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多様な雇用形態の人財を生かす オリエンタルランド

分かりやすい人財要件・行動基準 評価はシンプルに

  • 公開日:2017/05/29
  • 更新日:2024/03/11
分かりやすい人財要件・行動基準 評価はシンプルに

テーマパークといえば、優れたコンセプトと魅力的なハード、さらに、それを支えるソフトとしての人財力が競争優位の源泉となる。三拍子そろったトップ企業が、さらに人財力の強化に乗り出している。株式会社オリエンタルランド 人事本部 人事部 部長 横山政司氏にお話を伺った。

来園者への高い満足度の提供を経営目標に
人財力を強化するため 契約社員を正社員に転換
分かりやすい人財要件 評価項目が激減
役員・社員がアルバイトをもてなす年1回のサンクスデー

来園者への高い満足度の提供を経営目標に

開園30周年を迎えた2013年度、東京ディズニーリゾートが東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの2つのテーマパークを合わせて、年間来園者3000万人の大台を初めて突破した。業績も過去最高となる一方で、課題も浮かび上がった。混雑がピークに達する日が増加し、理想とする満足度を提供できない日が増えてしまったのだ。どんな混雑状況の日であっても、来園したお客様に「また来たい」と感じてもらい確実にリピートしてもらえるパークにしなければならない。そこで、2020年度までに3000万人レベルの来園者を高い満足度を伴って迎えることができる体制を作ること、が経営目標に掲げられた。目標に向け年間500億円レベルの投資を継続的に行うことも決まった。

人財力を強化するため 契約社員を正社員に転換

ソフトの根幹が人財力だ。真っ先に検討されたのが、パーク運営の時間帯責任者を担当する契約社員の雇用形態だった。オリエンタルランド人事部長の横山政司氏が話す。「もう一段高いパフォーマンスを求めるには安定して働ける環境を用意する必要があります。また、労働契約法が改正され、有期であっても、契約が通算5年を超えると無期を選択できることも決まりました。人件費はアップしますが、思い切って正社員化を決断しました」。昨年4月、制度が施行され、約800人が正社員となった。

既存の正社員約2200人向けの施策も着手した。「人財を確実に育成していくために、育成に必要なアクションを連動させ、1つのサイクルとして回せるようにしたい。そのためには人財要件の策定が必須でした」

経営トップのメッセージや経営計画のキーワードを参考に、まず人事部がたたき台を作った。部門長やマネジャーの感触を探った上で、役員を数グループに分けて議論してもらい、ようやく形になった。

分かりやすい人財要件 評価項目が激減

一般社員向けの「より良く・やり切る・一丸となって」と、管理職一歩手前のリーダー層から上の社員に向けた「掘り下げる・決め切る・引っ張る・育てる」の2つである。

例えば、同社の総合職は新人から部長まで、5つのグレードに分かれており、そのグレードごとに、「より良く」や「掘り下げる」といった各項目で要求されるレベルが定義されている。「とにかく記憶しやすい、分かりやすい言葉にすることを心がけました。おかげで、社内にはかなり浸透したと思います」

オリエンタルランドの人財要件・行動基準

この人財要件に従い、管理職は2015年4月から、一般社員の場合は同年10月から、新しい評価制度がスタートした。どんな内容なのか。

評価は、期初に立てた目標の達成度合いを測る目標評価と、そこに至るプロセスを評価する行動評価の2つで構成される。新しく定めた人財要件は、そのうち行動評価に深く関係する。期初に立てた行動目標について自己評価を行った後、上司からフィードバックを受け、評価が定まる。

しかも、ここで終わらず、一般社員であれば「より良く・やり切る・一丸となって」のそれぞれについて両者でその期の振り返りを行い、例えば、「次は『一丸となって』を重点的に頑張ろう」という次の期の目標設定まで行うような評価シートのフォーマットになっている。これで目標設定から評価、育成までが一本につながった。

このサイクルをリーダー・管理職は1年単位、一般社員は半年単位で繰り返す。

それ以前も目標評価と行動評価の2軸で見てきたが、行動評価はバランススコアカードの考え方に基づき、財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点といった見地から、20もの評価項目が定められていた。「それが一般社員で3つ、リーダー・管理職で4つになり、シンプルで分かりやすくなったと好評です」

役員・社員がアルバイトをもてなす年1回のサンクスデー

こうした正社員以外に、パークで働く「キャスト」と呼ばれるアルバイトの従業員がいる。その数、1万9000人にのぼる。

開園以来、キャストに対しては「4つの鍵=SCSE」と呼ばれる行動基準が徹底されている。Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show (ショー)、Efficiency(効率)を示し、お客様に最高のおもてなしを提供するための判断や行動の拠り所だ。その順序が優先順位も表している。

東日本大震災時、思わぬ落下物から頭部を守ってもらうため、キャストがお客様に売り物のぬいぐるみを無償で提供して話題になった。お客様のSafetyが確保されている証拠である。

キャストはこの「4つの鍵」に従って評価されるわけだが、「いわゆる評価制度というより、『SCSE』を実践しているキャストを認め、リコグニション(表彰)することで、それらをより一層浸透させる方法をとっている」という。

例えば、1991年にスタートした「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」。年1回、キャスト同士で、「SCSE」に沿った優れたホスピタリティを発揮した人を互いに認め合うプログラムだ。各職場に設置された集計ボックスに匿名で手書きのメッセージを入れる。メッセージの数や内容で高く評価されたキャストが受賞者となり、胸に着用しているネームタグにつけられるアワードピンが授与される。このプログラムはパークオペレーション部門以外の従業員にも適用され、ホスピタリティ文化を全社に根づかせると共に、一体感の醸成にも役立っているという。

同じく1991年より年1回、閉園後のパークの一部を使って、日頃の感謝の気持ちを伝えるために、役員や社員がキャストとなって、アルバイトのキャストをもてなす「サンクスデー」も始まった。「同じ施設で働いていると、一緒にパークを楽しむことはなかなかできませんが、この日は違います。オペレーションに不慣れな上司が一生懸命サービスしてくれる姿を見て大変喜んでいます」

良いサービスを行ったキャストに、その行いを褒め称えるメッセージを記したカードをその場で渡す「ファイブスター・プログラム」もある。こちらは1995年スタートだ。カードを受け取ったキャストは記念品がもらえるほか、年4回ほど実施される特別パーティに招待される。

こうした表彰は、人事評価や昇格、報酬に連動していない。

横山氏は述べる。「世の中はどんどん便利で快適な方向に変わってきています。そういう環境で育ってきた今の若い人たちは、目の前の人が何に困っているかを察知する能力がどうしても低くならざるを得ません。そういう人たちを優れたサービスができる人財にどうやって育成していくか。大きな課題です」

だからこそ、正当な評価を行い、いい仕事をきちんと認め、称賛する行為がますます重要になるのだろう。

【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.45 特集1「心理学からみる人事評価」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属・役職等は取材時点のものとなります。

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