データドリブン人事で変革推進を リクルートホールディングス 人事の経営インパクトを最大化することが目的 データ活用はそのための武器

「人事データ分析」に関連するキーワードを目にすることが増えてきた。一方、どこから手をつけたらよいのか、人事として何ができるのか、そんな声を耳にすることもある。そこで、データドリブン人事を経営的に意味のあるレベルに高めていくにはどうしたらよいか、どうやって人事データ活用の機運・風土を社内で醸成していくのかなどについて、株式会社リクルートホールディングスIT人材統括室 IT人材開発部 部長 中村駿介氏、IT人材統括室 IT人材開発部 松田今日平氏にお話を伺った。


IT人材の大量採用と転職者からの「問い」がきっかけ

ビッグデータの活用が進むなか、人事領域に関してもデータを積極的に活用する「データドリブン」の重要性が指摘され始めている。その際、「最も重要なのが何のためにデータを活用するのかという課題設定であり、最終的に出したい経営インパクトを明確にすることだ」と、リクルートホールディングス(HD)IT人材開発部の部長、中村駿介氏は指摘する。

「目的が明確でないと、せっかく集めたデータを活用しきれず終わってしまいます。逆に、目的が明確であれば、ちょっとしたデータ分析からでも何らかの発見が得られるものです。リクルートHDの場合、まずは人事として経営に対して出さなければならない最終成果を『活躍しつつ会社にコミットしている社員の数を増やすこと』と定義し、その目的に基づき、人事の機能と活動をすべてつなぐことを目標に据えるところからスタートしました」

過去、リクルートHDで活躍する人材像は非常にシンプルだった。しかし近年、IT人材を多く採用するようになり、過去の経験則が通用しないことが増えてきたという。「そこでわれわれはまず『採用』の場面に着目し、履歴書や面接の際のやり取りなど必要なデータを集め、解析することから始めました」(中村氏)

データドリブンを推進する大きなきっかけは、コンサルティング会社で経営戦略策定支援などを手がけていた松田今日平氏が転職してきたことだったという。松田氏が証言する。

「私が転職してきたのは2015年8月ですが、それまで経験した企業に比べ、リクルートHDは意思決定の基準が属人的でした。採用に関しては特にその印象が強く、採用した人材が入社後、期待通りに活躍できているかどうかまでを含めた総合的な観点での戦略人事が実現できていないと感じました」

面接官Aと面接官Bで同じ学生を見た場合、採否の判断が異なれば、それは属人性が高く、信頼性が低いと判断できる。上司の中村氏に対して、彼は盛んに、「人事における経営インパクトの重要性」を指摘したという。

「問われていたのはつまり、人事組織の価値はいったい何なのか、どうやって経営の役に立っていくのか、ということでした。彼はそれを2つの軸で説明してくれました。1つは社員の成長スピードを最大化すること、もう1つが社員の組織に対するエンゲージメントを高めるということです。成長スピードが速くてエンゲージメントの高い社員は、クリエイティブな仕事をしてくれます。だとすれば、この2つをデジタルに測定できる状態へともっていくのが人事部の仕事だろう、と。デジタルなデータを活用することで、人事組織の経営インパクトを可視化することによって、よりよい意思決定ができるからです」(中村氏)

膨大なデータを収集し早期に分析して共有していった

リクルートグループは入社試験においてSPIを実施しているほか、面接に関しては縦軸に思考力、横軸にリクルートHD内で成果を出しやすいスタンスの強さを置き採点を行っている。入社してすぐの頃から、松田氏はデータドリブン人事の施行を視野に入れ、このような人事データの収集に取りかかっていた。新しい取り組みに対するグループ内各社の信頼を得る上では、中村氏をはじめ在職歴の長い社員のサポートを得た。

集めたのは新卒採用における学生の評価や面接官のコメント、音声データ、入社後の人事考課や評価などだ。デジタル化されていないものや不完全なデータであってもとりあえず収集し、それを分析・解析することで見えてきた課題を早期に分かりやすくアウトプットして、各社と共有していった。このことも信頼関係構築には有効だったという。

人事が正常に機能していなければ、データそのものの信頼性が乏しくなり、どんなに量を集めて解析しても、精度の低い結果しか出てこなくなってしまう。「データドリブン人事では、データの精度を高めておくことも重要です」と中村氏は指摘する。

「リクルートHDの場合、採用にあたる面接官のトレーニングも実施していますし、入社後に関しても累積パフォーマンスが色濃く反映される『ミッショングレード』と呼ぶ職務等級制度があり、誰がどれくらい活躍しているか、ある程度捕捉できる状態になっていました。そういう意味では、取り組みやすい条件が整っていたといえるかもしれません」(中村氏)

現在、データドリブン人事に関わるチームは8人。なかには松田氏のようなコンサルティング経験者もいれば、データ分析が得意なアナリスト、機械学習が得意なエンジニアもいる。データの収集と分析・解析、機械学習までは雇用された内部人材で行い、それをメソッド化して外部に広めていく作業はコンサルタントなど外部人材に任せている。このような多様なプロフェッショナルが協働していくためにも、「何のためにデータドリブン人事を進めていくのかというビジョンが必要だ」と松田氏は言う。

また、引き続きデータ収集と分析・解析作業を進めている最中だが、その過程で見えてきた意外な結果もあるという。

「SPIで見る能力は大きく言語(言葉や文章の意味・構成・要旨を的確に理解する力)・非言語(獲得した情報をもとに新しい情報や的確な判断を導き出す力や、グラフや表を正確に解釈する力)に分けられ、IT人材に関してはなんとなく、非言語能力が高い方が活躍するだろうと思われていました。ところが実際にデータを集めて解析した結果、むしろ、言語能力が高い人の方が入社後に活躍していたのです。また、こんなこともありました。われわれはインターンシップなど本選考以前に接触した上で採用した学生を『事前生』と呼び、当然、本選考の学生よりも期待値は高いわけですが、分析の結果、2つのグループの間で入社後の活躍に差は見られませんでした」(同上)

これらの結果は従来「当たり前だ」と考えていた施策を見直す1つのきっかけにはなるものの、具体的なアクションを起こすにはまだ不十分だと中村氏は考えている。

「例えば同じ事前生とくくられていても、接触したタイミングがいつなのか、誰がどのような場で何回会っているのかなど細かなデータを収集して分析にかけてみないと、事前に接触する意味があったのかなかったのかを判断することはできません。今は引き続きアウトプットの質を高める努力を続けています」

データドリブン人事には変革マインドも必要

現在のところ、データドリブン人事を導入しているのはIT部門の新卒採用にとどまるが、「今後はこれを中途採用や営業へも広めていきたい」と松田氏。また、「ゆくゆくは、採用だけでなく、成長スピードやエンゲージメントの向上に影響を与える育成やマネジメント強化へも拡大したい。そして、グループ外へも販売できるサービスへと発展させていきたい」と、中村氏は抱負を語る。

人事といえば従来は「守り」のイメージが強く、経営に対するインパクトが見えにくかった。これに対して、データドリブン人事を推進するためには事業へのインパクトを明確に定め、会社から投資を引き出しつつそれを大きくしていくことが求められる。「自分たちが変革推進のトップランナーになって社内での存在意義や価値貢献を高めたい、という思いをもっていることは、データドリブン人事の推進にとって大きな要素」(中村氏)という。データドリブン人事を経営的に意味のあるレベルへと高めていくには、人事が実現すべき経営へのインパクトを具体化し、人事そのものを革新していく精神も必要だ。

【text:曲沼美恵】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.47 特集2「人事データ活用」より抜粋・一部修正したものである。
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