日本銀行 岡 俊太郎氏 金融機関にこれから求められる“働きがい”とは?

経済の減退にともなう市場の縮小と、採用難に象徴される人材の不足。まるで日本社会の縮図のような金融業界における組織課題と今後の展望とは?
弊社にて従業員エンゲージメントについて研究を重ねる荒金泰史(写真左)が、金融機関の経営管理の高度化支援を目的に設立された日本銀行 金融高度化センターに所属する岡 俊太郎氏に伺いました。

PROFILE
岡 俊太郎(写真右)
日本銀行 金融機構局 金融高度化センター 企画役

1994年入行。名古屋支店、政策委員会室、発券局を経て、2016年6月より現職。金融機関の経営管理の高度化を図るため、「業務改革」や「働き方改革」に関するセミナーやワークショップを企画・運営している。


テクノロジーの恩恵を受けるには、それを使いこなす「人」の改革こそ重要

荒金:まず最初に、金融高度化センターとは一体どのような組織なのでしょうか。

岡:日本銀行は金融機関に対して、企業や個人に資金供給するメカニズムが円滑に機能するよう、リスク管理を適切に行うことや安定的に経営を行うことを働きかけています。時代と共にテクノロジーや経営手法などが大きく変化するなか、金融機関の経営・リスク管理の高度化に対応する取り組みを支援することを目的として、2005年7月に設立されたのが金融高度化センターです。例えば最近では、金融機関において、AI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)をどのように取り入れて業務改革や収益力の向上に活用していくことができるかというテーマについて、金融機関向けにセミナーやワークショップを開催しています。

荒金:AIやRPAの活用とは、かなり先進的なテーマを扱っているのですね。

岡:金融業とは、膨大なデータのやり取りで成り立つものです。FinTechという言葉もかなり一般化してきていますが、金融業とテクノロジーとの親和性はそもそも非常に高いのです。一方で、テクノロジーを導入することそのものは目的ではなく、重要なことは、テクノロジーをうまく活用しながら業務改革を進めて、労働生産性や企業価値などを高めることです。そしてそれを実現するためには、金融機関で働く人の意識や働き方を変えていかなくてはなりません。

荒金:その問題意識が、2018年7月に開催された「金融機関の働き方」セミナーにつながるのでしょうか。

岡:はい。「金融機関の働き方」というテーマでの大規模セミナーは、そういった問題意識から企画・開催しました。ちなみに、大規模セミナーは、金融高度化センターが情報発信の中核として開催しているもので、毎回、全国の金融機関から500名程度の方にご参加いただいています。このセミナーでも、登壇者としてメガバンクの人事責任者の方や、地方銀行、信用金庫、信用組合の代表者の皆様にご協力を賜り、先進事例を紹介していただきました。この議事録は弊行のホームページでも公開しています。

荒金:当日も拝見しましたが、ご講演も素晴らしい内容で、非常に“濃い”セミナーだったと感じています。登壇された皆様はいわゆる“経営層”の方ですが、経営層にとって従業員の「働き方改革」に取り組む目的とは何だったのでしょうか。

岡:金融機関によって力点の置き方は若干異なりますが、最終的なゴールは、収益力や企業価値の向上であり、さらには、労働生産性、従業員の働きがい、そして顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)を高めることだという点が印象的でした。背景には、金融機関が置かれている経営環境の厳しさがあります。特に地域経済における人口減少は深刻な問題ですし、低金利環境の長期化もあります。「バックや本部から、よりお客様に近いフロントへの人員シフト」ということを組織の方針として挙げている方もいらっしゃいましたが、定型的な業務をテクノロジーで自動化したり、業務そのものを減らしたりすることによって、顧客と接する時間を増やすことや、イノベーティブな活動に時間を使える環境をつくることは、金融機関にとって不可欠な課題になってきています。

荒金:顧客と接する人員、顧客に接する時間を増やそうということですね。

岡:そのとおりです。ただ、もちろん時間だけ増やせばよいという話ではありません。かつて高付加価値だった貸出や預金、決済といったサービスが、コモディティ化が進んで価値が薄れてきていると感じています。そうなると、いかにしてサービスの付加価値を高めていくのかを考えていかなくてはなりません。当たり前のことではありますが、顧客に役立つ情報を提供したり、顧客のメリットになる提案をしたりするなど、顧客との接点をより強化することが重要です。時間を割くことはもちろんですが、一段と顧客志向を強めていく必要があると考えています。

「働きやすさ」だけではなく、「働きがい」にこそ目を向けるべき

荒金:従業員一人ひとりが、目の前で接している顧客にさらなる価値を提供したいと考え、工夫して行動していくことが重要である、ということもいえるのでしょうか。

岡:はい、そのとおりです。昨今の「働き方改革」では、長時間労働の是正やITによる効率化などに焦点を当てがちです。すなわち、「働きやすい環境づくり」に注力しているということですね。しかしながら、多くの金融機関にインタビューしているなかで、「働きやすさ」だけではなく、「働きがい」や「エンゲージメント」にも目を向けるべきであると気づかされました。従業員一人ひとりが、自分の仕事に誇りや働きがいを持ち、自分なりに顧客への提供価値を高める工夫をしていきたいと思えるような仕組みを構築していくことが重要だと思います。

