企業事例
寮生活とSVを通した新人と店長の育成 ガリバーインターナショナル
店長がスタッフの憧れの存在になればスタッフは店長を目指すようになる
- 公開日:2016/08/22
- 更新日:2024/03/06
小売業の大きな問題が、「離職率の高さ」だ。数年で多くの人材が辞めてしまっては、店長やマネジャーも人材育成のしようがない。その点、意外な方法で離職率を大幅に下げたのが、ガリバーインターナショナルだ。複数店舗を統括する、株式会社ガリバーインターナショナル リアル第四営業部 マネージャーの鳥海健太郎氏に伺った。
- 目次
- フラットな組織階層
- メンバーと一緒に動き 見本となれる店長を育てる
- 2年間の「寺子屋寮」生活で寮長店長が学ぶことも多い
- 憧れの店長が店長を目指す社員を増やす
- チャレンジしないことが一番良くないと考える社風
フラットな組織階層
ガリバーインターナショナル(以下、ガリバー)は、買取と小売の両方を行う緑の看板の「Gulliver」を全国に236店舗展開するほか、買取専門の出張査定センターを持ち、さらに低価格車専門の「OUTLET」、軽自動車専門の「ミニクル」、外車専門の「LIBERALA」など、さまざまなブランドの展示販売店舗を作っている。現在は、2018年の全国400店を目指し、展示販売店舗の店舗数を増やしているところだ。
組織階層は、ブランドによって多少違うものの、どの組織もフラットだ。例えば、2016年4月現在、緑の看板の「Gulliver」では1店舗に平均5名のスタッフ(スマートカーライフプランナー)と店長がおり、その上に40店舗ほどを統括するマネージャーが6名いて、その上は社長というシンプルな構造になっている。ただ、1人のマネージャーに対して、3名の「SV」がついているのが特徴的だ(図表1)。
メンバーと一緒に動き 見本となれる店長を育てる
マネージャーの1人、鳥海健太郎氏によれば、鳥海氏も、スタッフ全員と「1年後の約束」をするなどして、一人ひとりとコミュニケーションをとっているが、やはり現場を直接マネジメントしているのは店長だという。そこで現在急務となっているのが、スタッフと店
長の育成だ。
「店舗を急速に増やしている影響で、入社2年目の店長が出るほど、昇格が早まっています。当然、ポイントとなるのは人材育成。特に難しいのが、異動が多く、1人の店長が長く見られないなかで、多くのスタッフに販売力を身につけてもらうことです。その課題を解決していくのがSV職。弊社では3名のSVがチームを組み、40店舗ほどを見ています。そのうちの1名が“販売コーチ担当”で、ヒアリングのコツや提案の仕方を、日々スタッフに教え続けているのです。
販売コーチ担当のSVは、スタッフだけでなく、店長の育成にも携わっています。ガリバーの店長に求められるのは、目標達成を目指してスタッフと一緒に動き、見本となる行動を通して“背中を見せる”こと。それによってスタッフのモチベーションを高め、引っ張っていくのです。こうした力を磨く指導も、SVが行っています」
2年間の「寺子屋寮」生活で寮長店長が学ぶことも多い
もう1つ、ガリバーの社員育成に大きな影響を及ぼしているのが、「寺子屋寮」制度だ。鳥海氏は、その制度の生みの親の1人である。「寺子屋寮制度は、もともと2009年に、店長以外のスタッフ全員が新卒社員という“寺子屋店舗”を創る試みとしてスタートしました。その際、同時に新人全員が寮生活を行ったのです。寺子屋店舗は2014年で終了しましたが、寺子屋寮制度は現在も続いているのです」
寺子屋寮制度のもと、ガリバーでは新人全員が2年間、寮で暮らす。365日、寝食を共にするのだ。寮長はそのエリアにある店舗の店長か、入社3年目以上の先輩社員が住み込みで務める。ドミトリータイプとマンションタイプがあるが、どちらも掃除は当番制で、寮則は寮長のもと、各寮で決めていく(図表2)。
