適材適所の人材配置 ソニー 縦割りを越えた異動を促す新制度で挑戦の機会を拡大

2015年から社内公募制度のフルモデルチェンジに取り組んでいるソニー。個人が自立的にキャリアを構築する機会を拡大すると同時に、部門の垣根を越えた人事異動をしやすくするねらいがある。結果として、全社的な人材力の向上と適材適所の人材配置の実現を目指す。ソニー株式会社 人事センターEC人事部 統括部長 大塚 康氏、人事センター人事1部4課 統括課長 堀田 綾子氏にお話を伺った。


個人主体の異動制度

「自分のキャリアは自分で築く」考え方が文化として根付くソニー。創業者の1人である盛田昭夫が提唱し、1966年より、上司の許可を得ずに個人が社内求人に応募できる「社内募集制度」を導入しており、制度開始以来、本制度による異動者は、累計で7000人を超えるという。

そんなソニーが2015年、従来の社内公募を維持しながら、新たに3つの制度を導入した。ハイパフォーマーを対象とした「FA制度」、“社内兼業”を可能にした「キャリアプラス」、異動により新しい経験を積みたい場合、上司と相談の上、登録できる「キャリア登録制度」だ。「いずれも“求人ありき”ではなく、個人の意思をベースに、本人が主体的に職場を異動しキャリア構築できる点が、社内募集制度とは大きく違う」と、人事センターEC人事部統括部長の大塚康氏は説明する。

ソニーはいわゆる一般職・総合職などの区別はせず、エレクトロニクスの各事業領域ごとに職種別での採用を実施している。また、2015年以降事業体ごとの分社化を実施しており、いったん配属されると、職種によっては他の部門を経験する機会は少なくなってしまう可能性がある。そこで人事センターはまず、縦割りの部門に横串を刺すことから始めた。役員・マネジメント層をトップに置く職種ごとのコミッティを作り、部門を越えて幅広い経験を積ませたい人材をどう異動させ、育成していけばいいかをコミッティのなかで判断し、実行できるようにした。「ソニーの場合、分社化により、テレビ、オーディオ、カメラといった商品ごとに独立して会社運営がされています。したがって、各部門にエンジニアや事務系など職種別の社員が在籍している場合が多い。例えば新たにビジネスを立ち上げる場合は、コミッティからそれぞれふさわしい人を推薦してもらうことと、社内募集などで人材を集めることを並行して行い、個人の意思と会社都合の両方を考慮しながら事業を立ち上げることが多いです」(大塚氏)

ハイパフォーマーを対象にプロ野球と同じFA制度を導入

2015年に導入した3つの制度も、部門の垣根を越えて人を動かしやすくするというねらいは同じ。会社都合の異動というよりも、あくまで個人の意思に基づき、本人の経験度合いやスキルを上げてもらうことを目的としている。ただし、制度の対象や中身はそれぞれ少しずつ違っている。

例えば「FA制度」。これは毎年1回、秋に実施しているもので、仕組みとしてはプロ野球と同じだ。異動してある一定期間を過ぎた、一定以上の評価の人材に対して会社がまずFA権を付与する。その後FA権を付与された社員は、自身のこの先のキャリアを熟慮し、新たな職場を経験したい場合は、付与されたFA権を「行使」する。FA権行使者の受け入れに興味のある職場マネジメントは、FA権行使者本人と面談をした上で、オファーが出せる仕組みだ。オファーを受けた社員は、現在の職場に残るか、FA権を行使するか、を決める。面談の期間は約1カ月間で、毎年、数十人がFA権を行使し、新たな職場に異動をしている。

人事センターでは当初、「具体的な求人がないのに、自分から手を挙げる人がどれだけいるだろうか」と心配していた。導入前の議論では、グレードなど処遇に関してより良い条件を提示した職場が勝ちではないかという懸念も出たが、実際に蓋を開けてみると、処遇よりも、長い目で見てその職場を経験した方が自分のキャリアにとってプラスになるという判断から、FA権を行使し、異動を選択する人の方が多かった。「いい人材を抜かれてしまう」と心配していた部門も、いざ導入してみると、「いい人材が採れる」という前向きの反応に変わったという。

社内募集制度は異動することが条件だが、なかには今の職場に籍を置いたまま、新しい仕事に挑戦したい人がいるかもしれない。そんな社員が手を挙げやすいのが「キャリアプラス」だ。ある部門が、他の部門にいるベテランの力を一時的に借りたい場合も好都合な制度だが、通常業務の2割から3割を兼業の仕事に充てることを想定しているため、応募は上司の許可を得る必要がある。

3つのなかで対象層の裾野が最も広い「キャリア登録制度」は、上司の許可は必要だが、異動で新しい経験を積んでみたい人なら、誰でも申し込める。社内の人材データベースに登録してもらい、全社のマネジメントで共有。キャリア構築に関する個人の希望を可視化すると同時に、マネジャー側が異動候補者のプールを見ることができる。

キャリア構築について上司と話しやすくなった

新制度の導入は、上司の側にも少なからぬ刺激を与えている。「FAに関しては、実際に異動をした人ばかりではなく、今の職場に残った人からもポジティブな意見をたくさんもらっています。上司とキャリアについて深い話をする機会がなかったけれども、これをきっかけに建設的な話ができるようになったなど。抜かれたくない人材に関しては、上司の側も個人の成長意欲などを把握し、アサインを考えるようになりました」と、人事センター人事1部4 課統括課長の堀田綾子氏は話す。3つの制度の利用者はそれぞれ年数十人程度。

新制度の導入前後でマネジメント層からの意見も聞いたが、「自分の職場から人を抜かれるリスクはあるが、ソニー全体としては必要な制度」という意見が大部分を占めた。「“自分のキャリアは自分で築く”というソニーで長く培われてきた風土、DNAの重要性をマネジメント層にしっかりと理解してもらえていることも、制度を維持していく上で大事なポイント」という。

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.49 特集1「適材適所 偶発をデザインする」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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