RMS Forum 2017 「働き方改革の舞台裏」日本電産株式会社 モーレツから残業ゼロへ大転換
トップが火をつけ、ボトムアップで改革を加速

かつてハードワークの代名詞だった日本電産が、「残業ゼロ」に向けて大きく舵を切りました。同社で本格的な「働き方改革」がスタートしたのは2015年下期。そこからわずか1年半弱で残業時間半減を実現しました。これもカリスマ性のある永守重信会長のトップダウン経営のなせる業なのでしょうか。同社の「働き方改革」の舞台裏を人事部長 兼 女性活躍推進室長の平田智子氏と、同室課長代理の大山直子氏に伺いました。


ハードワークの日本電産が、「働き方改革」へ舵を切る

日本電産は、今、「働き方改革」に大きく舵を切っています。永守会長は、朝礼や昼食会、社内報やメールなど、さまざまなコミュニケーションを通じて、当社が次の成長ステージに向かうためには「働き方改革」 が不可欠であると繰り返し伝えています。永守会長は「大事なことは相手が納得するまで1000回伝えるように」と常々言っていますが、まさにその言葉どおりです。
ハードワークをよしとしてきた当社がなぜ「働き方改革」を強力に推し進めているのか。現在、日本電産グループの売上は1兆円を超えています。「1兆円までは時間を投資し、ハードワークする」という考えで会社を成長させてきましたが、次の目標である2030年グループ売上10兆円に向かうにあたり、「世界で戦って勝つ10兆円企業」にふさわしい働き方を目指しているのです。時間をかけて何かを作るというやり方を続けていたら競争に勝てないでしょう。生産性を高め、決められた時間内で最大の貢献をする。そのための「働き方改革」なのです。

海外M&Aのなかで見つけた
新しい働き方のヒント

当社は海外M&Aを積極的に行ってきました。グループ入りした欧州企業では、社員は残業をしない前提で働いていますし、国によっては1カ月程度の長期休暇を取るのが当たり前。それでも結果を出しています。欧州の取引先の企業も同様です。こうした働き方を目の当たりにしたことが、当社の「働き方改革」の大きなきっかけになりました。
具体的な取り組みの起点は2015年下期。最初は「生産性を上げて、残業を半分に減らそう」という声掛けから始めました。各部署で生産性の上がる方法、残業を減らす方法を考えて、実践していくやり方です。はじめは、「本当に残業を減らしても大丈夫?」と疑っていた社員もいたようです。

開始から1年弱で残業時間を半減

残業削減に向けた取り組みがスタートしてから1年弱で、平均残業時間は以前の約半分にあたる月14時間になりました。今は「残業ゼロ」が目標です。生産性が上がれば、何も残業をゼロにしなくてもと思われるかもしれませんが、ゼロを目指さない限り減っていかないと私たちは考えています。

「残業ゼロ」は、捉え方によっては従来の働き方を否定することになるため、残業が減ることに対して社員のネガティブな反応がなかったわけではありません。残業ができなくなり、収入が下がることを心配する社員もいました。
たしかに、残業を減らすことで、短期的には収入に変化が生じるかもしれません。しかし、生産性が大幅に向上し、それに比例して業績が上がれば、もちろん収入にも還元されます。また、仕事以外に使える時間を、自分のために投資すれば、知識や能力が上がり、貢献度も評価も上がるはずです。
そのため、削減された残業代の半分は賞与で還元し、もう半分は語学研修など教育投資へと回しています。生産性を高めたことによる利益は、短期的な還元だけでなく、中長期的な成長への投資に回していくことで組織を強くしていきたいという考えです。

生産性を阻害している要因を200人に
ヒアリングし、「7つの分科会」を設置

生産性を2倍にするために新たな取り組みに着手すべく、2016年に、経営企画部と人事部が事務局となって「働き方改革委員会」を設立。生産性向上に向けた組織課題を特定していくことにしました。そこで私たちが行ったのは、現場ヒアリングです。「当社の生産性を阻害している要因について、あなたはどう考えていますか?」と、各部署の中堅社員200名にヒアリングを行いました。そうして抽出された課題別に「分科会」を設置することにしたのです。
「分科会」は7つあり、「マネジメント力向上分科会」「英語能力向上分科会」「システム・ IT分科会」という具合に、それぞれ得意分野を持った社員が集まり、まさに今、テーマに沿って生産性向上を目指しているところです。

たとえば、「マネジメント力向上分科会」では、部下の働き方を把握するマイクロマネジメントの実践を促しています。部下の置かれている状況を把握し、課題を解決していくことで現場のマネジメント力を高め、生産性を上げることが目標です。
「英語能力向上分科会」では英語力を向上させることで、英語でビジネスができる環境作りを目指しています。当社はグループ全体で10万人いますが、日本人はその1割。例えば技術部門でも海外の顧客とのやりとりが多く、日常的に英語が用いられています。英語力向上が生産性に与える影響はとても大きいのです。

