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インタビュー

INSIDES 「2018年度グッドデザイン賞」受賞記念vol.2

個も組織も、対話を起点に「外」の視点を

  • 公開日:2018/10/29
  • 更新日:2024/05/31
個も組織も、対話を起点に「外」の視点を

有識者との対話を通じて「個と組織」を探訪する対談シリーズ。
結果や行動など人の外から見える側面(outside)だけを見てピープルマネジメントするのではなく、内面(inside)を見てマネジメントしようとメッセージする我々に、そもそも「内面」とはなにか?心はどこにあるのか?と哲学的問いを投げかけてくれる良書『<心>はからだの外にある』。著者である立教大学教授の河野哲也氏を、INSIDES SURVEY開発マネジャー荒金 泰史(写真左)が訪ねた対談を、この度の「2018年度グッドデザイン賞」受賞を記念してお届けします。

PROFILE
河野 哲也(写真右)
立教大学文学部 教授

1963年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程哲学専攻修了。博士(哲学)。
日本哲学会・日本現象学会・日本科学哲学会など多くの学会の理事や委員を務める。専門は現代哲学と倫理学、近年は環境の問題を扱った哲学を展開している。
主な著作に『「心」はからだの外にある―「エコロジカルな私」の哲学』 (NHKブックス, 2006) 、『いつかはみんな野生にもどる』(水声社, 2016)など。

目を向けるべきは自分の内面ではなく外からの多様な視点
客観的視点を見失い、視野が狭くなった時にはまる罠
必要なのは探求的な対話

目を向けるべきは自分の内面ではなく外からの多様な視点

荒金:私たちは一般的に「心は自身の内側にあるもの」というイメージを持ちがちです。先生はご著書の中で、こういったイメージが過度な「自分探し」を助長し、かえって個人を苦しめることになると仰っていますが、この点についてご説明頂けますか?

今から10年ほど前、当時は今とは違って新卒者の就職も厳しい時代にあった中で、学生たちがこぞって取り組みはじめたのが自分の性格や履歴などを振り返る、いわゆる自己分析です。当時、自分とは何者なのかを探求しないと就職も人生もうまくいかないという社会的な風潮があったように思うんです。しかし自己の半生を見つめるだけで答えを出せるものでしょうか?自分の中だけに何かを見出していこうとすると、やがて行き詰まってしまう。私はこうした現象を「自分探しの罠」と呼んでいます。

本来、人間の心の働きは、個人の中ではなく、常に環境との関係で捉えるべきものなのです。これは、生物と環境の相互作用を扱う学問分野「生態学」に心理学を取り入れた「生態学的心理学(エコロジー心理学)」からの視点です。私が『<心>はからだの外にある』という少しトリッキーな表現を用いてでも提唱したかったのはこの視点です。

荒金:「心」が内にではなく、からだの外にあるという意味をもう少し詳しく聞かせてください。

心というものを胸の内や脳の中にあるものと考えず、環境との間の関係性、相互作用として考えていくということです。例えばアイデンティティ、自分はこんな人間だという自己認識でさえ、どういう場面やコミュニティに接しているかによって変わるものですよね。職場ではこういう自分だが、同年代の友人が集まるとこういう自分もいて、家庭ではまた異なる自分がいるという感覚は、とても普通の感覚です。にも関わらず、自身の内側に本心があるように誤解してしまうのは、誰もが成長の過程で内面を隠すようになるからです。

例えば、産まれたばかりの赤ん坊や動物に「内面」はあるでしょうか?お腹がすいたら泣きますし、嬉しかったらしっぽをふる。喜怒哀楽など心の表出は常に行動や表情・しぐさに表れています。しかし成長につれて、次第に隠し事をはじめたりウソをつくようになるんです。いつも以上に泣いてみたら、親が優しくしてくれた。こういう体験を通じて、人は内面の感情と外面の行動を分けるようになります。ただしそれは、内面と外面を分けているだけ。外面行動を意図的に抑制しているだけであって、内面に本心があるというわけではないのです。ここに誤解があります。

