インタビュー
INSIDES 「2018年度グッドデザイン賞」受賞記念vol.1
組織において「個を生かす」
- 公開日:2018/10/22
- 更新日:2024/05/31
組織において「個を生かす」ということ。
このシンプルなテーマに、未だかつてないほど関心が集まる現代において、組織マネジメントに携わる人事またはマネジャーは、いかにピープルマネジメントを御していけばよいのでしょうか。
INSIDES SURVEY開発マネジャー荒金 泰史(写真左)が、有識者を訪ねる対談シリーズを、この度の「2018年度グッドデザイン賞」受賞を記念してお届けします。
PROFILE
奥本 英宏(写真右)
リクルートワークス研究所 副所長
1992年立教大学社会学部卒業。同年株式会社人事測定研究所(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。
採用・若手育成事業のビジネスユニット長、人材開発・組織開発事業部長を歴任。2011年10月には、株式会社リクルート ソリューションカンパニー カンパニー長、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ代表取締役社長に就任。企業の人事制度、人材評価、人材開発、組織開発全般のソリューションに従事。2018年4月よりリクルートワークス研究所に参画、現職。
「一律管理」から、多様化する「個を支援する」時代へ
荒金: HR業界で経営者、研究者として、四半世紀身をおいてきた立場からご覧になって、人事の仕組みや機能は時代とともに、どのように変遷してきているのでしょうか。
80年代以前を振り返ると、年次で昇進昇格をどのように扱っていこうかという一律の年次管理がほとんどでした。
こういった時代におけるモチベーションマネジメントは、ある意味、ゴールが昇進昇格そのものと明確であり、頑張れば人事が見てくれる・順当に評価してくれるという安心感の中で運用されていた時代だった気がします。
荒金:そうした一律の年次管理が変化し、安心感が薄れてきた契機はいつ頃でしょうか。
明確なタイミングはバブル崩壊でしょう。これを契機に、成果主義もしくは業績主義の人事制度が導入され始め、個人の評価を明確にする動きが出てきました。
人事管理でいうと、コンピテンシーに基づいて「どういった仕事に就けば、どのくらいお金がもらえて、どういう力がつけば、あなたのパフォーマンスを評価しますよ」という職務主義が入ってきて、メジャー、つまり「物差し」をはっきりさせて、そこに対して頑張った個々を見ながら評価するという流れになっていったと思います。
「一律」ということから脱却し始めて、個々の頑張りやパフォーマンスをしっかり見ていく考えに変わったという意味で、「個」に寄りはじめた時期だと思います。
そして、この流れは試行錯誤しながらも、近年まで続いていると言えます。試行錯誤というのは、モチベーションの観点からの話です。
成果主義により個々の評価の差をつけすぎると、評価されない人たちのモチベーションがダウンしてしまう。あるいは、計量的な指標やKPIといった形の管理が行き過ぎた場合、人間がいったいどこまで頑張れるか。そうした問題が表面化してきたのです。
成果主義の導入はあくまでも個人が頑張る土壌・環境を整えたのに過ぎず、さらにプラスアルファをして、個人の意欲やモチベーションを高めていくには、別のアプローチが必要ではないか? では、そのアプローチとはなんなのか? どうやってモチベーションを引き出していくのか? ということを考えることが、当時の試行錯誤のひとつでした。
多様化する個々をどのように組織としてまとめていくか
荒金:その当時の試行錯誤の中で「別のアプローチ」を求める企業の具体的な動きについて教えてください。
成果主義が求められる中で、「頑張った人には報いますが、頑張っていない人にはそれほど報いることはできません」あるいは「仕事に対する、よりストレッチなチャレンジは個人に任せます」という自助努力が問われ、個人にかなりのプレッシャーがかかりました。メンタル不全が話題になり始めたのもこの頃です。そうした中で、成果主義の行き過ぎを感じ、揺り戻し的な動きをとる企業が増えてきました。
職務をあまり細かく切り刻むのではなく、もう少し大きな括りでまとめ、個人の伸長度合いをしっかり見ていくということや、ビジョン・ミッションを再定義して、自分たちが何を目指して、仕事の中で何を社会に提供して行くのか考え始める企業があらわれました。
また、それと合わせて、担い手である働く人々の多様化が起こりました。今や、週三日しか出社しないシニア社員や、17時以降仕事はできないというワーキングマザー、副業を持っている若手など、働く人々の価値観の多様化はかなり進んでいます。こういった構造的な変化を受けとめ、どのように組織として取りまとめ、会社にコミットさせるか、パフォーマンスをあげていくかを、いろいろと考え始めたことが大きいです。
