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調査レポート

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ 第6回

個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

  • 公開日:2022/07/15
  • 更新日:2024/05/16
個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

弊社、組織行動研究所では、企業各社において、仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策がどのように検討され、導入、活用されているのかを調査し、296社の回答結果を報告書「ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメント─社内キャリアの可能性を広げる施策導入・活用のポイントと社内公募制度、副業・兼業制度の運用実態─」にまとめ発表した。本調査レポートではその報告書の内容を、全6回シリーズでご紹介してきた。


第1回 ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメントにつながる個人選択型HRMとは、その導入実態
第2回 個人選択型HRMを後押しする人材マネジメントや評価の特徴とは
第3回 社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント
第4回 副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念
第5回 異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響~個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型
第6回 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

調査概要
個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント
まとめ

調査概要

本調査レポートでは、個人選択型のHRMを、「仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群による人材マネジメント」と定義し、第1回、第2回では、23の施策群の導入実態と促進要因について、第3回、第4回ではそれぞれ社内公募制度と副業・兼業許可の実態について、第5回では異動・配置について報告した。

第6回では第1~5回を振り返り、個人選択型HRMの導入・活用に向けたポイントを、3つに絞って考察する。

調査の実施時期、実施対象など調査概要は図表1のとおりである。調査対象とした個人選択型の23施策を図表2に示す。

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

<図表2> 個人選択型の23施策

<図表2> 個人選択型の23施策

個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

第1~5回のレポートを踏まえ、今後、個人選択型のHRMの導入・活用を進めていくうえでのポイントを3つに絞って挙げていく。

◆ ポイント1:個人選択型HRMは、明確なポリシーのもとでこそ機能する

無計画に、あるいは社会のニーズに応えるだけのリアクティブな姿勢で個人選択型のHRMを導入することは、組織のさまざまな機能に混乱をもたらしかねない。明確な目的意識と、目的に沿った複数の施策間の整合性が重要である。

具体的には、個人の選択や生き方を尊重し個人を生かそうとするマネジメント側の本気があってこそ、個人選択型HRMは活用され、機能すると考えられる。

第2回レポートにおいて、個人選択型HRMの諸施策は、企業のキャリア自律を求める度合いにともなって導入・活用されていたことがその証左といえる。

また、そのようなキャリア自律方針が、無責任や放任主義とは異なるものでなければならないことを強調しておきたい。その重要さは、第5回レポートにおいて、個人選択型と選抜型・底上げ型を組み合わせる異動・配置が、現場力などの組織能力を強くしていたことに表れている。個人選択型HRMが光を当てる多様な人材や異能人材の働きを、みすみす個人主義や部分最適に陥らせないために、個人選択型を取り入れる場合にこそ会社主導の人物理解や人材交流・能力開発の取り組みが重要となる。

他方で別の言い方をすれば、施策の目的やその背景にあるポリシーが明確であれば、個人選択の幅にある程度の制約を設けることはその活用を妨げる要因とはならない。

第3回第4回レポートで取り上げた社内公募制度と副業・兼業許可の個別施策の運用において、制度がより活用されている企業群の特徴として「制度対象者や適用資格は明確に、対象者における選択の幅は広く対話的に」という傾向が見出された。制度の活用が広がると個人のニーズと組織のニーズのアンマッチやミスマッチの場面が増え、個人のモチベーションを損なうリスクが生じる。そのような事態を避けるために、対象者を絞ったり適用基準を設けたりすることが必要となるが、それらの基準が、明確なポリシーに沿って一貫していることこそが肝要である。

◆ ポイント2:自己理解と仕事・組織理解の情報を増やす

仕事やキャリアを自ら考え、選ぶことは、自己の能力や適性についての情報と、社内にどのような組織や仕事があるかについての情報がないと難しい。第2回レポートにおいて、具体的な取り組みへの2つのヒントが得られた。

