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調査レポート

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ 第5回

異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響 〜個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型

  • 公開日:2022/07/11
  • 更新日:2024/05/16
異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響〜個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型

弊社、組織行動研究所では、企業各社において、仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策がどのように検討され、導入、活用されているのかを調査し、296社の回答結果を報告書「ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメント─社内キャリアの可能性を広げる施策導入・活用のポイントと社内公募制度、副業・兼業制度の運用実態─」にまとめ発表した。本調査レポートではその報告書の内容を、全6回シリーズでご紹介していく。


第1回 ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメントにつながる個人選択型HRMとは、その導入実態
第2回 個人選択型HRMを後押しする人材マネジメントや評価の特徴とは
第3回 社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント
第4回 副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念
第5回 異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響~個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型
第6回 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

調査概要
会社主導型の異動・配置と、個人選択型の異動・配置
異動・配置ポリシーの組み合わせは4タイプ
組織を強くする異動・配置の組み合わせパターンはどれか
【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】の異動・配置が組織の「変革実行力」「現場力」「求心力」につながる
【個人選択中心タイプ】の異動・配置を行う企業では離職率が低く、多様な人材に活躍の機会がみられる傾向
まとめ

調査概要

本調査レポートでは、個人選択型のHRMを、「仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群による人材マネジメント」と定義し、第1回、第2回では、23の施策群の導入実態と促進要因について、第3回、第4回ではそれぞれ社内公募制度と副業・兼業許可の実態について報告した。

第5回では、異動・配置に焦点を合わせ、変革実行や現場の協力といった組織能力や、離職率などの指標との関連を分析する。

調査の実施時期、実施対象など調査概要は図表1のとおりである。

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

会社主導型の異動・配置と、個人選択型の異動・配置

多くの人が仕事を分担して働く組織において、仕事やキャリアを「個人選択」することはどの程度実現可能なのだろうか、また、有益なのだろうか。そう考える時、異動・配置は気になるテーマの一つだろう。中長期的な要員計画や人材開発計画との整合性の観点からいえば、従来行われてきたような、会社主導での異動・配置は合理的でもあり、個人選択型の異動・配置はそれらの計画をかく乱する要因ともなり得る。

そこで本調査では、会社主導型と個人選択型の異動・配置が、それぞれどのような従業員を対象として行われているのかを調査した。そして、どのような異動・配置の組み合わせが組織に望ましい影響をもたらしているのかを検証してみることにした。

会社主導型の異動・配置として「選抜型」「底上げ型」「欠員補充型」を挙げ、「個人選択型」と合わせて4種類のポリシーに基づく異動・配置について、それぞれが一般社員各年代層および管理職の課長層・部長層以上におけるどの対象に実施されているかをたずねた。

<図表2>4種類の異動・配置ポリシーの選択

次のような異動・配置方針は、貴社における従業員区分※にそれぞれ適用されていますか。適用されているものをいくつでもお選びください。

<図表2>4種類の異動・配置ポリシーの選択

※従業員区分は以下の6種類
・正社員(一般社員):20代前半まで/20代後半~30代前半/30代後半~40代前半/40代後半以上
・正社員(管理職):課長層/部長層以上

異動・配置ポリシーの組み合わせは4タイプ

会社主導の「選抜型」「底上げ型」「欠員補充型」、そして「個人選択型」の異動・配置の適用対象について、クラスター分析というパターン分析の手法を用いて分類した結果、次のような4タイプが見いだされた。

【底上げ中心タイプ】

一般社員層への「底上げ型」以外の異動・配置をほとんど行わない(92社)

【個人選択中心タイプ】

底上げ中心タイプとは反対に「底上げ型」を4タイプのなかで最も行わない。企業主導型の異動・配置がいずれも少なく「個人選択型」に偏っている(72社)

【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】

「底上げ型」の異動・配置を一般社員・管理職に広く行いつつ、一般社員に「個人選択型」、一般社員だけでなく管理職層にも「選抜型」の異動・配置を行う(75社)

【欠員補充中心タイプ】

「欠員補充型」の異動を基本としつつ、一般社員だけでなく管理職も「底上げ型」の異動・配置の対象とする場合がある(57社)

それぞれのタイプに分類された企業群が、「選抜型」「底上げ型」「欠員補充型」「個人選択型」それぞれの異動・配置ポリシーについて、一般社員の各年代層および管理職の課長層・部長層以上を適用対象としている割合を集計したものが図表3である。

