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企業事例

部下のワーク・ライフ・バランスのカギを握るのは上司 アイシン精機

「イクボス塾」で理想の上司を増やしていく

  • 公開日:2018/09/10
  • 更新日:2024/03/15
「イクボス塾」で理想の上司を増やしていく

自動車部品大手のアイシン精機が、仕事もできて、部下の面倒見も良く、私生活も充実している「イクボス」の育成に取り組んでいる。ダイバーシティ推進を重要な戦略と考えるトップと、日々の仕事に追われるミドルマネジャー。双方の課題を同時解決していこうとする試みでもある。「イクボス塾」が始まった経緯と、具体的な取り組みについて、アイシン精機株式会社 人事部 部長 村瀬伴久氏、人材開発グループ 育成チーム チームリーダー神谷祐加氏にお話を伺った。

どうすれば女性活躍推進が進むのか、話し合うことからスタート
1回4時間のワークショップと職場実践を1年かけて交互に回す
95%が終了後も取り組みを継続 効果は数字にも表れている
[イクボス事例①]ライフ・キャリアプランシートで希望を把握 昇進に関するアドバイスもしやすくなった
[イクボス事例②]趣味の山登りを復活させ深いコミュニケーションを実現

どうすれば女性活躍推進が進むのか、話し合うことからスタート

始まりは2014年のことだった。人事部部長の村瀬伴久氏が説明する。

「当社では1990年代からずっと、女性も安心して長く働き続けられる環境整備に取り組んできました。産休・育休後の復職率は現在、ほぼ100%です。一方で、2014年時点の女性管理職比率は1.4%と低く、活躍という点ではまだ不十分でした。トップ層にも『ダイバーシティ推進は変化の時代を生き残っていくための重要な企業戦略である』という認識はありましたが、ロールモデルがなかなか出てこない。もう少し踏み込んで、現場の実態に即した施策が必要だろうというところから、イクボスの取り組みへと発展していきました」

人事部ではまず、各機能部門から係長クラスの女性を集めた“きらり”プロジェクトを結成。月1 回集まり、どうすれば女性活躍が進むのかを話し合うことからスタートした。

「話し合いのなかから多く出てきたのは、子育てをしながらいまの上司と同じような働き方をしろと言われても躊躇してしまうという意見でした。では逆にどのような上司が理想かを尋ねたところ、浮かんできた像が世の中でいわれている『イクボス』の定義にぴったりでした」

1回4時間のワークショップと職場実践を1年かけて交互に回す

アイシン精機でのイクボスとは「部下のキャリアと人生を応援しながら、組織業績の結果も出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司」と置いた。また、組織業績を出すために、長時間労働で業績を担保しない仕事の仕方が大事であることを伝えた。

しかし、現実には条件をすべて満たすにはハードルが高い。そのため、2015年から「男女関係なく、部下のワーク・ライフ・バランスのカギを握るのは上司である」と考え、「イクボス塾」をスタートさせた。プログラムの期間は約1年。1回当たり4時間のワークショップを、職場での実践期間を交えながら計4回開催している。最終の5回目には、経営層や社内の他の管理職も呼び、事例共有のための全社事例発表会を開く。

人材開発グループ育成チーム チームリーダーの神谷祐加氏は「第1期はGM(グループマネージャー)22人を対象に実施しましたが、初日、参加者のほとんどが『面倒なことに呼ばれた』とやらされ感でいっぱいの状況でした」と振り返る。しかし、参加している管理職は誰しもがマネジメントに不安や悩みを抱えているはずであり、管理職同士だから本音で共有することができるはず。まずは、その抱えているぞれぞれの悩みを共有することからワークショップを始めた。

「通常の研修だと、正解に向かってこれを学び、実践しましょうとなりがちですが、イクボス塾では参加者自らが取り組みたい課題を考え、それを計画立てて実践する経験学習方式をとりました。第1期は女性活躍に焦点を絞ったこともあり、『セクハラ・パワハラと言われるのが怖くて、女性にキャリアビジョンが聞けない』ですとか、『女性部下の昇進意欲を喚起する方法が分からない』などの悩みが多く出ました」(村瀬氏)

悩みを共有したところで、次に、取り組みたいテーマを設定する。それを職場に持ち帰り実践。2 回目以降のワークショップでは、うまくいったところ、いかなかったところを振り返り、取り組み内容をブラッシュアップし、さらなる実践へとつなげる。それに加えて3回目は「秘伝書」として他者が実践できるノウハウへと落とし込む作業をし、4回目以降は、そのノウハウを職場の同僚2人以上に伝え、同志を作っていくことを課題としている。

「活動のメインは、あくまで各自の職場。まさにPDCAを回すようなイメージです。最初はやらされ感いっぱいだった参加者も、回を追うごとに成功事例や面白い取り組みが出てくるので、やる気がわいてくる感じでした」(神谷氏)

上司を巻き込みながら進めたケースとそうでないケースで成果に違いが出たことから、2期目以降は上司を巻き込むよう事前にアドバイス。ワークショップ終了後の全社事例発表会には、経営層や管理職約100人を招待。事前に投票で選んだ好事例を数例発表してもらい、パネルディスカッションしながら、その場でさらに深掘りしている。

