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調査レポート

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ 第4回

副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念

  • 公開日:2022/07/04
  • 更新日:2024/05/28
副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念

弊社、組織行動研究所では、企業各社において、仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策がどのように検討され、導入、活用されているのかを調査し、296社の回答結果を報告書「ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメント─社内キャリアの可能性を広げる施策導入・活用のポイントと社内公募制度、副業・兼業制度の運用実態─」にまとめ発表した。本調査レポートではその報告書の内容を、全6回シリーズでご紹介していく。


第1回 ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメントにつながる個人選択型HRMとは、その導入実態
第2回 個人選択型HRMを後押しする人材マネジメントや評価の特徴とは
第3回 社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント
第4回 副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念
第5回 異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響~個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型
第6回 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

調査概要
働き方改革の推進とスキル向上・社外人脈拡大に期待
労務管理や人材力・組織力の向上に課題認識あり
導入しない理由としては本業への影響に対する懸念が大きい
活用不十分群では実績ゼロも一定数
個別事情を勘案して幅広い就労形態を認める一定活用群
まとめ

調査概要

本調査レポートでは、個人選択型のHRMを、「仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群による人材マネジメント」と定義し、第1回、第2回では、23の施策群の導入実態と促進要因について紹介した。第3回では、その施策群のなかから、社内公募制度について、導入の目的や効果実感、運用の実態についてみてきた。

同じく個別施策の1つとして、第4回では、副業・兼業の許可について取り上げる。副業を希望する雇用者は増加傾向にあり(総務省「平成29年就業構造基本調査」)、個人にとって副業・兼業という選択への関心が近年高まっている。働き方改革の一環として政策面での普及促進も行われ、企業の対応も進んできているようにもみえるが、その実態についてはまだよく分からないことも多い。本レポートでは、副業・兼業許可の制度を導入している企業74社の導入目的や効果実感、運用の実態、そして、制度を導入していない130社の導入していない理由を紹介していく。

調査の実施時期、実施対象など調査概要は図表1のとおりである。

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

前回の社内公募制度と同様に、制度の活用状況別に結果を報告していく。なお、社内公募制度と異なり、副業・兼業許可は従業員規模による実施状況の違いがみられなかった。

働き方改革の推進とスキル向上・社外人脈拡大に期待

本調査レポートシリーズ第1回で紹介した個人選択型施策の導入状況において、「副業・兼業の許可」を導入していると回答(「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている」「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない」を選択)した74社に対して、制度導入の目的と効果実感について、それぞれ選択を求めた結果が図表2である。

<図表2>副業・兼業許可の目的と効果実感

貴社が副業・兼業を認めている理由や目的としてあてはまるもの、また、効果として実感しているものを、それぞれいくつでもお選びください。<複数回答/n=74>

<図表2>副業・兼業許可の目的と効果実感

政策において「柔軟な働き方がしやすい環境整備」として副業・兼業の普及促進が決定され、2020年9月、厚生労働省が公表しているガイドラインの改定と共に原則禁止から許可の方向へと舵が切られた。それにともない、企業としても働き方改革の一環として副業・兼業を許可する流れがみられ、当調査でも半数が「18.働き方改革の推進」を選択している。

もう1つ、目的として半数の選択率となっていたのは「7.従業員のスキル向上」である。キャリア形成支援として、「8.従業員の社外人脈の拡大」「9.従業員のリスキリング(re-skilling)の機会の提供」、人材発掘・獲得面での「14. 新たな知識・経営資源の獲得」への期待も確認された。

また、動機づけ・キャリア自律支援の対象として、若手・中堅社員に加えてシニア社員も視野にあることが、前回紹介した社内公募制度と異なる特徴といえる。さらには「13.優秀な人材の社外流出の抑制(離職率の低下)」も半数近くの選択率で、柔軟な働き方やキャリア支援を通じてリテンションにもつながると考えているようだ。

効果実感の選択率は、社内公募制度では3~5割が選択されている項目が複数あったことに比べると、総じて低い。最も高いもので「1.若手社員のモチベーション向上」の約2割で、続いて「3.中堅社員のモチベーション向上」「11.従業員の収入補填」「18.働き方改革の推進」などが選ばれている。コロナ禍で、収入補填が必要になったり、テレワークなど柔軟な働き方を選択する動きが加速したりしていることの表れともいえる部分もあるだろう。後述するように、制度として導入していても実際の利用実績がまだあまりない企業が多いために、効果実感を得られていない可能性も考えられる。

