滋賀大学 小野善生氏 フォロワーの視点からリーダーシップを考える

世の中にリーダーシップ論は研究者や経営者の数ほどあるといわれています。しかし、リーダーシップ論の多くはリーダーの側に焦点を当てて論を進めているものがほとんどです。今回は、近年社会心理学等においても注目されている「フォロワー(部下・後輩)視点」からのリーダーシップ研究について、インタビュー等の質的調査を中心に進めておられる滋賀大学小野善生先生にお話を伺いました。


リーダーシップをフォロワーの視点から考える

― リーダーシップの研究、それもフォロワー視点からのリーダーシップについて、一貫して研究を続けるきっかけになった出来事を教えてください。

まずは神戸大学の金井壽宏先生との出会いが大きかったといえるでしょう。研究者の道に進むに際して、先生が最も得意とする領域の研究をしていきたいと考えました。そこでリーダーシップに関する研究を深めていくことになったのですが、世の中では「リーダーシップ領域は研究し尽くされ、今後さらに研究する領域はもうないのではないか、つまり成熟領域ではないか」といわれていました。しかし、よく見てみると、先行研究のほとんどはリーダー側のことしか書いていない。私の実家は京都の市場で商売をしているのですが、そこで企業に勤める人(フォロワー)の上司(リーダー)に対する不平不満を数知れず聞いていました。また、学生時代の相撲部での主将・部員という経験を踏まえてみても、部下や後輩といった「受け手」の視点のないリーダーシップ研究は不十分だと考えたのです。そこでフォロワーの視点を起点として、リーダーシップを研究してみたいと考えました。

― その問題意識が研究を進めていく確信に変わったのは、どのような出来事によるものでしたか?

Hollander(ホランダー)等のフォロワー研究を進めていた研究者の書籍を読み解いたのが契機です。そこでは、フォロワーの視点から見ると、効果的なリーダーシップとはフォロワーを含む「チームの状態をつかむ同調性」と「仕事ができる有能性」の積み重ねであると論じています。また、最近注目しているのは、Heifetz(ハイフェッツ)が主張している「フォロワーの積極的適応を促すリーダーシップ」です。Heifetzは、リーダーとフォロワーの間の関係性においてフォロワーの能動性や積極性が必要であるといっています。これらの理論的な背景に加えて、実際の企業現場におけるインタビュー調査を実施してみると、上記内容に関連するさまざまなエピソードが出てきました。深めていくと面白い研究領域だと感じたのです。

― 企業でのインタビュー調査の事例を教えてください。

製薬会社の新薬開発チームにおける、プロジェクトリーダーとフォロワーの関係性の事例があげられます。ご存知の通り、新薬開発は成功の可能性が極めて低く、長い期間と費用のかかるプロジェクトであるため、各複数専門分野のプロフェッショナルを束ねるリーダーシップが求められます。今回は極めて高いレベルの成果を出したプロジェクトの調査を行いました。ここで興味深かったのは、リーダーよりも専門分野における知識・スキルが上回るフォロワーのいるチームにおいては、リーダーの役割のどの部分を分担し、どの権限を委譲するのかといったチームデザインが有効であったということです。当該プロジェクトリーダーは、実験計画や個別分野ごとのリーダーシップについては、他のサブリーダーのフォロワーシップを引き出し「リーダーシップの分担」を行い、自らは研究所内外への折衝(対外的リーダーシップの発揮)を行っています。また、対外的リーダーシップにおいて必ず発生するコンフリクト(他プロジェクトからの横槍、上席者からの課題提示等)に関してリーダー自らが防波堤の役割を果たし、それをフォロワーに見えるようにオープンに行動しているのがポイントでした。

― この事例からはどのような発見があったのでしょうか?

1つには、フォロワーが時にはリーダーを上回る専門領域を持つプロフェッショナルであるチームにおいて、リーダーが自らの影響力の限界を直感し、リーダー役割の分担や権限委譲等のチームデザインを行い、それが成果につながったということ。2つめは、自らが担った対外的役割上のコンフリクトを的確に解消することで、フォロワーからの信頼を勝ち得ているということ。つまりは、従来いわれてきたように、対課題・対人の両領域のリーダーシップを同時に発揮するのではなく、まずは対課題領域での実績を積むことの重要性が示唆されたということです。この事例では、リーダーは対内的なリーダーシップをサブリーダーと分担し、自らは対外的な問題解決にあたることでフォロワーからの信頼を得たことを指します。加えて3つめは、2つめのような問題解決場面をフォロワーに見えるように行ったことで、能動的かつ積極的なフォロワーシップを引き出すことができたということです。一般的にいわれるような、プロジェクト内の会議や日々の進捗管理、飲み会などではないというところが新しいのではないでしょうか。企業を取り巻く環境は複雑化しており、利害の対立する関係者・関係部署を巻き込みながら仕事をしていくことが増えていることを考えると有用な発見ではないかとも思います。

トップマネジメントにおけるリーダーシップとフォロワーシップ

― ミドルマネジャーレベルのリーダーとフォロワーという観点では頷ける部分が多いですね。他方、経営者と経営ボードというトップマネジメント層においてもフォロワーシップを引き出すリーダー行動として特徴的な事例はありますか?

