神田東クリニック医院長 島 悟 氏 若手の心がわからない〜企業における若手社員のメンタルヘルス

メンタルヘルス対策は企業における重要なテーマのひとつとして注目されています。産業医やEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)などの対策が進められている中でも、人事や管理職の方からは「若手社員のメンタルヘルス不調についてどうしてよいかわからない」といった声が多く聞かれます。そこで企業におけるメンタルヘルスケア領域の牽引役として最前線でサポートを続けられている、神田東クリニック院長の島先生に、若手社員の現状とメンタルヘルス不調の予防についてお話を伺いました。


若手社員の現状〜何を考え、何を悩んでいるのか?

― メンタルヘルス不調で相談に来られる若手社員の傾向を教えてください。

まず明らかなパターンとして、入社前に抱いていた企業イメージとのギャップですぐにメンタルヘルス不調になるケースがあります。華やかな業界をイメージして入ったらいわゆる3K職場だった。ITコンサルタントと聞いてかっこいいと思ったら、実は泥臭い仕事が多かったとか。要するに下積み生活があることを想定してないし、耐えられない。入ればすぐに結果が出せると思っている。これはあらゆる業界で感じる点で、とても気になりますね。

― 将来目指す姿になるためのプロセスとして、目の前の仕事があるとは考えられないということでしょうか。

思考パターンが変わってきていると思います。思考がマニュアル的でイチゼロになりがち。結果として、プロセスがないんです。昔は何かひとつ調べるのも図書館に行き苦労しましたが、そのプロセスがあるからこそ身についた。今はインターネットで調べたいことを入れたらすぐに結果が出るでしょう。プロセスなしでいつでも簡単に答えが手に入るから、身につけようともしない。しかし実際に企業に入ったら最短距離で答えだけを求める要領ではうまくいかない。社会では身につけること、下積みが大事ですが、我慢できずに逃げてしまうんですね。

― イメージとのギャップというケース以外には、どんな場合がありますか。

企業が求めるスキルレベルと自分のレベルとのミスマッチがあります。人は成長を目指して少し高いレベルを求めていきますが、あまりにも仕事と自分のレベルにギャップがあれば無理が生じてしまう。それでも「この仕事は自分には無理なんだ」と認めようとしない。現実の受け止め方、自己認知がうまくいかないんですね。無理をして今の会社や仕事にしがみついてしまう。特に男性が多いですね。

― プライドでしょうか。

転職する自信がないんです。プライドはあるけれど自信がない。女性のほうがその辺スパッと生き抜いていく強さがあります。

― 性別による特徴もあるようですが、職種による違いや特徴もありますか。

営業職の方がつまずくのは対人関係。社会人になるまで嫌な人と付き合ったこともないし、怒られた経験もない。よくあるのは、医師から見ても上司としての指導の範疇なんですが、本人は「怒られた」と言ってくるケース。体験が少ないから何か少し言われただけですごく傷ついてしまったり、逆ギレしたりする。一方では「上司が教えてくれない」というクレームも多い。上司から状況を聞くとちゃんと教えている。ただし確かに全部は言っていない。上司の感覚として10のうち2か3を教えて、後は考えさせるのが「教える」なんですが、若い人にはそこを自分で考える力がない。それで「教えてくれない」と上司を攻撃する。でも上司も良くないんです。部下が理不尽な文句を言っているのに叱れない、何も言えない上司がいっぱいいる。これはメンタルヘルス不調者に対してだけでなく、全体的にマネジメントが甘い、権威が薄れていると感じます。その要因のひとつには組織体制があると思います。組織がフラット化してヒエラルキーがない。プロジェクト単位で組織がないことも多い。新しい組織が作られては消え、安定しない。これは大きいですよ。安定した組織がないということは、労働者にとっては居場所が確保できないということになる。

― 人との付き合いを避ける若手社員であっても、居場所を求めているのでしょうか。

もちろん。若い人は組織の一員になることへの忌避はすごく大きい。生涯同じ会社でなんて考えていないし、職を転々とする人も増えている。一匹狼は楽だもの。組織に入ったら制約は多いし大変。でも裏腹に本当は居場所がほしいという面がある。自分が居場所を提供してもらうためには人に居場所を提供しなければならない。そういう考え方がない。一方的になりがちなんです。 