<図表3>異動・配置ポリシーの組み合わせ4タイプ<複数回答/n=296>

<図表3>異動・配置ポリシーの組み合わせ4タイプ

組織を強くする異動・配置の組み合わせパターンはどれか

このような異動・配置ポリシーの組み合わせは、組織の能力を高めることにつながっているのだろうか。図表4に表した分析モデルで検証してみることにした。

検証観点1:主観的組織能力

異動・配置ポリシーの組み合わせは「変革実行力」「現場力」「求心力」の3つの組織能力に影響を及ぼしているのだろうか

 「変革実行力」:事業や組織の先々を見据え、決定事項を実行に移す組織能力

 「現場力」:部門の枠を超えて協力し、現場が主体的な問題解決を行う組織能力

 「求心力」:組織に愛着や信頼があり仕事に前向きに取り組むといった組織能力

検証観点2:客観的組織能力

人材引き留め(離職率の低さ)に効果的なのはどの異動・配置タイプか

多様な人材(女性、若手)の活用が進んでいるのはどのタイプか

<図表4>異動・配置タイプから組織の能力への影響の検証モデル

<図表4>異動・配置タイプから組織の能力への影響の検証モデル

【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】の異動・配置が組織の「変革実行力」「現場力」「求心力」につながる

6つの結果変数それぞれに対して、要因変数が影響を及ぼしている程度を表す重回帰分析という手法で検証し、図表5にその結果を整理した(係数が統計的に有意または有意傾向の水準に達したもののみを矢印で記載)。

正の係数であれば要因変数が高いほど結果変数も高い、負の係数であれば要因変数が高いほど結果変数は低いという関係があることになる。

分析の結果、3つの組織能力に対して、【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】のみが、有意な正の影響を与えていた(図表5)。

選抜・底上げという会社主導型の異動・配置ポリシーと、個人選択型の異動・配置ポリシーを両方用いる組み合わせが、高い組織能力と関係していることが明らかになった。

<図表5>異動・配置タイプから組織の能力への影響(重回帰分析結果) <n=296>

<図表5>異動・配置タイプから組織の能力への影響(重回帰分析結果)

【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】との間に最も強い関係がみられた組織能力は、「現場力」であった。「現場力」は、逆境や問題に際して従業員が主体的に提案し行動を起こしたり、厳しい状況においてもポジティブな機会に目を向けたり、部門の枠を超えた取り組みが積極的に行われたり、といったしなやかな現場活動を捉えたものである。

異動・配置タイプごとの「現場力」の平均値を集計してみると(図表6)、重回帰分析の結果と同様に、【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】の企業群で「現場力」が高いことが確認できる。

<図表6>異動・配置タイプごとの「現場力」の平均値

貴社の組織の特徴として、以下のことはどの程度あてはまりますか。それぞれの項目について、「1.あてはまる」から「5.あてはまらない」までの5段階でお答えください。<単一回答/n=296>

※「現場力」の得点は、「逆境や問題に際して、従業員が主体的に提案し行動を起こす」「厳しい状況においても、ポジティブな機会に目を向ける」「部門の枠を超えた取り組みが積極的に行われている」など6項目の回答(1~5)を平均

<図表6>異動・配置タイプごとの「現場力」の平均値

【個人選択中心タイプ】の異動・配置を行う企業では離職率が低く、多様な人材に活躍の機会がみられる傾向

組織の能力の客観的指標への影響では、【個人選択中心タイプ】において、正社員離職率が低く、女性管理職比率(部長相当職)が高く、最年少昇進年齢(部長相当職)が低くなる傾向、【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】で離職率のみ低くなる傾向がみられた(図表7)。

図表7は、異動・配置タイプごとに指標の平均値を集計したものである。重回帰分析と同様の傾向がみられ、部長クラスの最年少昇進年齢には【個人選択中心タイプ】と【底上げ中心タイプ】の間に統計的に有意なポイント差が確認された。

<図表7>異動・配置タイプごとの「現場力」の平均値

正社員の離職率(数値でお答えください:概数で結構です)、
全管理職に占める女性の割合(数値でお答えください:概数で結構です)、
貴社の過去2~3年間の各階層への最年少の昇進・昇格年齢は何歳ですか(数値でお答えください:概数で結構です)。
<数値回答/n=296>