その例として、会社更生法を申請して再建を開始するプロセスにおける外部派遣リーダーと当該企業生え抜きのフォロワー(幹部層)の事例をあげたいと思います。この企業は、株主の要請を受けて派遣されたリーダーによって事業分野も変え、短期間に再建を果たし、再上場も果たした企業です。

― 新たな経営者は具体的にどのようなリーダーシップを発揮したのですか

倒産した企業ですから、幹部のリーダーへのコミットメントは低くて当然です。社長は多少時間がかかるものと割り切り、「急がば回れ」の精神でフォロワーの伴走者となることを選択しました。具体的には、幹部層に部門間を横断する戦略を考えてもらう機会を設定したのです。幹部層に暗黙の前提を捨ててもらいつつも有用なアイディアについては採用し、戦略の再構成を繰り返していくプロセスを重ねました。そのプロセスの後、幹部の中からも「あの人の言うことは信用に足る」という信頼の土壌ができてきました。リーダーである社長はその確認の後、幹部への要望を個別にフィードバックし始め、要望のレベルを段階的に引き上げていくことを繰り返していきました。その結果として最終的に「(他社と)同じことをやっていては絶対に勝たれへん」「だって売り上げ、上げたいでしょ」「経営資源をどうやって集中していって成果に結びつけるのかを常に考える」等の言葉が幹部から出されるようになり、新戦略は合意され、さまざまな困難な中でも着実に実行に移されていったそうです。

― この事例でのポイントはどのあたりでしょうか?

フォロワー(幹部)の積極性・能動性を引き出すために、リーダーがフォロワーと共に、あえて時間をかけて戦略策定を行っていったということではないでしょうか。実は社長は解を事前に持っていたのですが、最初にフォロワーには言わず、あえて我慢をした。結果的に、それによりフォロワーの積極性や能動性が引き出され、再建スピードも早まったということだと思います。

フォロワーシップを引き出すリーダー行動とは?

― ミドルと経営層におけるフォロワーシップを引き出すリーダー行動の共通項は何でしょう?

今回あげられなかった事例も踏まえての仮説ですが、まずはフォロワーが学習しやすいようにリーダーが振る舞うことがあります。次には、当たり前ともいえますが、リーダーがフォロワーを裏切らない行動をとるということです。ここについては、近年、倫理的なリーダーシップ(Ethical Leadership)というテーマで米国にて研究が進んでいます。明治時代の日本のリーダーもそうですが、エゴイスティックなリーダーではフォロワーはついて来ないのです。

― あらためて「フォロワーシップ(フォロワー)」という言葉をどのように定義すればよいでしょうか?

Heifetzの定義、「リーダーから投げつけられた挑戦課題に対してチャレンジしていく(存在)」が最もしっくりくるような気がします。そのチャレンジを効果的に引き出すためには、(1)フォロワー自身の能力・スキルレベル(2)チームが直面する課題の質(3)リーダーのこれまでのリーダーシップスタイルの3点について検討を行っていくことも必要であるといえます。

― 今後の先生の研究の方向性について教えてください。

フォロワー起点からのリーダーシップ研究を今後とも進めていくつもりです。質的(インタビュー)調査は時間もかかり、効率的であるとはいえません。しかし、インタビューを行いそれらの整理をしていくプロセスの中で、企業に働く人々や創業者や先人の思いに触れ、自らが磨かれていく感覚を強く持っています。今後は、再建事例のような中小経営者のリーダーシップとフォロワーシップ、本文でも触れた倫理的なリーダーシップ(Ethical Leadership)など対象や領域を広げながら研究を進めていきたいと考えています。

― お忙しい中、長時間ありがとうございました。


(インタビュー・文:小方真、インタビュー:今城志保/和泉ちひろ)

研究者PROFILE

小野 善生(おの よしお)氏
滋賀大学 経済学部 情報管理学科経営情報講座 准教授

●略歴 
1997年滋賀大学経済学部卒業、2003年神戸大学経営学研究科博士課程修了、2003年より滋賀大学経済学部助手を経て、2006年4月より現職。
経営学、 経営管理論、 組織行動論を専攻。
フォロワーの視点からリーダーシップのあり方についてフィールド・ワークによる探索的視点で現場発のリーダーシップの概念を研究テーマとしている。

●論文・著書
「企業再建に導くリーダーシップ-フェニックス電機株式会社:企業再建プロセスの事例分析-」組織科学 2007/06
「フェニックス電機 企業再建へのプロセス」(共著) 一橋ビジネス  レビュー・ 2006/03
「リーダーシップ行動の再検討-エーザイ株式会社アルツハイマー型認知症治療薬アリセプト探索研究チームの事例研究-」日本経営学会誌 2007/05
「ライトワークス ビジネスベーシック シリーズ 『リーダーシップ』」ファーストプレス 2007/07

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