が弱くなってしまう。新しい評価制度ではその点を重視して、役割に基づいた行動を評価する割合をかなり大きくしました」と経営企画本部人事企画課主任、森圭吾氏は説明する。
業績を重視しすぎると、人財育成がどうしても後回しになってしまう。「業務を通じて自然発生的に人が育つのを待つばかりで、意識的・計画的な人財育成ができていないことも課題でした」と渡辺氏は続ける。
職場育成ガイドブックはこのような問題意識のもと、先の制度改革に沿う形で作られた。会社が社員に対して期待する役割とは何かを分かりやすく説明しつつ、各自がより速く、確実に役割を遂行し、次の期待役割に向けて成長できる道筋を示している。
実は、同様のことは、すでに役割定義書でも明文化されていた。「営業、技術、スタッフと職種別に役割を明記していましたが、どうしても文章が硬くなりがちで、あまり活用されていませんでした」
そこで職場育成ガイドブックでは、期待役割ごとに入口から出口までのモデルを図式化。各ステージで期待される役割と、起きがちな課題を明記した上で、どうすれば次のステージに移っていけるのか、をできるだけ分かりやすい言葉で解説した。部署や職種を問わず、同じ役割ステージにある社員が自分自身の状況に置き換えて考えられる、参考となるエピソードも併せて紹介している。
「エピソードに関しては、各現場に簡単にヒアリングをした上で書いています。ただし、具体的なところを詳細に書くのではなく、役割ステージに合わせて、ある程度、どんな職種でも共通して使えるものに加工しました。実際にはどうしても期待されている役割の一段下にとどまってしまうケースが多いため、そこを少しストレッチしながら上のステージへのトランジションを促す内容を意識しました」
「面談を通じて浸透」にはマネジャーからの反発も
役割定義書に比べるとガイドブックは読みやすく、使いやすい内容に仕上がっている。人事制度改革の初年度、このガイドブックを使い、役割を意識した人財育成を浸透するためマネジャーに対して期末ごとの評価面談とは別に、年に一度の能力開発面談を実施するよう促した。だが、これについては、マネジャーから相当な反発もあったという。
「当社は3期制をとっていて、年に3回、目標管理に基づく業績評価のための面談をしています。また、役割行動評価の面談を年2回行っており、それに加えて年1回、“評価面談とは別に育成観点での面談を各メンバーと実施してください”とお願いしたのですが、業務負荷が高まるだけではないかという受け止め方をされてしまいました」と渡辺氏は振り返る。
そのような反省をふまえ、役割を意識した人財育成を浸透するためには何をすべきか、原点に立ち戻って考え、制度の柱となる役割定義書にも見直しを入れた。
「役割定義書の大きな変更点は、ステージごとの期待役割という枠を新たに設けたことです。職種にかかわらず同じ役割ステージならば同じ期待役割が求められることを、定義書の上でも明確に分かるようにしました」
若手育成の効果を高め 自律的な学びの環境を増やす
経営企画本部では引き続き、役割意識の浸透に向けた努力を続けていく方針だ。併せて、若手の早期育成や自律的な学びの場も提供していきたい、と考えている。
「ツールがあっても、それをどう使うかは現場のマネジャー次第です。忙しいなかでも若手を育成していくために、誰がその役割を担うのかも含めて、できるだけ投入工数に対して効果を高め、マネジャーの負担を減らすことにも取り組みたい。加えて、やる気のある社員に対しては、自律的に学べる環境を提供していきたいと考えています」と渡辺氏は、今後の人財育成への想いを力強く語っていた。
ガイドブックは現在、一般社員に対しては社内のイントラネットで公開しているだけだが、今後は冊子として配ることも検討中だ。
【text:曲沼美恵】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.51 特集2「成長につながる“トランジション”をデザインする」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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