目を向けるべきは自分の内面ではなく外からの多様な視点

客観的視点を見失い、視野が狭くなった時にはまる罠

荒金:日常の業務に臨む中で、またキャリアの中で迷いが生じた時に、自身の内側ばかりに目を向けても、良い答えは出ないということですね。

その通りです。視野が狭い中で自分自身の心の整理をつけようとしてもうまくいきません。大切なことは、さまざまな他人の視点を通して自分を見ることです。例えば、ブラック企業で極端な職場環境の中だけにいると「こうでなくてはいけない」「他の選択肢はあり得ない」という思い込みが強くなり、健全な判断ができなくなることもあるでしょう。でも、外部の視点から「それって普通じゃないよ」と言ってもらえるだけで、少し冷静になれますよね。多様な視点を持つことで、自身の状態を適切に、健全に捉えられるようになるのです。

このことは働く個人の健全性を保つ上でも、組織の健全性を保つ上でも非常に重要です。不正が起きる企業や組織の多くは、外部の視点を欠いていて、内部の論理だけでやっていることを正当化しようとしがちです。これは変だな、おかしいな、と感じた時に自身の内側に目を向けて無理に折り合いをつけるのではなく、客観的な外部視点を持って違和感の元を捉えていくことが大切です。

荒金:働く従業員が多様な視点を持って、健全に過ごしていくために、企業が心がけるべきことは何でしょうか?

何かあっても「自分で考えなさい」という姿勢は、過度な自分探しをうながすので注意が必要です。企業が意識すべきは、対話の機会を意図的に設けていくこと。自分の内側だけで考えさせるのではなく、他者と対話する中で答えを見つけさせるようにしていくのです。

対話と会話は違います。会話とは、単なる言葉のやり取りです。そこでは交流は生まれるけれど、互いの考え方や見方に変化は起きません。対話とは、相互の違いや共通点に意識を向けて行うものです。必然的に対話とは探求的な行為となりますし、それぞれに新しい発見や気づきが生まれます。

もし企業が単なる仲良しクラブで良いのならば、表面的で心地よい飲み会の会話だけでいいのでしょう。しかし実際はそうではなく、企業とは何らかの目的のために集まった共同体なので、真理から目を逸らさずきちんと対話をしていくことが必要なのです。

客観的視点を見失い、視野が狭くなった時にはまる罠

必要なのは探求的な対話

荒金:部下と何を話したらいいのかが分からず、苦労しているマネジャーも多く見ます。困った末に「飲み会」という手段に頼りたいマネジャーも多いと思うのですが、現場のマネジャーは、どのように対話をしていけば良いのでしょうか?

やはり、仕事や会社の意義そのものについて、正面から語り合うことでしょう。企業では、日々の多忙さの中で何気なく見過ごされがちですが、骨太で青臭い議論というものはやはり大切です。

社会の中で会社の存在意義とは何なのか、何が会社にとってベストなのか、現実はどうなっているのか。そして一つの議題に対して互いに意見を交わし、双方の考えは何が違うのか、より合理的なほかの意見はないのか。一方の答えを押し付けるのではなく、共に探求する。こういった対話こそが、個人の視野を広げ、組織の健全性を保つのだと思います。職場の中で誰かがおかしいと感じている時に、いかにそれを見過ごさずに対話のきっかけとしていけるかがポイントだと思います。

■After the Interview
社会の多様性が増す中、対話の必要性はますます高まっていくのでしょう。仕事の意味や価値を真ん中に置いて対話すること。そのためにも、一人ひとりの違和感を、隠された状態のままで放置しないことが重要なのだと感じました。INSIDES SURVEYが、それに気付ればよいと考えています。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

※INSIDESについての資料請求・お問合せは下記特設サイトのお問合せフォームからお願いいたします。

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