「発表後は部下から手紙や動画が届くなど、毎回、サプライズを用意しています。上司は経営層から叱られる場面や部下から不満を言われることは多いですが、感謝される場面が少なく、毎回このサプライズでは部下のメッセージに感極まる上司の方がいます。それを見た弊社の経営層も一緒に感動し、良い取り組みだからさらに拡げるようにと指示がありました」(村瀬氏)

95%が終了後も取り組みを継続 効果は数字にも表れている

イクボス塾の効果は、数字にも表れている。終了後、上司・部下・職場のそれぞれに関して「変化があったか」を尋ねたアンケート調査の結果では、「部下・自分自身に変化があった」が85%、「上司が変わった」が87%、「職場に変化があった」も74%に上った。イクボス塾終了後も課題設定した取り組みを続けていると回答した参加者は95% にも上り、その継続率の高さには人事部も驚いた。

2015年から開始したイクボス塾の取り組みは、今年で4期目を迎える。塾生は合計で123人。現在はGMからチームリーダーへと対象を広げている。全社意識調査の結果を見ると、イクボスの取り組みを始めてから、際立って女性活躍推進度に関する項目のポイントが上昇しており、当初の課題だった女性活躍推進にも効果があることが分かってきた。

「会社や上司が本気で変わろうとしているのかを、部下は敏感に察知します。やるのであれば一過性ではなく、腰を据え、部下を巻き込みながらある程度の時間をかけてじっくり取り組んでいくことが大事だと思います」と村瀬氏はアドバイスする。取り組みを通じて、全部署に1人はイクボスのロールモデルがいる状態になった。今年度からは、イクボス育成の活動を技能系職場にも拡げ推進している。

[イクボス事例①]ライフ・キャリアプランシートで希望を把握 昇進に関するアドバイスもしやすくなった

電子商品本部 第一電子技術部
品質・統括グループ グループマネージャー
佐藤謙一氏

イクボス塾には1期生として参加しました。品質・統括グループは部内で最も女性が多い。厳しいことも含めて、本音で話をしたくても、相手が女性だとつい遠慮してしまったり、伝えるべきことを伝えきれていなかったりということがありました。私よりも本音を話しやすいだろうと思い、リーダー格の女性を通じて改めて部下の声を聞いたところ、悩みは大きく2つありました。1つは産休・育休から復職する際の不安。これについては、復職1カ月前に子ども連れの職場見学会を実施し、職場メンバーが集まってざっくばらんに話をし交流する機会を設けるなどしました。もう1点は、復職後に時短勤務で業務をやりきらなければならないプレッシャーが大きいこと。これを緩和するため、1つの業務を必ず2人以上が担当できる体制を整えました。不満も出るかと心配しましたが、若手の女性部下たちが、自分たちにも起こることなのでと、思った以上に積極的に協力してくれました。

年2回の面談では、イクボス塾で教えてもらったライフ・キャリアプランシートを使っています。シートがあると、わざわざ質問をしなくても、彼女たちのキャリアに対する価値観や考え方、結婚・出産のタイミングに関する希望などが把握できます。おかげで昇進昇格のタイミングと産休・育休などのライフイベントのタイミングについて共有ができ、アドバイスもしやすくなりました。イクボス塾に参加してから私生活を充実させることも大事だと感じ、金曜の夜、妻と待ち合わせて飲みに行っています。不思議と部下の女性たちにも好評で、家庭も円満になるのでお勧めです。

[イクボス事例②]趣味の山登りを復活させ深いコミュニケーションを実現

PE・環境推進部
ARプラントエンジニアリンググループ
チームリーダー
坪井建樹氏

イクボス塾の3期生です。所属しているのは弊社の工場やビルを設計したり、建設を推進したりする部署。中途入社組が多い点と、打ち合わせなどに追われ、十分にメンバーとコミュニケーションをはかることができていない点に課題を感じていました。メンバーのことを理解していたつもりでも、いざ彼らの気持ちになってライフ・キャリアプランシートを書こうとすると、書けない部分が多かった。「意外と分かっていないんだな」と実感しました。

相談しやすい環境を作るため、上司にも協力してもらい、金曜日の午前中には管理職同士の会議を入れず部下との「コミュニケーションタイム」を設けました。でも、なかなか業務時間内にキャリアや人生相談には来てくれません。結局、人となりを知る会話ではなく、業務の話が中心に。意外と役に立ったのは、趣味の時間を共有することでした。「実は登山が趣味なんだよね」という話を職場でしたら、同じ趣味の人が多かった。たちまち数人が集まり、「PE(パーティエンジニアリング)山楽部」を発足。SNSで気軽に連絡を取り合い、2カ月に1回程度、一緒に登山をするようになりました。回を追うごとに参加者が増え、メンバーは現在5、6人。始める前は「誘ったら嫌がられるんじゃないか」と不安でしたが、思いきってやってみたら私自身も楽しいし、以前よりも職場で深い話ができるようになりました。チームリーダーになってからは特に、休日も仕事のことが頭から離れませんでした。登山からも遠ざかっていましたが、やはり、私的な時間を充実させることも大事だと実感しています。

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.51 特集1「ミドルマネジャーのワーク・ライフ・エンリッチメント」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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