調査レポート
2023年 新入社員意識調査【後編】
「個」の尊重へ向かうZ世代を生かすための鍵
- 公開日:2023/07/14
- 更新日:2024/05/16
前編では、意識調査の結果から注目したい傾向と考察を述べてきました。後編は、さらに新入社員の特徴、若手層に起きがちな問題とその仮説、適切な若手層へのかかわり方の3つの視点から考察を行っていきます。
- 目次
- 高まる「個」への意識
- 「意味・価値が大事」「合うものを選ぶ」Z世代 上司世代との“当たり前”の差異が広がる
- “当たり前”の差異が生む分断 キーは「共通目的」
- 「共通目的」設定における2つのポイント
- 最後に
高まる「個」への意識
今回の調査結果を総合的に見ると、新入社員のなかで「個」への意識が、ますます高まる傾向が見えてきました。働きたい職場、上司に求めること、身につけたい力の項目を筆頭に、「お互い」や「個性」、「一人ひとり」など、「個」を意識させるワードを含んだ選択率が増加し、一方で、価値観を一体化していくことを連想するような項目の選択率は減少しています。
まず、「個」への意識が高まってきた背景はどのようなところにあるのか、見ていきましょう。新入社員が育った社会の出来事をピックアップしました。
新入社員の学生時代の生活は、オンライン環境の発展によって、急速に変化してきました。代表的な出来事として「iPhone」のリリース、SNSの多様化によるコミュニケーションツールの発展、個人の所有するデバイスを経由してドラマや映画などの余暇を身近に体験できるようになったことなどが挙げられます。それによって、環境に縛られることなく、自分の興味がある分野を、自由自在に広げやすくなったといえます。
例えば、ここまでオンライン環境が充実していなかった時代は、交友関係も実環境に大きく左右されていたと思います。学生時代であれば、自分の主な世界は、学校やサークル、アルバイトなど限定的な人とのかかわりが多かったと予想します。居場所が限られているので、たとえそこが自分と合う場所ではなかったとしても、交友関係をつくりたいのであれば、自分を環境に合わせていくしかありませんでした。それと比較すると、新入社員の学生時代は、学校などの今いる場所が合わないのであれば、SNSなどを駆使し、自分が心地よい場所を新たに見つけることもできました。無理して環境に適応させずとも、自分のままで楽しめる場所に移りやすくなったといえるでしょう。
また、社会全体に目を向けると、「リーマンショック」から始まり、「東日本大震災」「新型コロナ」「ロシアのウクライナ侵攻」などに代表される大きな情勢変化や震災・パンデミックが起きました。今後どうなるか分からない不確実要素が社会全体に広がっていることも、外に目を向けるよりも内に目を向ける動きに繋がったとも考えています。
「意味・価値が大事」「合うものを選ぶ」Z世代 上司世代との“当たり前”の差異が広がる
次に、「個」の意識が高まっている新入社員(=Z世代)は、どのような特徴があるのかを見ていきます。さまざまな価値観が受容され、選択肢に溢れる一方、この先どうなるか分からない不確実な社会のなかで、自分がやっていけるのかという不安も感じているZ世代。今回はそのなかで生まれた2つの特徴を紹介します。
1つ目は、「意味・価値を大事にする」特徴です。Z世代は、「それは何のためにするのか」「自分がやる必要があるのか」、物事の意味や価値を大切にする傾向があります。2つ目は、「合うものを選ぶ」特徴です。自分に合うか合わないかを早めの段階でジャッジし、自分に合うと思ったものを選び、逆に、合わないと思ったものに見切りをつけがちです。
上司世代からすると、これらの特徴に、頭を悩ませることが多いかもしれません。
例えば、意味・価値を大事にしているZ世代から「この仕事は、やる意味ありますか?」と逐一問われ、上司からすると、今までに発生していなかったコミュニケーションコストがかかり困惑する、などの声をいただくことがあります。
また、自分により合うものを選びたいZ世代のなかには、職場配属に関して「配属ガチャに外れた(希望の配属先に行けなかった)」「上司ガチャに外れた(自分とは合わない上司の部下になってしまった)」という感覚を持つ人もいます。自分の希望が叶わなかった場合、やる気をなくしてしまったり、早期離職になってしまったりするケースも生じています。
これらのケースは、多くの企業から「問題だ」と相談いただくことが多いですが、Z世代からすると、あくまで“当たり前”の言葉や行動であり、上司世代を悩ませたいと思っているわけではないのです。
では、両者が持つ“当たり前”とは、どのようなものでしょうか。
よくあるシーンを深掘りして考えていきます。
【 意味・価値大事 】
「この仕事は、やる意味ありますか?」と質問をしたZ世代の言動の背景には、まず選択肢を集めて、そのなかから、より自分に合う選択肢を選ぶ意識があったり、行動にうつす前に頭で納得したいという気持ちを持っていたりします。また、タイムパフォーマンスを意識し、時間をかけず効率的にアウトプットを出したいと思う傾向もあります。