施策の目的は大きく5つある。1つは新人育成だ。「毎週月曜の夜に寮会があります。そこで教えるのは、ガリバーの価値観や、社会人一般の価値観・マナーといったもの。内容は寮ごとに違いますが、例えば、皆でお酒のつぎ方を学んだりしています」
2つ目は、一体感の醸成である。以前、自身も寮長を務めていた鳥海氏は、寮生活では、毎日のように勉強会が自然発生すると語る。「仕事が終わると、皆が少しずつ寮長部屋に集まってくるのです。そして、悩み相談が始まる。寮長が直接何かを教えることもありますが、1年目が何人かで勉強会を始めたり、2年目が1年目にアドバイスするなど、彼ら同士の学び合い、励まし合いが日常的に起きるのです」。こうして2年を共に過ごした社員たちは、当然、とても仲良くなる。「入社前は寮を嫌がる新人が一定数いますが、最後には、寮を出たくないと言う者が何人も出てきます。同期同士の結束は、以前より確実に高まりました」
3つ目に、こうした経験を経て、新人だけでなく、寮長店長もまた寮生活で大きく成長することが珍しくないという。「新人たちの悩みをどう解決すればよいか。行き詰まっている若者に何と声をかければよいか。寮長店長は、他の店舗にいる新人のことまで、必死になって考えるのです。そのなかで、管理職として飛躍していく社員を数多く見てきました」(鳥海氏)
憧れの店長が店長を目指す社員を増やす
SV制度も寺子屋寮制度も、メンバー育成だけでなく、店長育成にもフォーカスを合わせているのが大きな特徴だ。鳥海氏は、実は店長育成が、店長になりたい若手社員を増やす効果をあげていると語る。これが寺子屋寮制度を行う4つ目の理由だ。
「店長がスタッフの憧れの存在になれば、多くのスタッフが店長を目指すようになるのです。SVや寺子屋寮のおかげで、スタッフに憧れられる店長は増えており、それに合わせて店長になりたい新人も増えています。現在は、新人のほとんどが店長を目指しているのではないでしょうか。
私自身がそうですが、店長やマネージャーは、部下が一生懸命動き、成果を出して活躍し、昇格していく姿を見るのが嬉しいもの。自分が力をつければ、活躍する部下も増えます。店長育成は、もちろんスタッフや組織にとって欠かせないものですが、自身の力を磨くという意味でも、後進を増やすという意味でも、特に店長本人にとって必須の施策だと考えています」
最後の理由として、SVや寺子屋寮制度は、結果的に「離職率の低下」に大きく貢献しているという。「以前は、新人研修の後、配属でバラバラになってから離職する新人が多かったのです。その点、寺子屋店舗や寺子屋寮は新人社員の一体感を高めることで、離職率を大きく下げる効果がありました。さらに、3名のSVのなかに“悩み相談担当”がおり、スタッフや店長の悩みを日々聞いています。彼らの存在も効果があって、離職率は確実に下がっています」
チャレンジしないことが一番良くないと考える社風
ところで、なぜガリバーはこうした大胆な施策を次々に打ち出しているのだろうか。鳥海氏によれば、社長の存在が大きいようだ。「もともと枠にとらわれない自由な会社で、チャレンジしないことが一番良くないと考える社風。寺子屋店舗も寺子屋寮も、役員はノリノリで認めてくれました。普段の仕事でも、チャレンジがやりがいにつながるという哲学があります」
他にも、例えば最近は女性社員の活躍が目覚ましく、女性店長が増えてきていることから、「女子会」の場も積極的に用意しているという。今後、ガリバーがどのようなチャレンジを行っていくのか、楽しみである。
【text:米川青馬】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.42 特集1「伝えたい マネジャーの醍醐味」より抜粋・一部修正したものです。
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