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インタビュー

甲南大学 尾形真実哉氏

2020年入社の新入社員には継続的・中期的なフォローが必要だろう

  • 公開日:2021/03/15
  • 更新日:2024/05/20
2020年入社の新入社員には継続的・中期的なフォローが必要だろう

リモート時代を迎え、多くの企業が悩んでいることの1つが「オンラインでの新入社員育成」だろう。リモート時代の新入社員の組織適応課題とは何か。支援していく上で、どのような視点が必要か。若年就業者の組織適応に詳しい甲南大学 経営学部 経営学科 教授 尾形真実哉氏に伺った。

組織社会化には現場でのOJT が欠かせない
2020 年入社の新入社員には上司が積極的に働きかけた方がよい
働き方や育成方法が変われば研究のあり方も変わる

組織社会化には現場でのOJT が欠かせない

コロナ禍に入って以降、多くの人事の方に相談を受けたり、お話を伺ったりしてきました。調査も進めています。企業の皆さんは試行錯誤の最中で、私も調査の途中ですから、はっきりと言えないことも多いですが、今の考えや現時点で分かっていることをお話しします。

コロナ禍以降、人事の皆さんから、どのように新入社員のフォローをしたらよいか、という相談をよくいただきます。なかでも多いのが、「オンラインの新入社員研修は効果があるのか?」という質問です。「私の意見では、オンライン新入社員研修の効果は、組織社会化(個人が仕事や組織に関する知識やスキルを得て適応するプロセス)に対しては、ほとんどないように思う」とお答えしています。残念ながら、現状ではそうお答えするしかないのです。

オンライン研修は、すでに仕事経験や社内の人的ネットワークがあり、組織文化をある程度理解できている社員なら、効果を見込めるでしょう。また、知識付与だけが目的なら、新入社員も他の社員も関係なく、効果はあると思います。単に知識を学ぶだけなら、いつでも学べる分、オンラインの方が好都合でしょう。しかし、仕事経験や人的ネットワークのない新入社員に対して、オンライン研修だけで、組織社会化につながる経験をさせたり、関係構築の場を提供したりすることはできません。

組織社会化や成長には、やはり現場でのOJTが欠かせないのです。職場で失敗経験と成功経験を積み、分からないことを上司や先輩に教えてもらい、先輩の働きぶりを観察するなかから学ぶことが、新入社員には決定的に重要なのです。そして新入社員は、OJTを通じて、周囲との信頼関係を構築し、職場に馴染んでいきます。

少なくとも現状のオンライン研修やテレワークでは、こうしたOJTの役目は果たせません。若者はSNSやインターネットのスキルは高いですから、現在とりあえず与えられているテレワーク用に用意された業務は、問題なくこなせるかもしれません。しかし、新型コロナ感染症が収まって通常業務のOJTに入ったら、いつもの新入社員と同じような状態になると思っておいた方がよいでしょう。

2020 年入社の新入社員には上司が積極的に働きかけた方がよい

言い換えると、2020年入社の皆さんは、入社1年目に組織社会化や一人前になるための基礎経験を積めなかったのです。

さらに、彼らは「同期の絆」を作ることも十分にできていません。新入社員にとって、同期の存在は大きなものです。励まし合って精神面のサポートをしたり、愚痴を言い合ってストレスを発散したりすることが、プラスに働くケースが多いのです。こうした横のつながりをもてていない新入社員は、メンタル面で問題を抱える可能性があります。

では、彼らにどのようなフォローをしたらよいのか。現時点でできることは、上司や先輩が、新入社員に対して積極的にコミュニケーションをとることです。普段なら、新入社員から上司・先輩への能動的なコミュニケーションを求める企業も多いと思います。しかし、2020年入社の新入社員に関しては、上司や周囲からかなり積極的に働きかけた方がよいでしょう。この状況で、新入社員の自発性を求めるのは酷です。そして、働きかける際は、肯定的なフィードバックを増やし、若手のモチベーションや対話の姿勢を引き出す工夫が効果的です。ただし、育成には厳しさも必要です。厳しいフィードバックをしなければならないときは、タイミングや言い方などをよく注意してください。

それから、2020年の新入社員は「リアリティ・ショック」も経験できていません。リアリティ・ショックとは、入社前に形成された期待やイメージが入社後の現実と異なっていた場合に生じるショックのことで、新入社員の組織コミットメントや組織社会化にネガティブな影響を与え、時には早期離職を促します。

入社前に想像していた職場や業務をまだ経験していないのであれば、彼らはいまだに現場でのリアリティ・ショックに直面していないと考えられます。今後、現場でのリアリティ・ショックを経験する社員が多く出てくることが想定されます。

一言で言えば、彼らは、いわば「新入社員の通過儀礼」を経験していないイレギュラーな状態にあるのです。それゆえ、2020年入社組には、入社2年目以降も継続的・中期的に手厚いフォローを行い、組織社会化を促したり、リアリティ・ショックへの対応をしたりする充実したサポート体制が求められるでしょう。

働き方や育成方法が変われば研究のあり方も変わる

ただし、冒頭でも述べたとおり、私自身も調査の途中であり、2020年入社の新入社員が「通過儀礼」を経験できなかったことで何が起こるかが分かっているわけではありません。数年後に大きな影響として表れるかもしれませんが、例年とさほど違いがないかもしれません。5年後、10年後の彼らを見ないことには、最終的な影響は分かりません。異例な状況だけに、私もどうなるか想像がつかない、というのが正直なところです。

また、多くの人事の方々が、「新型コロナ感染症の流行が収まっても、働き方は完全には元に戻らないだろう。オフィスワークとテレワークのハイブリッドになるだろう」とおっしゃいます。働き方が変われば、キャリアのあり方、キャリアラダーや昇進・昇格の考え方、評価制度、育成方法、採用方針などもあわせて変わっていくでしょうし、変えていかなければならないと思います。ポストコロナ時代の新しい組織社会化や新入社員育成のあり方が求められているのです。

キャリアや組織社会化、育成のあり方が新しくなれば、当然私の研究のあり方も変わります。研究方法を変えたり、新概念を生み出したりする必要があるかもしれません。従来の研究が役に立たなくなる可能性もあります。企業の皆さんだけでなく、研究者たちも、試行錯誤をしている最中なのです。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.61 特集2「2020年入社の新入社員には継続的・中期的なフォローが必要だろう」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
尾形真実哉(おがたまみや)氏
甲南大学 経営学部 経営学科 教授

2007年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。甲南大学経営学部専任講師などを経て、2015年より現職。専門は組織行動論、経営組織論。著書に『若年就業者の組織適応:リアリティ・ショックからの成長』(白桃書房)などがある。

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