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調査レポート

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ 第3回

社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント

  • 公開日:2022/06/27
  • 更新日:2024/05/16
社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント

弊社、組織行動研究所では、企業各社において、仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策がどのように検討され、導入、活用されているのかを調査し、296社の回答結果を報告書「ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメント─社内キャリアの可能性を広げる施策導入・活用のポイントと社内公募制度、副業・兼業制度の運用実態─」にまとめ発表した。本調査レポートではその報告書の内容を、全6回シリーズでご紹介していく。


第1回 ジョブ型時代のキャリア自律とタレントマネジメントにつながる個人選択型HRMとは、その導入実態
第2回 個人選択型HRMを後押しする人材マネジメントや評価の特徴とは
第3回 社内公募制度導入125社の運用実態と制度活用のポイント
第4回 副業・兼業許可74社の運用実態と非導入130社の懸念
第5回 異動・配置のポリシーミックスと組織能力への影響~個人選択型・選抜型・底上げ型・欠員補充型
第6回 個人選択型HRMの導入・活用に向けた3つのポイント

調査概要
目的は「キャリア支援」と「人材発掘」の両輪
制度活用が進むにつれ、安易な異動希望や不採用者の意欲低下も
社内公募制度を導入しない理由にみられる「3つの壁」
活用のポイントは募集職務の多様さ、応募資格の明示、上司の拒否権のなさ
まとめ

調査概要

本調査レポートでは、個人選択型のHRMを、「仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群による人材マネジメント」と定義し、第1回、第2回では、23の施策群の導入実態と促進要因について紹介した。

第3回では、個人が社内で自ら手を挙げて仕事を選択する社内公募制度を取り上げ、制度導入企業125社における導入理由・目的や効果実感および運用の実態、制度を導入していない109社における導入していない理由について報告する。

調査の実施時期、実施対象など調査概要は図表1のとおりである。

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

<図表1>「個人選択型HRMに関する実態調査2022」調査概要

社内公募制度の導入率については、従業員規模による違いがある(導入率:従業員規模1000名以上55.9%、1000名未満25.9%)。ただし、導入検討中(同14.9%、20.0%)は1000名未満の企業でも一定数みられ、第2回で紹介したように、社員に対してキャリア自律を求める度合いと社内公募制度導入との間の相関関係は、従業員規模を問わず確認されている。従業員規模が1000名未満の企業においても、社員のキャリアに関する考え方などの人事方針に応じて導入され得る施策であるといえるため、ここでは大企業中心の施策としては扱わずに、調査結果を紹介していくことにする。

目的は「キャリア支援」と「人材発掘」の両輪

本調査レポートシリーズ第1回で紹介した個人選択型施策の導入状況において、「社内公募制度(会社の内部で各部署が人材を募り、人材を確保する制度)」を導入していると回答(「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている」「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない」を選択)した125社に対して、制度導入の目的と効果実感について、それぞれ選択肢への回答を求めた結果が図表2である。

<図表2>社内公募制度導入の目的と効果実感

社内公募制度を導入している理由や目的としてあてはまるもの、また、効果として実感しているものを、それぞれいくつでもお選びください。<複数回答/n=125>

<図表2>社内公募制度導入の目的と効果実感

動機づけ・キャリア自律支援

社内公募制度導入の目的として中心的なのは、若手や中堅社員のモチベーション向上やキャリア自律支援である。なかでも、「1.若手社員のモチベーション向上」の選択率が最も高く、効果実感があるとの回答が半数を超え、手応えが感じられている様子がうかがえる。

「2.若手社員の自律的・主体的なキャリア形成支援」「3.中堅社員のモチベーション向上」「4.中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成支援」にも一定の効果実感がみられる。他方、シニア社員を対象とした動機づけ・キャリア自律支援については、目的、効果実感共に選択率は高くない。

社内キャリア形成支援

目的として、半数程度が「7.人事や上司が十分に把握できない個々の従業員の異動希望の実現」「9.選抜対象層以外の従業員のキャリア形成機会の拡大」を選んでいる。

社内キャリア形成支援策として、人事や上司主導の異動や、選抜型のタレントマネジメントと組み合わせる意図をもって社内公募制度を導入し、一定の効果実感もあるようだ。社内キャリアの選択肢を増やすことにより、「8.優秀な人材の社外流出の抑制(離職率の低下)」を目的とする企業も半数程度ある。