労務管理や人材力・組織力の向上に課題認識あり

それでは、副業・兼業を許可している企業での運用上の課題認識はどうだろうか。「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている(以下「一定活用」)」と「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない(以下「活用不十分」)」の活用実態別に結果をまとめたものが図表3である。

<図表3>副業・兼業許可の課題認識(活用実態別)

副業・兼業の運用上の問題点・課題として、あてはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=74>

<図表3>副業・兼業許可の課題認識(活用実態別)

活用度向上のポイント

一定活用群に比べて活用不十分群のほうが選択しているのは、「4.副業・兼業をしている従業員が、本業を疎かにしている」「5.会社のノウハウや機密情報が流出している」である。「6.従業員の副業・兼業のせいで、社内業務に支障が生じている」なども活用不十分群では選択されている。いずれも選択率は高くないが、一定活用群ではほとんど、あるいはまったく選択されていない。本業での成果や仕事の質に意識を向けさせるマネジメントや規範意識の強化、従業員の遵法意識の徹底が、副業・兼業許可を推進していく前提となりそうだ。

活用が進んだときに顕在化する課題

両群共に課題として選択されているが、特に一定活用群において選択率が高いのは「1.従業員の労務管理(労働災害)の問題やリスクがある」「3.副業・兼業の内容が、自社の人材力や組織力の向上につながると思われないものが多い」である。課題認識としては一定活用群・活用不十分群で共通していて、制度利用者が増えてくると、さらにその傾向が高まるものといえるだろう。

一方、「17.特に問題はない」という回答も多い。両群共に「2.制度運用等に関するノウハウが足りない」が一定数選択されていることからも、まだ運用が軌道に乗っておらず、制度利用者が多くないことにより問題が顕在化していないだけなのか、今後も経過をみていく必要がある。

導入しない理由としては本業への影響に対する懸念が大きい

前回レポート同様、導入企業の課題認識と非導入企業の導入しない理由の選択率を比較して、ギャップが大きかった項目を確認した(図表4)。導入しない理由は、本調査レポートシリーズ第1回で紹介した個人選択型施策の導入状況において、「副業・兼業の許可」を導入していないと回答(「導入・実施されておらず、予定もない」を選択)した130社によるものである。

<図表4>副業・兼業許可企業の課題認識と、非導入企業が副業・兼業を認めない理由の選択率のギャップ

導入しない理由:
貴社が副業・兼業を認めない理由として、あてはまるものをすべてお選びください。
<複数回答/n=130>

導入企業の課題認識:
副業・兼業の運用上の問題点・課題として、あてはまるものをすべてお選びください。
<複数回答/n=74>

<図表4>副業・兼業許可企業の課題認識と、非導入企業が副業・兼業を認めない理由の選択率のギャップ

導入しない理由としては「4.副業・兼業をする従業員が、本業を疎かにする」「6.従業員の副業・兼業のせいで、社内業務に支障が生じる」といった本業への影響をはじめとして、複数の理由が選ばれている。ただし、導入企業の課題としての選択率との間にはギャップがあり、状況によっては取り越し苦労に終わることの多い実体のない不安=杞憂である可能性も示唆される結果となった。

一方、導入企業の課題認識とのギャップが大きくなかったために図表4に挙げていない導入しない理由には「従業員の労務管理(労働災害)の問題やリスクがある」(45.4%)、「副業・兼業が、自社の人材力や組織力の向上につながるとは思われない」(33.1%)がある。これは前述の「制度活用が進んだときに顕在化する課題」とも共通している点である。自社の制度としての導入・非導入にかかわらず、副業・兼業許可について人事が感じている課題であるといえそうだ。

活用不十分群では実績ゼロも一定数

ここからは、副業・兼業を許可している企業の運用実態について、「一定活用」「活用不十分」別に集計した結果を紹介する。

全従業員に占める副業・兼業者の割合を聞いたところ(図表5-1)、活用不十分群では、実際の副業・兼業者は「0%」という回答が27.5%だった。一方、一定活用群では、「1~5%」が約半数であるが、「11~20%」という回答も1割ほどあり、利用者の割合に幅があるようだ。