荒金:まずは、自分自身が今の仕事を通じてもっと相手の役に立ちたいと思えることが重要なのですね。

岡:もともと金融機関で働いている方には、「地域経済のために」とか、「地域のお客様のために」という思いを持っておられる方がたくさんいらっしゃいます。ところが、実際に金融機関に入ってみると、思い描いていたように働けないこともあるわけです。入社したころの志は顧客に向いていたけれど、それを十分に実現できる仕組みが整っていないということなのかもしれません。

とにかく、「お金を借りてください」とか、「預金口座をつくってください」ではなく、顧客の話を聞くことを第一に行う。そして、真のニーズをくみ取って、金融機関として課題解決のためにどのようなサービスができるのか考えていくことを優先的な行動原理にすることが、金融機関職員のエンゲージメントや働きがいを高める上で重要なことだと思います。

旧来の人事慣行が「働きがい」を阻害していることも

荒金:セミナーに登壇した金融機関のように、すでに取り組みを始めているところもあるわけですね。ほかに、働きがいを高める上でどのようなことが課題になっているのでしょうか。

岡:金融機関によって事情はそれぞれだと思いますが、古くからある人事慣行が、働きがいを高める上での阻害要因の1つになっている可能性があります。例えば、総合職と一般職の区分です。セミナーに登壇していただいたある金融機関では、一般職という職種をなくしたそうです。一般職の多くは女性であり、彼女たちの活力を十分に引き出すことが、金融機関の成長につながります。一般職という枠に閉じ込めてしまうと、成長の天井を感じてしまい、なかなか女性活躍が広がりません。

過度な年次管理にも議論の余地があります。入社して何年で自分がどうなっていくのかという目安になる一方で、そこから落ちこぼれるとやる気を失ってしまうかもしれません。また、若くて才能がある人も、年次管理のウエイトが大きい場合は、一定以上の力を出さなくなる可能性もあります。過度な減点評価主義も見直した方がよいかもしれません。失敗して減点されるくらいなら、「トライしない方がまし」と考えるようになってしまっては元も子もありません。だからこそ、失敗しても「ナイストライ」と言われるような、「挑戦を称える企業文化」を醸成していくことが重要です。過度の年次管理や減点評価主義を見直している金融機関も出てきています。

「外」との接点を拡大するために、「内」のコミュニケーションを変える

荒金:シュリンクしていくマーケットと向き合うために、人事慣行を見直すことは、金融機関に限らず、さまざまな産業でいえる有効なことだと思います。1on1を導入して、そのきっかけにしようという企業も数多く見かけます。

岡:日本企業全体がマーケットの縮小に対峙するために、これまでの組織運営のあり方や、働き方、人事制度などを全般的に見直す時期がきているのかもしれません。収益力や企業価値、労働生産性などを高めるために、業務改革、働き方改革を進めるという話をしましたが、取り組むべき根底にあるものは組織変革や企業風土改革です。そのためには、やはりリーダーが変革にコミットすることが欠かせません。まずは、トップがチャレンジすることが重要です。時代への対応を迫られている今、「変わらないこと」もリスクになっています。

それと併せて、「インサイド・アウト」ではなく、「アウトサイド・イン」のスタンスでビジネスを捉えていくべきだと思います。すなわち、自分たちの課題ではなく、顧客や地域の課題にアプローチしていく。地域にどのような課題があり、そのために金融機関は何ができるのかを指針として持つということです。例えば、地域創生に貢献したいのだとしたら、そのために自分たちに何ができるかを考えられる組織に変わっていくことがポイントであり、今の新しいビジネスの流れではないかと考えています。

荒金:視点を外に向けるために、職場でのコミュニケーションも改善の余地があるかもしれませんね。

岡:組織全体が顧客の方を向いていくためには、一人ひとりが顧客を向くように、管理職層が導いていかなくてはなりません。したがって、管理職のマインドチェンジも求められます。仮に管理職が営業目標の達成や組織内部の調整ばかりに気を取られていたら、いつまで経っても部下たちの行動は変化しません。管理職こそ変化が求められますし、管理職をどのように選抜していくのか、人事評価基準の再考が必要かもしれません。「管理職に求められる資質は、営業成績よりも、人間性である」との選抜方針を明言している金融機関もあります。

そして、管理職を変えていくためには、やはりトップが号令を出さなくてはなりません。組織変革がうまくいっている金融機関や企業では、経営トップが腹をくくり、自ら舵を切っているのです。


■After the Interview
安定環境下にあっては、目標を効率よく追求することでよかったが、時代は変化しマーケットがシュリンクするなかでも収益力を担保するためには、一人ひとりが顧客の方を向いて工夫していくことが必要。そのためには、社内のコミュニケーションや、部下に対する上司の関わり方も、変わらなければならない。
一人ひとりがそもそも持っている前向きな気持ちや志を受け止めつつ、何に意味・価値を置いて働くのか?を巡って対話し続けることが、マネジメントにおいて大切なのだと感じました。


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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