メンタルヘルス不調の予防に向けて

― お話しいただいた若手社員の現状を踏まえて、メンタルヘルス不調を予防していくために、企業はどのようなことに取り組んでいけばよいでしょうか。

大きく分けると、採用とマネジメントの2つのポイントがあると思います。
採用で課題に感じるのは、ビジネスの先々ではなく今のニーズばかりを見て採用している点です。とりわけ中途採用は即戦力を求めるため、どうしてもスキルセット重視で採用する。そのスキルセットもきちんと評価できているのかという問題がある。

― スキルセットに目が行き過ぎて失敗する……。

そう。採用したものの馴染めないためにメンタルヘルス不調になる。仕事そのもの如何より、まずそこに馴染めるかどうかを採用時に見ることが大事です。特に中途採用の場合は事業部の意向が強いため、人事も口を挟めないことが多いようですが、ビジネスに必要なスキルセットに加えて人間力、協調性、リーダーシップといった点を見ていくよう働きかけが必要です。

― では、マネジメント面の課題とは。

ひとつはマネジメントのコミュニケーション力が低下していることです。よく若い人のコミュニケーション力が問題にされますが、マネジメント側もコミュニケーションが下手になっていると感じます。メンタルヘルス不調者に対して我々がサポートしているのは、彼/彼女らが現実を受け止め、納得するプロセスをどう踏んでもらうかです。マネジメントもメンバーにちゃんと背景を説明して、互いの認識の違いやギャップを埋めていくことが重要です。もうひとつは組織体制の課題。マネジメントが弱くなっていると話しましたが、実際マネジャーひとりが全てを見るのは無理があります。ひとりが見られる人数は7、8人が限界。そこで7、8人単位のチームを作ってリーダーをアサインしていくことが有効です。これは業務上のチームではなく面倒をみるチーム。この単位なら各リーダーがそれぞれの特性を見ることができ、仕事量や特性を生かした適切な業務分担ができるし、コミュニケーションも十分にとれるようになります。こうした組織の作り方、リーダートレーニングにもっと力を入れていく必要があると考えます。

企業におけるメンタルヘルス対策を効果的にするために

― 最後に、専門家からご覧になって、企業におけるメンタルヘルス対策の現状の課題と、今後のあり方についてどのようにお考えですか。

企業に携わっていると、メンタルヘルス対策をはじめ教育や採用といった人事施策が会社の中長期的なビジネスプランと連動せず、分離してしまっていると感じます。メンタルヘルス対策はもぐらたたきをやっても仕方がない、出てきた問題だけを対処していても仕方がありません。先々のビジネスプランの実現に連動するように、そもそもの発生の元を絶たなければいけない問題です。

― 発生の元を絶っていくためにはどのようなことが効果的でしょうか。

従業員のモチベーション、モラール向上といったプラスの方向を目指した対策をとることです。モチベーションが高まればリテンションも高まるし、当然生産性も上がります。ミスが減るから不良品率も減る。これらが悪循環に陥るとメンタルヘルス不調につながります。モチベーションの向上とメンタルヘルス解決は表裏の課題といえます。また、メンタルヘルス不調はひとたび発症すれば、企業における大きなコストとなる問題です。費用対効果を考えても、メンタルヘルス対策は企業の生産性を維持向上していくための投資と位置づけてほしいですね。

― ありがとうございました。

(インタビュー・文:佐野洋子)

研究者PROFILE

島 悟(しま さとる)氏
京都文教大学人間学部臨床心理学科教授 / 神田東クリニック院長 

●略歴
慶應義塾大学医学部卒業後、 同大学医学部精神神経科学教室助手、日本鋼管病院神経科医長・精神衛生室室長などを経て、現在神田東クリニック院長と京都文教大学人間学部臨床心理学科教授を務める。精神科医、医学博士。

また、学会活動として日本産業精神保健学会常任理事、公職として独立行政法人労働者健康福祉機構東京産業保健推進センター相談員を担うなど、勤労者のメンタルヘルス問題の解決のために、積極的に活動を行っている。


●主要著書・論文●

『職場のメンタルヘルスハンドブック』(編著)学芸社
『産業カウンセリングハンドブック』(分担執筆)金子書房
『心の病―治療と予防の現在』(分担執筆)労働調査会
『メンタルヘルス入門』日経文庫
『ストレスマネジメント入門』(共著)日経文庫 など多数

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