人材発掘・獲得

「12.新規事業・新規プロジェクトを担う人材の発掘」「13.業務量が急に拡大した部門や職務への人材供給」「14.優秀な人材の発掘」を目的とする企業も半数程度あり、人材を発掘するのに適した場面として効果実感のある企業も一定数みられる。また、個人の選択機会を尊重する姿勢を対外的に発信することで「15.優秀な人材の採用・獲得」への副次的な効果も期待されているようだ。

制度活用が進むにつれ、安易な異動希望や不採用者の意欲低下も

同じく制度導入企業に対して、運用上の課題認識を聞いた。「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている(以下「一定活用」)」「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない(以下「活用不十分」)」別に結果をまとめたものが図表3である。

<図表3>社内公募制度の課題認識(活用実態別)

社内公募制度の運用上の問題点・課題として、あてはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=125>

<図表3>社内公募制度の課題認識(活用実態別)

両群共に約4割が課題として選択していたのは「2.要員計画と調整ができず、社内公募によって抜けた部署・部門の人員の補充に苦労する」である。制度運用上の悩みとしてよく聞かれるものだが、活用状況にかかわらず課題となっているようだ。

活用度向上のポイント(一定活用群<活用不十分群)

活用不十分群の多くが選択しているものの一定活用群の選択率が高くない課題は、そこに活用度向上のヒントがあるといえるだろう。「1.募集ポジションのバリエーションが少ない」「3.社内公募制度を後押しするキャリア相談の仕組みなどがない」などである。導入企業が社内公募の運用を軌道に乗せる土台作りとして、募集ポジションのバリエーションを増やすことやキャリア相談の仕組みの整備が、活用度向上のポイントとなりそうだ。


制度活用が進んだときに顕在化する課題(一定活用群>活用不十分群)

一方、一定活用群の方が多く選択しているものは、制度活用が進んだときに顕在化する課題と考えられる。運用が軌道に乗って応募者が増えてくると、「6.現状から逃避するための安易な異動希望がみられる」ということにもなる。また、「15.不採用となった場合に、応募した従業員の転職意向が高まる」「18.募集側が即戦力を希望するため、異動者がなかなか決まらない」など、応募があっても異動決定に至らないケースが増えることに関連する課題もあるようだ。

さらには応募者の異動が決定した場合に、「16.流出した部署内の他メンバーの意欲低下が生じる」というように、当事者だけでなく周囲の社員への影響にも配慮が必要だ。

社内公募制度を導入しない理由にみられる「3つの壁」

続いて、個人選択型施策の導入状況で、「社内公募制度(会社の内部で各部署が人材を募り、人材を確保する制度)」について「導入・実施されておらず、予定もない」を選択した109社に対して、導入しない理由を聞いた結果を紹介する。

制度を導入しない理由の項目は、前項でみた導入企業の課題認識の項目と比較できるように内容を揃えた。図表4は、選択率のギャップが大きかった項目を取り上げたものである。

<図表4>社内公募制度導入企業の課題認識と非導入企業が導入しない理由の選択率のギャップ

導入しない理由:
社内公募制度を導入していない理由として、あてはまるものをすべてお選びください。
<複数回答/n=109>

導入企業の課題認識:
社内公募制度の運用上の問題点・課題として、あてはまるものをすべてお選びください。
<複数回答/n=125>

<図表4>社内公募制度導入企業の課題認識と非導入企業が導入しない理由の選択率のギャップ

そこには、3種類のギャップがあると解釈した。第1に「人材の壁」。社内公募制度を運用する人的な余裕やノウハウの不足。第2に「意識の壁」。個人にとっての社内キャリアを後押しする機運や機会がないこと。これらが導入・非導入企業を分けているとも考えられる。

第3に「杞憂(きゆう)の壁」。社内には中途採用に匹敵する人材がいない、異動前後の処遇調整が難しいといった懸念である。これらは導入企業の課題認識としての選択率が低いため、状況によっては取り越し苦労に終わることの多い実体のない不安、つまり杞憂である可能性がある。

なお、導入企業の課題認識の選択率との間に差がなかった導入しない理由としては、「社内公募できるポジションがない・少ない」(44.0%)、「現状から逃避するための安易な異動希望が増える」(42.2%)、「部門間の引き抜きとなり、部署間の関係性が悪化する」(40.4%)が多く選ばれていたことを付け加えておく。

活用のポイントは募集職務の多様さ、応募資格の明示、上司の拒否権のなさ

ここからは、社内公募制度の運用実態についてみていこう。図表3と同様に一定活用・活用不十分群に分けて集計した。2群間で統計的に有意な差が確認されたところを中心に、結果をみていきたい。

