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企業事例

多様な個人を生かす人事評価の工夫 サイバーエージェント

上司と部下の対話を増やし「主役感」をもたせる

  • 公開日:2017/05/22
  • 更新日:2024/03/11
上司と部下の対話を増やし「主役感」をもたせる

若手が活躍できる環境を作り、急成長を遂げているサイバーエージェント。年俸制を導入する一方で、そのミッションステートメントには「能力の高さより一緒に働きたい人を集める」などの文言も掲げている。実際、どのような評価制度と仕組みで社員のやる気を引き出しているのだろう。同社 取締役 人事統括 曽山哲人氏にお話を伺った。

部署ごとの目標を1カ月かけて話し合う
評価をしても結果を個人には伝えない
若手も「あした会議」で意思決定に参加できる
エンジニアに対し積極的に声を拾いに行く

部署ごとの目標を1カ月かけて話し合う

「人事に関して私たちが重要視しているのは採用、育成、活性化、適材適所、企業文化の5つ。誤解されがちですが、実はサイバーエージェントに入社してくる人材の7、8割は『素直でいいやつ』です。社内では『Look at me人材』という表現を使いますが、『オレが、オレが』というタイプはむしろ少数派です」と、サイバーエージェント取締役で人事統括の曽山哲人氏は言う。

一方で若手が次々と活躍し、約80社ある子会社の半数以上は20代が社長を務めている現実もある。ふつうの社員をここまでやる気にさせる仕組みには、どんなものがあるのだろうか。

「評価制度としてはまず、年俸制を基本にしています。上司との話し合いに基づき全社員が目標を掲げ、それを達成できたか否かをベースに半期に1度、評価を受けます。人事としては評価のフォーマットを渡してはいますが、使うか使わないかはマネジャーの自由です」

当然のことながら、企業には部署ごとに達成すべき数値目標もある。サイバーエージェントがユニークなのは、この部署ごとの達成目標を、個人の達成目標に落とし込んで腹落ちさせるための対話を徹底していることだ。

「重要なのは、当事者意識を高めることだと思っています。そのために、私たちは半期ごとに設定される部署ごとの目標も皆で話し合いながら決めていく。例えば人事の場合ですと、来期はこれくらい採用したいという大まかな目標がまずあります。次に採用チーム5人でそれをどうすれば達成できるかの話し合いをし、その話し合いに基づいて個々人の役割や目標も決めていきます」

部署ごとの目標を議論する期間は約1カ月。結果は工夫を凝らしたポスターやパンフレット、スローガンにまとめ、コンテストで表彰。最優秀賞には100万円の賞金も出す。

「役員同士も3カ月に1度は合宿をして、今後の目標などを話し合っています。部署ごとの濃淡はありますが、目標を達成するためにできるだけ多くの社員を巻き込みながらやっていこうという企業風土は以前からありました」

評価をしても結果を個人には伝えない

サイバーエージェントでは半期ごとに全社員の人事評価をしても、その結果を個人には伝えない方針をとっている。

「いわゆるSランク、Aランクなどの評価はつけていますが、それを本人に伝えてもモチベーションは上がらない。重要なのは上司と本人との間で必要な対話がきちんとなされていること。今期はどこが悪くて、何が良かったのかを率直に話し合えれば、評価の結果は伝えなくてもいいと思います」

代わりに曽山氏が奨励しているのは、部下と1対1で対話する「月イチ面談」だ。優秀な上司の行動特徴を分析したところ、違いは「対話の量」にあることが分かったためだという。ランチタイムを利用するなど時間は短くてもよく、あくまで奨励であって強制はしていない。

「強制すると嫌々面談することになり、形骸化してしまう。先の評価フォーマットに関しても同じことが言えますが、重要なのはそこにデータを書き込むことではなく、上司と部下が将来の夢などについて本音で語り合える信頼関係ができているかどうか、の方にある。それさえできていればフォーマットを書いて提出する必要もなければ、面談する必要もないわけです」

「月イチ面談」を奨励するようになってから、上司・部下の間に生じる評価のギャップが減り、「びっくり退職」と呼ぶ突然の離職も減ったという。

若手も「あした会議」で意思決定に参加できる

事業ドメイン柄、若手に関しては抜擢人事も多用している。優秀な人材は入社3年でマネジャーに登用し、20代でも子会社を立ち上げさせ、社長に就任させる。実際、先述のとおり、子会社の半数以上は、20代の社長が擁する。早いうちからこのように差をつけてしまうと、抜擢されなかった側の不満が鬱積するのではという見方もあるが、曽山氏はそのような考え方を否定する。

「全社的なモチベーションを上げていくには、『優秀層を引き上げる』ことと『全社員に対して聞く耳をもつ』の2つを両輪で回していくことが重要だと考えています。抜擢しない場合に何が起こるかといえば、優秀人材が辞めていく。すると、それにつられて2番目に優秀な層も次々と辞めてしまう。抜擢した上で、他の社員とも『自分も頑張ればああなれる』と思えるよう対話を続けることが大事だと思います」

マネジャーにはなりたくないが、専門分野で活躍したい社員もいる。重要なのは「無理にポジションで引っ張ろうとしないことだ」とも言う。むしろ、個々人がどれだけ成長実感と貢献実感をもてるか、を重要視している。

1泊2日の合宿形式で行う「あした会議」も、そうした仕組みの1つだ。これは役員が自分の担当とは違う分野で会社の明日につながる意思決定を提案し、優劣を競い合うコンテストだが、その際、役員は担当外の部署にいる人材を発掘し、集め、4人のチームを作って提案しなくてはならない。スカウトされたメンバーは役員と共にコンテストの約1カ月前から週に1度のペースで議論を重ね、プレゼンする内容を詰めていく。入社1年目でメンバーに選ばれることもあるという。

「審査するのは藤田晋社長。毎回、20~30の案がその場で決議されます。『あした会議』に参加するのは社員にとって1つの大きな目標にもなっていますし、経営の意思決定に関与できれば『主役感』も高まるでしょう。藤田によって点数が付けられ、役員の順位づけもされますので、われわれ役員にとっては大きなプレッシャーにもなります」

エンジニアに対し積極的に声を拾いに行く

適材適所を実現するため、サイバーエージェントでは「キャリアエージェント」と呼ばれる社内ヘッドハンターも動いている。このキャリアエージェントが仲介し、異動の機会を得ることも多いのがエンジニアだという。

「全社員に毎月『GEPPO』というオンラインアンケート調査を実施し、その時々のコンディションなどを把握しています。エンジニアは自分の要望や主張を伝えることに奥手な人が多いですから、彼らに対してはこちらから積極的に『声を拾う』ことを意識しています」

2016年9月から始めたエンジニア向け人事制度『ENERGY』では2年に1回、「あなたは今、異動したいですか?」という質問を投げかけ、希望すれば「FA権」を獲得できるようにした。「実際に異動したのはまだ1件だけですが、『異動先があると分かっただけで自分のキャリアに関する不安を取り除けて安心しました』という声も聞けました」

今後の課題は年長者のモチベーションをどう維持していくかだが、これに関しても、「やはりできるだけ対話の機会を増やし、将来のキャリア構築に対する不安を取り除いていくことが重要だ」と同じ方針で臨んでいる。

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.45 特集1「心理学からみる人事評価」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属・役職等は取材時点のものとなります。

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