<図表7>異動・配置タイプごとの「現場力」の平均値

個人選択中心の異動・配置タイプが、低い離職率や女性や若手の管理職としての活躍と関連するのはなぜだろうか。【個人選択中心タイプ】は、20代後半以降の一般社員に個人選択型の異動・配置を行う一方で、底上げ型の異動・配置が少ないことが特徴である。このことから、底上げ型の異動・配置の弊害が、女性や若手の抜擢に表れやすい可能性が考えられる。つまり、次のようなことが起こっているのではないだろうか。

選抜型や底上げ型の異動・配置を個人選択型と併用することが、部門の枠を超えた連携や組織の決定事項の遂行に関連する組織能力を高めていたことを先に述べた。選抜型や底上げ型の異動・配置を行う企業では、部署を超えて人を理解したり育成したりする機会が増える。結果的に、組織にタテやヨコの人のつながりや関心が生まれ、さまざまな組織能力の向上につながるのではないだろうか。

しかし、底上げ型の異動・配置を通じた人物理解には時間がかかる。また、上位者の評価を取り入れた人選が行われることで、伝統的な価値基準の強化・再生産につながる側面があり、従来の組織における多数派の属性に高い評価が偏る可能性もある。よって、あえて底上げ型の異動・配置を行わず個人選択型を重視した異動・配置を行うことによって、女性や若手をはじめとする多様な人材の抜擢や活躍につながっていることが考えられる。

ちなみに、企業属性の影響としては、製造業では非製造業よりも女性管理職比率が低くなる傾向、過去2~3年の業績基調が同業他社に比べて高い企業ほど部長への最年少昇進年齢が低くなる傾向がみられた。

重回帰分析は複数の要因からの影響を比較しつつそれぞれの固有の影響度を分析する手法であるため、異動・配置タイプから各指標への影響は、業種や業績基調の違いを問わずに生じていると考えられる。

つまり、製造業や業績基調のよくない企業においても、その水準なりに、【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】による組織能力を高める効果や【個人選択中心タイプ】による客観的指標に影響を与える効果が認められた。

まとめ

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ第5回では、会社主導型と個人選択型の異動・配置ポリシーの組み合わせの実態と、その影響について検証した。

異動・配置ポリシーの組み合わせには4タイプが見いだされたが、そのなかで個人選択型を採用するかしないかは二極化していた。明確に個人選択型を採用しないのが【底上げ中心タイプ】【欠員補充中心タイプ】であり、一般社員を中心に幅広い層に活用していたのが【個人選択中心タイプ】【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】である。

個人選択型の異動・配置を行う2タイプはほぼ同数の企業があり、【選抜・底上げ・個人選択併用タイプ】は、個人選択型と会社主導型の異動・配置を併用している。つまり、異動・配置は、会社主導型か個人選択型かの二者択一のみを迫る施策ではなく、それらを組み合わせる選択もあり得ることが本調査により明らかとなった。

そして、異動・配置ポリシーの組み合わせ方によって、組織能力への効果が異なる可能性が示唆された。

第1に、個人選択型を中心とする異動・配置は、女性や若手などの多様な人材の活躍や動機づけに有効と考えられる。本レポートシリーズの第3回でも、若手・中堅社員のモチベーション向上が、社内公募制度の効果実感として認められていた。

第2に、多様な人材を生かす効果のある個人選択型に加えて、選抜型・底上げ型という会社主導の異動・配置が併用されることで、部署を超えた人物理解や関係性構築が進み、変革実行力・現場力・求心力などの組織能力が高まることが示唆された。

個人選択型の異動・配置には、その組織において多数派・伝統的ではなかった人材が活躍しやすい機会や環境をつくる側面があり、そのことが組織を活性化する可能性がある。その一方で、冒頭にも述べたように要員計画や人材開発計画を乱し、結果として個人主義や部分最適を助長するリスクもはらんでいる。

本調査の結果からは、会社主導型の異動・配置ポリシーも組み合わせて、ラインや人事部門による組織横断的な人物理解や関係性構築を行うことで、個人選択型の利点を伸ばし、自由なだけでなくしなやかな組織能力を育んでいける可能性が示された。

次回は、第1回から第5回のレポートを振り返り、総括する。

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