<図表5-1>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):副業・兼業している従業員の割合

実際に、副業・兼業をしている従業員の、全従業員に占める割合をお答えください。
<自由記述をもとに分類/n=74>

<図表5-1>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):副業・兼業している従業員の割合

許可・推奨程度については(図表5-2)、両群共に約8割が「条件付きで一部認めている」を選択している。「全面的に認めている」も一定数いる。

<図表5-2>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):許可・推奨程度

貴社では、従業員の副業・兼業をどの程度認めていますか。<単一回答/n=74>

<図表5-2>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):許可・推奨程度

社内手続きについての回答をみると(図表5-3)、両群共に約8割が「届け出と審査を実施」、約2割が「届け出のみ」である。

<図表5-3>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):社内手続き

従業員の副業・兼業について、社内手続きはどのようにしていますか。<単一回答/n=74>

<図表5-3>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):社内手続き

条件付き、審査ありという企業は、どのような場合に認めているのだろうか。続いてみていこう。

個別事情を勘案して幅広い就労形態を認める一定活用群

副業・兼業許可の適用対象としては(図表5-4)、「適用資格は定めていない」というのが両群共に半数程度だが、一定活用企業では「勤続年数」を条件としている場合が2割程度ある。「その他」の条件としては、両群共に、労働時間、本業に支障がないことなどの記載があった。

<図表5-4>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):適用対象

副業・兼業について利用するための条件を設定していますか。制度の適用資格として、あてはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=74>

<図表5-4>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):適用対象

副業・兼業として認めている就労の範囲について聞いた結果が図表5-5である。両群共に、「同業他社で働くこと」は「認めない」とする回答が多い。それ以外の就労内容については、一定活用群において「認める」あるいは「条件次第で認める」とする割合が高く、個別事情を勘案し広く活用を進める姿勢が垣間みえる。

<図表5-5>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):認めている就労の範囲

次のような就労について、副業・兼業として認めていますか。<単一回答/n=74>

<図表5-5>副業・兼業許可の運用実態(活用実態別):認めている就労の範囲

まとめ

今回、限られた社数ではあるが、副業・兼業を許可している企業の運用実態や、許可していない企業の理由についてみてきた。前回の社内公募制度ほど一定活用・活用不十分の2群間での違いは明確でなく、一部の一定活用群の企業を除いて、自社にとっての望ましい形を模索中である様子がうかがえた。

本レポートでは割愛したが、現状の副業・兼業に関する法・制度についての考えについて自由記述で回答を求めたところ、「社会全体の流れとしては避けられないという一方で、企業にとってのメリットが分からない」というコメントもみられた。「どこまでを企業が責任をもって管理し、どこから自己責任とするのがよいのか」ということに対しても、各社各様の考えがあるようだ。「検討することが多過ぎて一律の制度として簡単には導入できない」という意見もあった。

一言で副業・兼業といっても、本業および副業・兼業となる職業の雇用形態、収入、労働時間は多様である。業種による雇用慣行の違いや秘密保持義務にまつわるリスクの程度、企業ごとの賃金水準や長時間労働の程度、人材観の違いもあり、副業・兼業を容認する目的、程度や方法に違いがあるのは当然のことだろう。

副業・兼業を希望する個人の動機もさまざまであり、金銭的動機と非金銭的動機(活躍できる場を広げたい、本当に好きな仕事をしたいなど)によって、本業と副業・兼業との関係や、副業・兼業の雇用形態や仕事内容も異なるという(川上淳之〔2021〕『「副業」の研究』慶應義塾大学出版会)。

厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の提示、労働者災害補償保険法の改正、雇用保険法の改正など、環境整備が進められつつあるなかで(※)、この多様な副業・兼業という選択を、自社にとって何のための制度と考えるのか、各社なりの検討、意思決定が求められるのではないだろうか。

※2020年9月に改定された厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業・兼業は原則労働者の自由とし、「例外的に、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができる」場合があるとして、「(1)労務提供上の支障がある場合(2)業務上の秘密が漏洩する場合(3)競業により自社の利益が害される場合(4)自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合」と記載されている。複数の会社で雇用されている労働者を対象に、労働者災害補償保険法も大きく改正された。2022年1月には、65歳以上に限定されるが、改正雇用保険法が施行され、副業・兼業者の雇用保険の適用範囲が一部拡大された。

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