一方、上司世代からすると、まずは目の前のものを深めたり、やってみながら、意味や価値を見出していったりすることを是とする人も多いでしょう。また、すべての経験に意味があるという意識を持つ傾向もあります。
全体の傾向として考えると、Z世代は「納得してからやる」傾向を持ち、上司世代は「やりながら納得していく」傾向を持ちます。
【 合うものを選ぶ 】
Z世代は、よりマッチした環境を早期に見つけたい、早期に見つけるためには合わないものに時間をかけていることはリスク、周囲の環境に働きかけをするよりは、自分がその場所を諦めた方がスムーズに事は進むという意識を持つ人も多いです。また、自分が希望する条件設定をあらかじめ行い、条件を適合させる形で周囲の環境を捉える傾向もあります。
一方、上司世代からすると、自分次第で合うものにしていくこともできるという意識や、嫌なことも向き合うなかで可能性を見出していけるという意識を持つ人が多いです。また、理想の環境と異なっていても、自分がものの見方を広げることで適合させていけると感じる傾向もあります。
全体の傾向として考えると、Z世代は「数多くから合うものをマッチングする」傾向を持ち、上司世代は「目の前のことを合うものにしていく」傾向を持ちます。
Z世代と上司世代の言動の背景を読み解くと、Z世代と上司世代の“当たり前”が異なってきていることが分かります。
育ってきた環境・経験が異なっているので、“当たり前”が異なることは当然ですし、それぞれの“当たり前”そのものには、良し悪しや正否はありません。しかし、人間の特性として、異なるものについては拒否反応が出たり、排除しようとしたりすることがあり、異なる“当たり前”は関係性を分断する要素になる可能性があります。
さらには、社会変化のスピードが増し、過去よりも短期間でギャップが広がりやすくなっていくであろう昨今、“当たり前”の差異は拡大していくことが予想でき、手を打たずにおくと分断は広がり、事業・組織の持続的成長の観点でマイナス影響が大きくなる恐れもあると考えています。
では、どのようにしていけばよいのでしょうか。
“当たり前”の差異が生む分断 キーは「共通目的」
“当たり前”の差異が拡大している昨今、伝え方を優しく丁寧にしただけでは、差異は埋められなくなってきました。
例えば、今の仕事が自分の希望に合わず、異動を希望したZ世代に、共感・傾聴をしたうえで、優しくアドバイスしたとしても、そのアドバイス内容が伝わらないことも起こり得ます。伝わらないどころか、Z世代に心のシャッターを閉じられてしまったかのように、それ以降何も相談されなくなった、というケースも耳にします。こういったケースはまさに、“当たり前”の差異が拡大することで、さまざまなコミュニケーションアプローチが機能しにくくなっている表れだともいえるのです。
そのような状況のなかで、“当たり前”の差異へどのような打ち手を打てばよいでしょうか。 “当たり前”の差異をプラスに転換するキーは、「共通目的」です。
差異が広がるなかで、差異そのものに触れることは、非常に面倒な行為になります。差異そのものに、明確なメリットがなければ、差異を感じる相手をますます遠ざけ、分断は広がるばかりです。そこで、「共通目的」を置くことによって、マイナスに捉えがちな差異を、物事をより良くするプラスの素材に転換させます。差異そのものを確実なメリットにするのです。
「共通目的」設定における2つのポイント
それでは、共通目的を実際に設定していくなかで、意識すべきポイントを2つ紹介します。
1. 小単位での設定
1つ目は、「共通目的」を会社など大きな単位のみではなく、部・課・チーム・あなたと私など小さな単位でも設定していくことです。一人ひとりの“当たり前”が多様化する現代だからこそ、分かってくれているはずという考えは、通用しにくくなってきています。そのため、今までは何となく築けていた、小単位の関係性のなかでも、目的のすり合わせがますます重要になってきます。
例えば、新入社員と育成担当者との30分の1on1の時間でも、「今からの時間は、Aプロジェクトをより良くしていくための意見出しの時間にしよう」など、目的やゴールをお互いに合意したうえでスタートすることをお勧めしています。
2. 「共創」と「共感」をもとにした設定
2つ目は、「共通目的」を設定するプロセスにおいて「共創」と「共感」のスタンスを取り入れることです。Z世代は、選ぶ余地のない画一的な決め事や、自分にとって納得感のない目的に抵抗感を感じやすくなっていることもあり、この要素は一層重要になってきています。
共創のスタンスは、異なる価値観を生かし合い、学び合いながら共に創っていく姿勢です。目的自体を共に創っていくことと、目的の実現方法を共に創っていくことの、両者が考えられます。また、共感は、かかわる相手への共感と、目的に対する共感があります。前者は、「共通目的」を共に創る参加者同士が、表面の言動のみではなく、背景を一段深掘りする問いなどを用い、より深い価値観を引き出し、肯定的に受け取って味わうプロセスのなかで生まれます。後者は、目的に対し、自分なりの意味付けを行い、目的を自分事化していくプロセスのなかで生まれます。
「共創」と「共感」は、身近なところでも起こり得ます。