かつては、共通のビジョン・ミッションを作って、「さぁ、みんなでがんばろう」と言っていればある程度響いていたけれど、一人一人に対して仕事の意味付けをして、きちんとつなげてあげないと、一律では浸透しにくい。そういう時代が今だと思います。
マネジメントや組織の改善を支援する人事へ
荒金:会社で働く個々の多様化が進む中で、人事のあり方はこれからどう変わっていくのでしょうか。
これまでのように、一律の制度を設計して全体管理していくのではなく、現場のマネジメントをいかに支援していくかが人事にとって重要になります。
現場の状況と個人の働きかたをどのようにマッチングさせていくかを考えたとき、中央で一律にできることは少なく、現場のマネジャーと本人しかそこをつなげられません。
ルールを守っているか、管理できているかをチェックする機能ではなく、現場のマネジャーが何かアクションを起こす時、サポート役として人事が関与していく。今後は、こうしたコンサルテーションに近いような人事がありうると思います。
荒金:新しい動きが求められる中で、人事はマネジャーに対してどういった支援をしていけばよいのでしょうか。
マネジャーは時間が限られています。多様性に向き合って行くというシビアな環境において、メンバーの状況やコンディションなどの情報をいかに効果的に人事が提供していくかが勝負になります。情報過多の中でオーバーフローしているマネジャーに対して、情報をわかりやすく、タイムリーに渡してあげる。HRテクノロジーは積極的に使っていくべきだし、受け手側のマネジャーが、どういった情報をどのように受け取っているのか、全体のフローを見ることも大切です。
荒金:やはり、これからは人事の情報提供という機能が重要になるのでしょうか。
これまではクローズされていることが多かった人事の情報ですが、今後は、組織を運営するための効果的な情報提供が求められます。
マネジャーが判断したり、戦略を立てたり、仕事をデザインしていくための情報提供が非常に大事になります。マネジャーがメンバーと向き合う時間を含めて設計しなくてはならない。
ただ、考える手順や、どんな情報をどのように読み込んだらよいかまで組み立てられるマネジャーは多くはありません。人事がマネジャーに対して情報をどのように渡すかというデザインが大事になります。
これからのマネジャーに求められる力
荒金:では、これから現場マネジャーに求められる役割とはなんでしょう。
現場マネジャーには、メンバー個々の価値観を受け止めて一緒に考えて行く力が必要であり、多様な価値観への対処の仕方というものが大切になります。
様々な場所で様々な働き方があるという、人事のパーソナライゼーションが起こっていますが、個別化・自由デザインはよい面ばかりではありません。
仕事を自由に設計できますと言った瞬間、「では、あなたはどんな働き方や生き方をしたいですか。何を大事にしてワークライフを送りたいですか」ということを問われます。しかし、この問いに人はそう簡単に答えられません。
それを一緒に見つけてあげられるマネジャーがこれからは求められるのではないでしょうか。
日本の企業は、一律の制度のなかでやってきたので、こういうことにまだ慣れていない。ワークス研究所の2017年の調査でも「マネジャーに必要な力は何か」という質問に対して、第一位は「部下の動機づけスキル」という結果が出ています。これも同じ流れの中で求められた結果ではないでしょうか。
荒金:マネジャーとして部下を動機づけるために重要なことはなんでしょう。
対話の質を上げることです。仕事の進捗やよくできているといった話ではなく、その動機の源泉や個人の価値観に踏み込んでいくということです。
成果や能力などメンバーの課題面だけを会話するのではなく、個人が目指すより中長期のキャリア、その中での優先順位、仕事で大事にしていくこと、やりがい…そういったものを会話しながらジョブを設計していってあげる力がマネジャーに必要だと思います。
荒金:メンバーと何を話せばよいのかわからないマネジャーからの悩みも聞きます。キャリアとか、ワーク側の悩みをただ聞くだけで、どうしたらよいだろうと途方にくれるマネジャーも少なくないようです。
仕事の社会に対する意味・価値を真ん中に置くことです。仕事を通じてしかモチベーションは高められません。仕事を通じて何をやりたいのか。そもそもこの仕事に就いている理由とは。そういう部分にまで遡って対話していくしかないのです。
ただ、それは部下の人生のすべての相談に乗ってあげるということではありません。あくまでも、仕事を真ん中におくことが大事だと思います。
■After the Interview
多様な一人ひとりがそれぞれに、日々の仕事に意味や価値を感じられるよう、人事と現場のマネジャーが共に考えていくことが大切なのだと感じました。そのために、インサイズサーベイを「これからのマネジメント」を支援できるサービスにより磨いていきたいという思いを新たにしました。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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