人事という立場から事業創造にも深く関与する 「ソフトバンクイノベンチャー」を通じて次世代経営者と事業を同時に育成

2040年までに5000人の社長を育成するのを目標に、新規事業提案制度を設け、起業家マインドあふれる風土づくりに取り組むソフトバンクグループ。
具体的にどのような考え方と仕組みでそれを実現しようとしているのだろうか。
ソフトバンクの常務執行役員で、人事総務統括の青野史寛氏に聞いた。


提案者が主体となって事業を推進していく仕組みを

ソフトバンクグループが新規事業提案制度を導入したのは2011年。きっかけは、その前年に策定した『新30年ビジョン』だった。ソフトバンクの常務執行役員で、人事総務を統括している青野氏が語る。

「ビジョンには、2040年の時点で『時価総額200兆円』と『戦略的シナジーグループ5000社』という数値目標も含まれていました。人事最大のミッションは次世代経営者の育成です。ここに関与しなければ、戦略人事とはいえません。グループ5000社を目指すとは、言い換えれば5000人の社長を育てるということ。そのためには、実際に事業をやらせてみるのが一番です。われわれが人事という立場から事業創造にも深く関与しなければならないと考える理由も、そこにありました」

ビジョン実現のために欠かせない仕組みが、2011年にスタートした新規事業提案制度「ソフトバンクイノベンチャー」だ。イノベンチャーとは、「イノベーション」と「ベンチャー」を組み合わせた造語である。ラインで行う通常の新規事業提案と違う点は、「圧倒的な当事者意識を求めていること」だという。

「通常の新規事業提案では、言い出した人間が必ずしもその事業の責任者になるとは限りません。しかし、ソフトバンクイノベンチャーの場合は、提案者が主体となって事業を推進していく」

「情報革命で人々を幸せに」という経営理念に合致していれば、どんなテーマを選んでもいい。グループ各社の従業員ならば、誰でも応募資格があり、何度でも挑戦可能。個人はもちろんのこと、グループ単位での応募も受け付けている。創業者の孫正義氏に象徴されるように、ソフトバンクグループはもともと起業家精神旺盛な社風であり、それにひかれて入社する社員も多い。そのため、初年度から1000件を超える応募が集まるなど、イベントそのものは盛況だった。だが、実際にアイディアを具現化していく段階では、既存組織の壁にもぶつかった。

「将来につながる魅力的な案件もいくつか上がってきましたが、組織のなかで揉むうちに、どんどんと角がとれてしまう。既存事業と同じ基準で検討すると、どうしてもリスクが高く、リターンが少なすぎるということで、なかなか思うようにインキュベーションしていかないという問題点も見えてきました」

このままでは人も事業も育たないと懸念した青野氏は、ソフトバンクイノベンチャーを通じた新規事業への投資・育成・管理を一括で手がける新会社の設立を提案。2012年8月、SBイノベンチャーが設立されると、その代表取締役に就任した。



買収案件と同じように「ヒト・モノ・カネ」を審査

SBイノベンチャーが事務局となって運営しているソフトバンクイノベンチャーの仕組みは、現在、以下のようになっている。応募者はまず、A4用紙最大6枚に事業提案書をまとめる。審査は大きく書類審査、二次審査、最終審査の3段階に分けて行う。

「事務局で書類を審査し、ある程度まで数を絞ります。二次審査を担当するのは、SBイノベンチャー推進部と関連する専門部署の担当者。どうしてもIT絡みが多くなりますから、その場合は技術に詳しい人間にも審査に入ってもらいます」

二次審査では、実際にそうした面々の前でプレゼンしてもらう。与えられた時間はわずか5分間だ。短いと感じられるかもしれないが、ソフトバンクグループでは、役員会も含めてあらゆるプレゼンを5分以内に終えることを社員に課している。短時間でどれだけ中身の濃いプレゼンをし、聞く人の心をつかめるか、を見極めるのだ。

「審査基準として考慮すべき要素は大きく提案者の人となり、事業の目的、資金計画の3点です。人事畑の人間はどうしても人に注目したくなりますし、経営企画は事業の内容、財務なら資金計画に目がいく。それらをバランス良く評価した上で、最終審査に進める案件を絞ります」

最終審査には、グループの社長や役員なども出席する。

最終審査をパスすると「事業化検討案件」として認められ、500万円の予算がつく。多くの場合、まずは試作版を作り、ユーザーに使ってもらいながらその将来性を見極めていく。案件の大きさにもよるが、見極める期間はおよそ3〜6カ月間だ。

期間内に事業化困難と判断された場合、提案者は元の職場に戻るなどするが、それで評価が下がることはない。毎年、最終審査を通って事業化検討案件となるのは約10件。そのうち、パイロット期間をクリアした一部が実際に事業化されている。

自分で投資することで真剣味が増す

こうした新規事業提案制度は初年度の応募数が最も多く、次第に減っていくのが常である。しかし、ソフトバンクイノベンチャーの場合、毎年、1000件以上の応募数を保っている。変わったのは人数だ。当初は個人での応募がほとんどだったが、年を追うごとにグループ単位での応募が増えているため、参加人数はむしろ多くなっている。

スタートの時期は、本業との兼業も余儀なくされる。苦しい時期を乗り越えられるかどうかは、「誰のためにやっているのかという精神的なよりどころがあるかないかも大きい」と、青野氏は指摘する。

パイロット期間をクリアし、いざ新会社を立ち上げるとなった場合、提案者自身が出資することもできる。投資とリターンの関係をシビアな目で見直さざるを得ず、いやが上にも本人の真剣度は増していく。

新規事業提案制度は短期的な収益には結びつきにくいが、「確実に風土を変えていく効果はある」と青野氏は見る。どんなに勢いのあるベンチャー企業も、規模が大きくなるにつれ、挑戦心が失われてしまうことがある。規模を追いながら起業家精神あふれる風土を維持するためにも、こうした制度が果たす役割は大きい。加えて、人事は1人当たり10億円投資する覚悟で人を採用すべきとも言う。「1000人採用すれば、1兆円の投資をしたことと同じなのだから、そのリターンに責任をもつ意味で事業創造に人事もコミットするのは当たり前の考え方だ」と青野氏は言う。

ソフトバンクグループでは、これまで年に一度の開催だったソフトバンクイノベンチャーを今年から年に2回と、回数を増やして実施している。

【text:曲沼 美恵】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.40特集1「新しい価値を生み出す人・組織づくり」より抜粋・一部修正したものである。

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