イノベーションを推進する専任組織をもつ野村證券 人事・人材開発はイノベーションのハブになれ

イノベーションを推進する専任組織をもつ企業は少ない。いわば各組織、各社員の自主性に委ねられているのだ。そうしたなか、人事・人材開発が積極的にその任に当たっている企業がある。野村證券だ。といっても、そういう動きにシフトしたのはつい最近だ。そのキーマンである人材開発部長、百枝信二氏に話を聞いた。


『野村の殻』を破らせる

9月某日の夕刻、野村證券の高輪研修センターは熱気に包まれていた。30歳前後の社会人約200名が集まり、自分たちが望む理想の組織のあり方を対話するイベントが開催されていたのだ。名付けて「クロスボーダー未来共創カフェ」。

参加したのは同社の社員ばかりではない。同イベントは3日に分けて計3回行われ、388名の野村の若手リーダーに対して、業種や業界を異にする26社262名の他社の若手リーダーが集まり、活発な対話を繰り広げた。

主宰した百枝氏が話す。「野村は個性が強い会社なので、入社して5年も経てばそのカルチャーにどっぷり浸かり、野村流でしか物事を考えられなくなってしまうリスクもある。このイベントには他社の若手リーダー層との交流を図ることで、彼らが身にまとった『野村の殻』を破らせるという目的がありました」

一般的に、人材開発部が業務と直接関係がない内外融合型のイベントを開くのは異例といえるが、野村に限ってはそうではない。通常は接点のない者同士を出会わせ、対話を行わせる「共創」型研修をいくつも実施しているのだ。

野村では前代未聞 部門横断の部店長研修

百枝氏は入社以来、ずっと営業畑を歩いてきたが、2013年4月、人材開発部長に就任する。

2012年に野村證券の社長に就任した永井浩二氏は「すべてはお客様のために」というメッセージを発し、部門間の意思疎通に支障が生じ、大企業病に陥っていた現状を変えようとしていたのだ。

百枝氏が明かす。「そのとき私は営業店の支店長でしたが、私自身、その言葉にはっとしました。お客様のためにという想いで仕事をしてきたのは確かですが、真にお客様の立場に立って考えていただろうか、と。投資のための資金はどういう性格のお金なのか、退職金なのか、親からの相続金なのか。また、投資の目的は何なのか。儲けたいのか、孫の学資か。旅行資金か。そういう事情をどれだけ考慮できたか。組織の都合、会社の都合で、お客様に応対してはいなかったか、と」

永井社長は「すべてはお客様のために」を徹底させるため、こう呼びかけた。部門の壁を壊し、会社を根底から作り変えよう。これを受けて、就任したばかりの百枝氏は考えた。部門の壁を真っ先に壊せるのは、部門に紐づいておらず、しかもすべての部門とつながっている人材開発部をおいて他にない。

そうした考えのもと、就任4カ月後の8月、約280名を対象にした部店長研修を実施する。

実は、全社横断のこうした研修は野村では前代未聞だった。そのくらい、部門間の壁が存在したのだ。「社長に了承をもらって、対象者にいきなりメールで通知したんです。部店長を2日間拘束することについて、方々から文句が来るかと思っていたら、まったく来ませんでした」。それだけ「壁を壊す」という社長の本気度が伝わっていたということだろう。

実際の研修では、12年後に迫った記念すべき年を意識し、「創業100周年の野村のありたい姿を考える」をテーマに、部長、支店長が数名の班に分かれ、議論を行った。これまでの過去を振り返り、将来の理想像を明確に描き、現状にバックキャストをかけてみる。そのギャップを認識することで、変革の必要性を実感し、具体策を練るという仕掛けだ。

最初は警戒感の塊のような部店長もいたが、時間が経つにつれ、長年の知己同士のように話し合う様子があちこちで見られた。大きな成果だった。



証券業の枠を一歩はみ出て、社会と共に価値を創造する

研修では、毎回社長から部店長へメッセージが送られる。翌2014年度からは「未来共創ミーティング」という名称となり、年2回、開催されている。「今では社内の部店長同士が交流するばかりではなく、社外の専門家やお客様にも来ていただいています。今年はテーマを『社会との共創』としました。野村と人工知能の掛け合わせで何かを生み出せないか、野村と地域の変革者とで新しい事業を起こそう、お客様と一緒に野村の未来を考えよう、というわけです。欧米企業にはイノベーションの核となるチーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)という役職がありますが、日本企業はそこまでいっていません。野村の人材開発部のミッションは人材開発と組織開発を通して、野村の企業価値向上をサポートすると同時に、お客様や社会のために『豊かな未来』を創造し続ける組織風土の醸成に貢献すること。それが最終的にイノベーションにつながればいい」

百枝氏自身も実はイノベーターなのだ。10年ほど前の営業企画部時代には大相続時代を見据え、不動産紹介業務の立ち上げに参画した。現在のリテールビジネスのための布石を打ったのだ。当時、「近い将来、高齢化の進展で相続が多く発生する。その場合、相続財産の大半を占める土地が動き始め、思わぬ資金を手にする人が増える。その資金を取り込むことにより、野村のビジネスはさらに拡大する。今のうちに不動産にリーチを伸ばさなければ」と考えたのだ。

その後、人材開発部長になる直前まで、支店長を2カ所相次いで務め、それぞれ全国の優良店に導いた。
この直後、まったく畑の違う人材開発部長に就任したのだ。

入社4 年目の若手を海外へ 10年後を見据えた武者修行

外に目を開くため、百枝氏が創設した仕組みが2つある。1つは2013年12月に始まった海外修練制度だ。

総合職に該当する入社4年目の社員のなかから、成績優秀で、組織への貢献度が高い社員を1割選抜し、同社の拠点が存在する世界中の都市に約1年間派遣する。語学の素養はまったく問わない。その間、何をやるかは本人の自由。農業に従事する社員もいれば、日本企業への就職を希望する現地学生の支援を行う社員もいる。「毎年約20名派遣し、10年間で200名の海外経験豊富な人材を育てる。10年後以降、彼らが野村の各拠点で野村のDNAを浸透させイノベーションを先導している姿を想像して制度を作りました。10年後、元修練生に、この制度のおかげで充実したキャリアを築けていますと言われたら、最高ですね」

もう1つ、2014年度から、新入社員の育成担当者を毎年20名選抜し、香港、シンガポール、タイの各拠点に送り、与えられたテーマについて現地社員に英語でプレゼンし、相手と議論を行う仕組みを導入。「3カ月前に指名、出発まで自前で英語の特訓です。今までの海外研修はどちらかというと受け身でした。世界中で野村の組織改革への想いを1つにするには、まずヘッドオフィスのある日本サイドから何かを発信する必要性を感じたのです」

どの企業も欲しているイノベーション。それは跳んだ発想と行動がなければ成し遂げられない。促進するために人事は何をすべきか。このケースはそれに対する答えの1つを表している。

【text:荻野 進介】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.40特集1「新しい価値を生み出す人・組織づくり」より抜粋・一部修正したものである。

お問い合わせはこちらから
WEBからのお問い合わせ
資料請求・お問い合わせ
[報道関係・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせ
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top