1つ目は、人事評価を、学習指向でフィードバックの多いものに変えていくことである。具体的には、失敗を咎めることなく称賛する姿勢をもって個人をマネジメントし、仕事のプロセスで明らかになった個人の強みや成長課題を、評価制度などを通じて本人にフィードバックして伝えていくことである。個人は、自己理解を豊かにすることで、どのような機会を求めれば組織のなかで自分を生かすことになるのかを考える材料を得ることができる。

もう1つは、他部署・経営情報を開示することである。具体的には、他部署の戦略や業務内容を知らせる機会や、経営や事業上の意思決定に関わる議事録などを公開し、その経緯を共有することなどである。それは、個人が組織にある仕事とその文脈を理解することにつながり、個人は社内キャリアの可能性を知り、主体的にキャリア戦略を考える材料を得ることになる。

さらに重要なことは、これらの情報開示の効果を、目の前の仕事の意義を見つめ直すマネジメントにつなげることである。

選択機会が増えれば、希望がかなわず失意が生まれる場面も出てくる。上司やHR施策を通じて、個人が自分の仕事を前向きに意味づけられるような関わりを積極的に行うことが重要であり、自己理解と仕事・組織理解の情報はそのための材料になる。

逆説的でもあるが、個人選択型HRMの本質は、選び直すことによってキャリア満足度を上げることではなく、目の前の仕事を選んでいる意識によってキャリアに自信がもてる状態を目指すことと考えるべきだろう。

◆ ポイント3:異動・配置のポリシーミックスによって、組織能力への効果が異なる

企業は、自社が求める効果や社員の特性に合わせて、個人選択型と会社主導型の施策における自社最適のブレンドを見出す必要がある。第5回レポートの示唆を基にすれば、具体的には次のようなことを考慮して、個人選択型と会社主導型のミックスを考えることが有効だろう。

女性や若手など、これまでその組織で主流ではなかった多様な人材の活躍や動機づけを重視するならば、あえて会社主導の異動・配置を抑制し、個人選択型を強調した異動・配置を行うことを考えたい。

会社主導で、つまり上司や人事が人選して育成や抜擢のための異動・配置を行う場合には、人物理解に時間がかかったり、その組織において伝統的な選抜基準が再生産されたりするために、これまでの伝統的基準とは異なる多様な人材や異能をもつ人材が見出されにくい側面がある。そのため、あえてそれら会社主導の異動・配置を抑制する意味がある。

個人選択型の機会がそれなりに浸透して、むしろ、個人主義化や無秩序化が心配になる兆しがあるのならば、あらためて人物理解に努め、それを根拠とした会社主導の人材交流・能力開発に取り組む必要があるだろう。本調査からの示唆によれば、部署を超えてメンバーが力を合わせ主体的に行動する現場力には、個人選択型だけでなく、選抜型・底上げ型の異動・配置の併用が関連している。

個人主導型HRMの導入後に、あるいは並行して行う会社主導の人物理解には、個人の側に蓄積される情報も多くなっていることから、会社主導一辺倒のHRMを行っていた時代の人物理解よりも、現場や個人の文脈に踏み込んだ能動的な活動が必要となるだろう。人事や管理職が個人と対話する技術をもつことや、データ活用なども含め人物理解の多様な手段をもつことなども必要となってくると考えられる。

<図表3> 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

<図表3> 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

まとめ

本調査では、個人選択型のHRMを「仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群による人材マネジメント」と定義し、施策の導入・活用や、運用の実態把握および組織能力や人材マネジメント指標との関連を検討した。

個人選択型の施策を自社の人材マネジメントに取り入れる意義(Why)や、具体的な施策のイメージ(What)、運用面で気を配るべきこと(How)などをお伝えすべく、全6回のレポートシリーズをお届けしてきた。

個人選択型HRMは放任主義などではなく、むしろ社員を知り、尊重する姿勢が会社側に求められる。このことが、本調査から見いだされた示唆であったといえるだろう。その際、マネジメントには、指示命令型ではなく、情報提供を基盤とした自律支援型への転換が求められる。

個人選択型施策を含むHRMのデザインが、多様な人材の活躍としなやかな組織づくりの両方に資するものとなるために、本調査がその検討材料として貢献できることを願う。

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