社員の自律と自由に任せる 星野リゾートの目標は「顧客満足度と利益の両立」

軽井沢の老舗温泉旅館から、日本各地で多様なリゾート施設を運営するユニーク企業に変貌した星野リゾート。その裏にあるのが、星野佳路代表が推進する「常識破り」の経営手法だ。しかし同社の急成長を見ると、その「常識」の方が間違っていたのかもしれない。
「大企業病にならない 組織における自律と規律」について、グループ人事 ユニットディレクターの小金井成子氏にお話を伺った。


3階層のフラットな組織

フラットな組織構造で知られる星野リゾート。34のリゾート・旅館施設の運営を行う、正社員だけで約2000名の中堅企業となっているが、各施設の総支配人、その下にあるユニットと称した機能別部門の長であるユニットディレクター(UD)、それにプレイヤーの3階層しかない。

グループ人事ユニットディレクターの小金井成子氏いわく、組織だけではなく、フラットな組織「行動」も大切にしている。「本社という概念がなく、その機能を果たす東京オフィスのことも本社とは呼びません。席もフリーアドレスで、偉い役職の人の椅子だけ肘掛けがあるということもない。年齢や地位が上であるというだけで、上から物を言う態度はかっこ悪い。そういう文化がありますね。お互いに呼び合うときも『さん』づけです。代表の星野(佳路)もふらっと自転車でやって来ては、皆と同じ机に座って仕事をしています」

誰にでもチャンスがある! ディレクターは立候補制

フラットな組織を象徴しているのが、星野氏による毎年恒例の「全国行脚」だ。毎年11月末から3月末までの間に各施設を訪れ、次の期の戦略を社員に直接話すのだ。その日は各施設を休みにし、夜はスタッフを労う宴(うたげ)が開かれる。トップによる直接対話はともかく、ここまで徹底する企業は少ない。

ユニークな人事ルールもある。UDの立候補制という仕組みだ。年2回、春と秋に、UDになりたいというメンバーが手を挙げ、テレビ会議を通じたプレゼンを行う。自分がリーダーになったらこういうユニットにする、という戦略を発表するのだ。ユニットの数は120ほどあり、その規模は10人未満から60人ほどまでさまざまだ。小規模な施設では総支配人=UDとなり、大規模施設の場合は総支配人の下に、宿泊担当、ブライダル担当、レストラン担当などの複数のUDがつく。他に人事や経理といった管理部門のUDもいる。

年間で100名くらいが手を挙げ、プレゼンを行う。それを見ていた社員からのアンケートや、日頃の働きぶり、人事UDやそのユニットを管轄する総支配人の意見をまとめ、UDを変えるかどうかを含めて判断し、次期UDを決定している。

立候補者の8割が、自分の所属するユニットのUDを希望しているが、新規事業の立ち上げなどを提案するメンバーもいる。給料などの待遇はUDとメンバーでは異なるが、「UDの交替は昇格、降格という概念ではなく、役割の変更ととられています。立候補するメンバーが多いUDは後進の育成ができているという理由で評価もされます。しかも、立候補者はその2カ月ほど前にそのことをUDに告げ、UDはその当人に対し、プレゼンに必要な情報提供やアドバイスを行うという役割があります。そして、UDを降りた人は『充電期間』に入ります。UDを経験することで何が自分の強みなのか、課題なのかを認識し、力を蓄えて再びチャレンジして返り咲くケースも多々あります」。

フロントから調理まで 社員は1人4役を目指す

ここまで読むと、星野リゾートは社員の自律を尊び、組織維持のための余計なルールがない、自由闊達な組織だと思われるだろう。だが、一方で、同社には大変強固な規律もある。それが、「顧客満足度と利益の両立」だ。すべての戦略はその達成を目標にしている。

顧客満足度は、宿泊客や施設の利用者によるWEBアンケートで測られる。プラス3からマイナス3まであり、目標は2.5以上だ。利益は、宿泊施設の業務粗利益を意味するGOP(Gross Operating Profit)を見る。

もう1つ、その向上を心がけている「サービスチーム化指標」という数値がある。通常の宿泊施設では、フロント部門、レストラン部門のように、業務が縦割りになっており、一組の宿泊客にそれぞれ担当者がつくが、星野リゾートでは違う。1人のスタッフが複数の業務を担い、お客様との接点を増やすことで、顧客満足度と利益を両立させる働き方をしている。

「フロント、客室、レストランサービス、調理(補助業務)、この4業務を全員がこなせるようにしています。われわれはこの業界で勝ち続けたい。業界で当たり前と思われることを鵜のみにしていては、競争力は身につきません。調理(補助業務)は誰にでもできるはずだ、という考えは、自動車メーカーの工場をベンチマークして浮かんだものです。こうした多能工化の度合いを測る物差しとして、それぞれのスキルの習得度と実践度を細かく数値化しているのです」

この数値が上昇すると、どんなメリットがあるのか。「お客様に接する時間が増えると、情報も増えますので、滞在中のイベントなど、お客様を喜ばせる魅力的な提案を考えつく確率が高まります。また、社員の生産性も高まります。例えば、フロント業務のスキルしかもっていない社員は、チェックインとチェックアウトのときのみ多忙で、それ以外の時間が暇になってしまいますが、4つのスキルを備えていれば、連続して仕事ができるのです」

正しい価値観が「上司」になれば大企業病は発症しない

自律や自由と、規律や指標と。その根底にあるのが、価値観だという。「価値観が自分たちの上司だと思っています。具体的にはいくつかあるのですが、例えば星野旅館に逗留した内村鑑三が、先々代の星野に贈った10カ条の『成功の秘訣』があります」

そこには、「自己に頼るべし、他人に頼るべからず」「本を固うすべし。然らば事業は自づから発展すべし」「雇人は兄弟と思ふべし。客人は家族として扱ふべし」といった言葉が並んでいる。「さまざまな規律やルールを外から押し付けるのではなく、進んで従おうと思う内発的ルールにすることが重要だと思います。それができれば、規律と自律は同じものになります」

同社では他の会社が運営しているホテルを引き継ぎ、再生する業務も多い。その場合、意味のないルールの多さに驚くことがあるという。「大卒はフロントのみ、料理専門学校を卒業した人材だけがレストラン部門に配属されるという具合です。お客様に満足していただき、利益を残すことのみが大切なんだと考えれば、そんなルールは意味がないと気づくはずでしょう。根拠のない思い込みや変なプライドは捨て去るべきです」

結局、大企業病がはびこるのは、社内事情に視界が閉じ、顧客に真剣に応対できなくなるからだろう。

【text:荻野 進介】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.41特集1「大企業病にならない組織における自律と規律」より抜粋・一部修正したものである。

【企業概要】
■開業年:1914年 ■正社員数:約2000名
1987年のリゾート法改定に伴い、企業ビジョンを「リゾート運営の達人」と定義。顧客満足を重視しつつ、十分な利益を確保できる運営の仕組みづくりへ転換。以降、旅館の運営・再生事業などを創造。2014年に開業100年を迎えた。今後は海外へ進出、日本発のホスピタリティサービスの確立を目指す。

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