一定活用群は活用不十分群に比べて「制度を利用できる募集ポジションを限定していない」(図表5-1)、公募異動の範囲が「グループ会社・関連会社内」(図表5-2)の選択率が高い。図表3で明らかになったように、募集ポジションのバリエーションを増やすことは制度活用促進のポイントであり、制度の適用範囲を広く捉え直してみることが有効と考えられる。

<図表5-1>社内公募制度の運用実態(活用実態別):募集職務の制限

社内公募制度で人材募集できる職務やポジションを限定していますか。限定している範囲としてあてはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=125>

<図表5-1>社内公募制度の運用実態(活用実態別):募集職務の制限

<図表5-2>社内公募制度の運用実態(活用実態別):公募異動の範囲

社内公募の範囲としてあてはまるものを、すべてお選びください。<複数回答/n=125>

<図表5-2>社内公募制度の運用実態(活用実態別):公募異動の範囲

応募資格について一定活用群の方が多く選択しているのは「現在の部署の在籍年数」である(図表5-3)。前述のように活用される範囲が広いほど、育成・要員計画への影響の考慮や、安易な異動の抑止への配慮が必要となることの表れかもしれない。

<図表5-3>社内公募制度の運用実態(活用実態別):応募資格

社内公募制度を利用できる従業員を限定していますか。応募資格として設定しているものについて、あてはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=125>

<図表5-3>社内公募制度の運用実態(活用実態別):応募資格

応募者の上司の関わりとしては、両群共に「応募している(した)事実は、上司に知らされない」が7割近く選択されているが、「決定後、上司に拒否権はない」については一定活用群の選択率が高い。図表3の課題認識において、「7.現場の上司が優秀な従業員を抱え込み、異動が実現しない」の選択が活用不十分群より少なかったのは、一定活用群ではこのような運用上の工夫をしているからと考えられる。

<図表5-4>社内公募制度の運用実態(活用実態別):応募者上司の関わり

応募社員の上司の関わり方としてあてはまるものを、すべてお選びください。<複数回答/n=125>

<図表5-4>社内公募制度の運用実態(活用実態別):応募者上司の関わり

まとめ

個人選択型HRMに関する実態調査レポートシリーズ第3回では、社内公募制度の運用実態について紹介した。一定程度の効果実感は確認されたが、さらなる効果的な活用に向けて、いくつかのポイントがみえてきた。

社内公募の運用を軌道に乗せる土台作りとしては、募集ポジションのバリエーションの拡充、キャリア相談の仕組みの整備、決定後の上司の拒否権をなくすことなどがポイントとなるようだ。受け皿を増やし、新たな選択の後押しをして、優秀人材の組織内での囲い込みをなくすことによって、自社の目的に応じた成功事例を少しずつ増やしていくことが、次の一歩につながるのではないだろうか。

一方、制度の活用が進むにつれ、募集が増えて個人が応募しやすくなると、安易な異動希望が増える、応募しても異動決定に至らない、などのアンマッチが生じやすくなる。実際に本調査で前年実績について実数での回答を求めたところ、一定活用群では、募集者数に比して応募者数が多い、応募者数に比して決定者数が少ないといったケースが多く、制度活用が進むほど異動が不成立となる場面も増加している(詳細は報告書P10図表2-5参照)。

せっかく動機づけを意図して制度を導入したとしても、運用の過程で当事者や周囲の社員の意欲がそがれることが多くなると、さらなる活用が阻まれたり、本来の目的に到達しにくくなったりするだろう。選択機会が増えて柔軟に異動希望を出せることと、安易に異動希望を出すこととの区別は難しいところだが、魅力と同時にチャレンジ度合いも伝わる募集内容の記述、応募資格や選考基準の整備など、適切な候補者が応募に至るための工夫が必要となる。

そして、アンマッチの増加により不採用になるケースが増えることに対しては、チャレンジを推奨する風土や、応募時に上司に知られないようにすることなど運用プロセスにおける心情面への配慮も求められるだろう。

社内公募制度をうまく運用できれば、個人の社内キャリアの可能性を広げることも可能になるが、当然のことながら制度を導入すれば個人選択型HRMが機能するというわけではない。社内公募制度に限ったことではないが、導入するなら、自社にとっての目的を定め、それに応じた運用プロセスの設計と工夫を行う必要がある。他の方法で個人の選択機会を担保できるのであれば、あえて社内公募制度を導入しないという選択もあるだろう。

社内公募制度の運用実態についての調査は多くないため、今回、調査実施を試みた。本調査結果が、個人選択型HRMの施策としての社内公募制度の導入可否、導入する場合の運用上の工夫を検討するうえで、参考になれば幸いである。

次回は、同じく個別施策として、副業・兼業許可の実態について紹介する。

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