「ボトムアップ」と「即実行」で働き方改革を推進

同社の働き方改革について、メディアを通じて知った方は、トップダウンで進めてきたように思われるかもしれません。しかし、前述のとおり、取り組みの主役は現場の社員たち。
当社の働き方改革は、トップがお題を出し、現場が「知的ハードワーク」で答えを出し、即実行していく、というスタイルと言えるかもしれません。「7つの分科会」もそうですが、最も象徴的なのは「女性活躍推進プロジェクト」です。

20数名の女性社員が集まった「女性活躍推進プロジェクト」では、日本電産で女性が活躍する環境を作るためには何が必要なのか、現場でのヒアリングや他社の事例調査を行いまとめました。そして、2016年の年末に永守会長に提言を行ったのです。永守会長は社員から上がってきたものに対して、基本的にはNOと言いません。女性活躍推進プロジェクトからの提言も「全部OK!」と。その言葉を受けてすぐに行動を開始しました。

生産性向上のためには、「在宅勤務制度」や「時差勤務制度」、「時間単位年次有給休暇制度」などの制度が必要であるという判断から、すぐに導入準備を開始。「在宅勤務制度」は提言をもとに、3カ月間のトライアルを行い、2017年の4月から正式に導入しました。「時間単位年次有給休暇制度」も、同じタイミングでスタートしています。さらに「時差勤務制度」に関しては、2017年4月から対象事由を、業務都合、育児・介護、自己啓発に拡充、取得形態を広げることで、より柔軟に利用できるようにしました。
こうした「ボトムアップ」「即実行」が、働き方改革がスピード感を持って着実に進んでいる理由です。当社に転職してきた社員は、「やると決まってからの変革スピードは、フットワークが良いといわれている会社の3倍の速さ」だと言います。

トップと現場との信頼関係が土台に

トップダウンとボトムアップの相乗効果を発揮できるのは、会社と社員の間に日頃から強い信頼関係があるから。例えば、会社として重要な号令が発せられるとき、永守会長が役員から一般社員すべてに向けて、テレビ会議中継なども駆使しながら、必ず自身の言葉で語ります。トップの本気が直に伝わる瞬間です。こうした本気を見せられると、「自分たちも本気でやらなければ」と、火がついてくる。

また、製造業では非常に珍しいと思うのですが、当社には労働組合がありません。その代わり「親睦会」という社員代表組織があります。親睦会では、会社をよくするための意見を持つ社員に対して、頻繁に意見を募っています。新しい人事制度をつくるときも、人事部が勝手に進めることはなく、必ず現場でヒアリングしてから着手しますし、現場社員の不満や要望は、経営陣や人事部がすべて受け止め、必ず回答しています。社員と向き合うことを最重視し、しっかりと応えてきたので労使交渉を行う組織が必要ないのです。

この関係性があるからこそ、トップの掲げる一筋縄ではいかないお題にも、現場は応えていけるのだと思います。

「脱皮できない蛇は死ぬ」
働き方改革に1000億円投資していく

当社は社員一人が目の前の仕事に時間を惜しまず投資し、ハードワークでグループ売上1兆円を実現させました。次は2030年の10兆円に向け、グローバル企業として新しい働き方を実現させます。

「脱皮できない蛇は死ぬ」と永守会長は働き方改革に挑む上での覚悟を語っています。その覚悟の表れのひとつが、働き方改革のための1000億円の投資です。現在進行形の働き方改革に向けた取り組みだけでなく、Alやロボットといった生産性を上げるためのツールの導入、社員一人ひとりの能力開発のための教育などに費やされます。

当社の働き方改革はまだ始まったばかり。「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」の精神で、なんとしても「生産性2倍」「残業ゼロ」を成し遂げ、2020年の売上2兆円、そして2030年のグループ売上10兆円を実現させたいと願っています。

※本稿は、弊社主催の人事フォーラム RMS Forum 2017内セッション「働き方改革の舞台裏」配布資料より抜粋・一部修正したものです
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

■企業概要
日本電産株式会社
1973年設立。社員4名、小さなプレハブ小屋で精密小型ACモーターの製造・販売を開始。世界各国にグループ会社・拠点を拡大しながら成長し、世界最大手の総合モーターメーカーへと飛躍。モーター関連領域の企業のM&Aに積極的であり、世界40数カ国で事業を展開。2014年度にグループ総売上1兆円突破。2030年の10兆円を目指し、世界と戦い勝つための「働き方改革」に取り組んでいる。

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