例えば、先ほどケースで出した、今の仕事が自分の希望に合わず、異動を希望したZ世代に対するアプローチをもとに見ていきましょう。
Z世代の相談に対し、表面的な内容に対する解決策をすぐに出さず、背景を問いかけます。そこでより本音や価値観に近い内容を引き出し、共に「共通目的」を創っていきます。
Z世代の本音や価値観を引き出すのは、ある一定の時間を要する場合もありますが、時間をかけてもZ世代から本音や価値観が出てこなかったり、出てきたとしても職務と上手く繋げられなかったりすることもあるかと思います。
その際には、上司世代からZ世代への期待を言語化して伝えるなどして、「共通目的」を創る投げかけを行うことも有効です。Z世代に、事実をもとにしてフィードバックを伝えたうえで、上司世代としてZ世代に何を期待しているかを具体的に伝えましょう。フィードバックの観点としては、上司世代から見て、得意そうだと感じる業務や楽しそうにしている場面などポジティブな事象が有効です。Z世代本人のなかで、強みが認識できていないことも多いため、周囲からどう見えているのかも含めて伝えることをお勧めします。
自分のことを見てくれている上司世代からのメッセージは、Z世代の共感を引き出す可能性も高いです。
「共通目的」を共に創るなかで、お互いの本音や価値観を前向きに味わうたびに、関係性の分断は少しずつ解けていきます。“自分とは違う人”と捉え距離を置いていた人とも、“協働者”としてフラットに繋がれるようになるのです。自分を知ってくれる協働者が場に増えていくと、さらに本音や価値観を言いやすくなり、「共通目的」も創りやすくなります。このようなサイクルが回り始めると、問題解消だけにとどまらず、さまざまなところで頻繁に前向きなトライが生まれ、思いがけない発展が起こってくるでしょう。
このような状態になると、差異はマイナスには捉えられず、むしろ協働者の間では「もっと異なる、突拍子のない意見も出してほしい」などの声も上がるようになり、差異は物事を加速させたり、変革させたりするプラスの素材に転換していきます。差異そのものは、協働者にとっても、そして組織全体にとっても、確実なメリットになっているはずです。
小さな単位からでも「共創」「共感」を起こし、「共通目的」を創っていく動きは、不確実なビジネス環境下で、事業・組織の持続的成長を促すキーともいえます。
最後に
異なる“当たり前”を超えて、共創・共感を生み出していくことは、非常に難度の高いことだと考えています。そこに向き合うことをリアルに想像すると、「共に頑張りましょう!」と無邪気には言えないというのが正直なところです。しかし、当たり前の“差異”がさらに深刻になり、取り返しのつかない分断が生まれる未来を想像すると、ここで諦めたくはないと強く感じます。
会社全体など大きな単位で、行動を起こしていくことを目指すと、果てしなく感じてしまいますが、今回最もメッセージしたいことは、「あなたと私」の間でも共創・共感による共通目的は生み出せるということです。新入社員と育成担当者との間、所属するチームのなかなど、誰もが身近なところでも起こすことができ、それが数多く集まると、大きなエネルギーにもなり得ます。
実は、弊社内でもジェネレーションギャップによる問題意識は上がっていました。その問題意識をそのままにせず、「ジェネレーションギャップを味わい楽しむ会」や「Z世代を知る会」の場を設け、お互いの言動の表面部分のみではなく、その背景を認知したり、そのうえで、どのようなやり方がお互いにとってより良いかを話し合ったりしています。
もちろん、数回ですべてが解決するわけではないのですが、参加者からは、「Z世代の考えていることは、上司世代が感じていることと変わらないところもあることに安心した」「Z世代側も積極的に歩み寄ることが大事」「もっと対話を深め、より良い方法を模索したい」など前向きな感想が寄せられました。また、参加者からの口コミで、参加できなかった人からの問い合わせも入り、当初期待した以上の広がりを見せています。自分の身近な分断に背を向けず、向き合うことが非常に重要だということ、そして、前向きな動きは伝播するということを身をもって実感しています。
難度が高い新人・若手育成。頭を悩ませることも多いかと思います。しかし、小さなトライから兆しが見え、そこから良い兆しが伝播していき、結果的に全体が変わっていったというケースもよく耳にします。
まずは、目の前の自分ができることから、小さなトライを始めてみませんか。 育成手法も正解がない時代のなかで、ぜひ共に、新人・若手育成をより良くしていく方法を見つけていきましょう。
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
研究員
武石 美有紀
2014年大学在学中に個人事業開始。 2016年リクルートキャリア(現リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は、リクルートマネジメントソリューションズ にて、主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。
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